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王女とソンドール
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リュスティリア王女のメットリア訪問前日、呼び出されたリーリルハとソンドールは城を訪ねている。
リュスティリアが管理する庭はやや低い気温ながら日が当たり、季節の花々が咲き乱れている。その中をくり抜いたように四阿が建てられ、リュスティリアが手を振っていた。
「リルハ、よく来てくれたわ。此度は・・・ありがとう。そちらが噂の婚約者かしら」
「コイント子爵家のソンドールと申します」
リーリルハの半歩前に身をだして挨拶する姿を、リュスティリアは羨ましげに見ていた。
「ふふっ。パートルム家の顔立ちね」
「はあ」
「貴方にも大変世話になったときいているわ。礼を言います。さあ座って」
女官に茶を運ばせると、すぐに下がらせ、身を乗り出してきた王女の眼力に、思わず身を引いてしまうソンドールである。
「さっきも言ったけれど、カジューン王子のことありがとう。これで忌々しいあの男と結婚しなくて済んだわ。ねえ、前の婚約者のことはいいのかしら」
「はい、妹のようだと、家族として思いあっていると仰られて」
「そう・・・」
おずおずとリーリルハが口を開く。
「あの、リア殿下は真実の相手がいるティンバー様は許せず、毒のせいで婚約者を諦めるしかなかったカジューン王子なら良いとおっしゃいましたが、カジューン王子のほうが想いが別れた方に残るとは思われなかったのですか?」
「思ったけど」
「え?それなのに何故カジューン王子を」
「夜会のときに聞いてしまったと話したわよね?あの時ティンバーは、二十も年上の毒婦に、貴女を裏切ることはないが役目として王女との子はなさねばならない。でも心を通わせることはないし、時が来たら王女は病に臥せったことにすればいいって言ったのよっ」
「なんと、ふ、不誠実で不敬なことを」
リルハは驚き過ぎて口が開いている。
「あの時。騒ぎ立ててやろうかとも思ったけど、まだ婚約しているわけでもないから、ティンバーの年上趣味とあの毒婦の不貞がバレるくらいのことで終わってしまうわ。そこにリーリルハの新しい婚約者もまたパートルム家の血筋だと知った。だから!」
リーリルハとソンドールは揃って小首を倒した。
「だからよ!パートルムの者なら、この話に食いつかないわけがない。クィードを引きずり下ろし、私に望み通りの婚約を献上してくれるに違いないとね。何しろクィードはずっと前からパートルムの目の上のたんこぶだったのだから」
この上なく悪そうに、リュスティリア王女はニヤリと笑うのだった。
「そんなティンバーに比べたら、カジューン王子の婚約者への想いはしようもないものよ。それには一生勝てないかもしれないけど、王子はそれはそれとして、私を妻として尊重してくれると思ったの。蔑ろにされていると知っているのに、口では大切だーとか愛してるーとか言って誤魔化す気満々のろくでなしより、健康上の理由で諦めざるを得なかった婚約者に想いを残しながらも私と夫婦になる努力をしてくれる男。
リルハならどうする?」
「えっ?わ、わたくしですか?」
ソンドールも聞きたいと身を乗り出したが。
「私わかりません、だってずっとソンドール様といるつもりですもの」
うふふと笑いながら、言葉を漏らすリーリルハにソンドールも身をくねらせて照れている。
「貴方達、鬱陶しい!」
リュスティリア王女に手で払われた。
「とにかく!私が知るカジューン王子は誠実な方だったから、それに賭けたのよ」
短い時間でカジューンが何を考え、決断したかを知るソンドールだが、政略だからといって王女を蔑ろにはしないと思えた。
「それは当たりだと思います。カジューン殿下は例え心で想いきれない相手がいても、縁あって結婚する相手を大切にするのは当然だ。それができないような不誠実な男なんて、男の風上おけんと仰られておられました。きっと王女殿下を大切になさることと思います」
ソンドールの言葉は、強がっていたリュスティリアの心を揺らすのに十分だった。
■□■
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リュスティリアが管理する庭はやや低い気温ながら日が当たり、季節の花々が咲き乱れている。その中をくり抜いたように四阿が建てられ、リュスティリアが手を振っていた。
「リルハ、よく来てくれたわ。此度は・・・ありがとう。そちらが噂の婚約者かしら」
「コイント子爵家のソンドールと申します」
リーリルハの半歩前に身をだして挨拶する姿を、リュスティリアは羨ましげに見ていた。
「ふふっ。パートルム家の顔立ちね」
「はあ」
「貴方にも大変世話になったときいているわ。礼を言います。さあ座って」
女官に茶を運ばせると、すぐに下がらせ、身を乗り出してきた王女の眼力に、思わず身を引いてしまうソンドールである。
「さっきも言ったけれど、カジューン王子のことありがとう。これで忌々しいあの男と結婚しなくて済んだわ。ねえ、前の婚約者のことはいいのかしら」
「はい、妹のようだと、家族として思いあっていると仰られて」
「そう・・・」
おずおずとリーリルハが口を開く。
「あの、リア殿下は真実の相手がいるティンバー様は許せず、毒のせいで婚約者を諦めるしかなかったカジューン王子なら良いとおっしゃいましたが、カジューン王子のほうが想いが別れた方に残るとは思われなかったのですか?」
「思ったけど」
「え?それなのに何故カジューン王子を」
「夜会のときに聞いてしまったと話したわよね?あの時ティンバーは、二十も年上の毒婦に、貴女を裏切ることはないが役目として王女との子はなさねばならない。でも心を通わせることはないし、時が来たら王女は病に臥せったことにすればいいって言ったのよっ」
「なんと、ふ、不誠実で不敬なことを」
リルハは驚き過ぎて口が開いている。
「あの時。騒ぎ立ててやろうかとも思ったけど、まだ婚約しているわけでもないから、ティンバーの年上趣味とあの毒婦の不貞がバレるくらいのことで終わってしまうわ。そこにリーリルハの新しい婚約者もまたパートルム家の血筋だと知った。だから!」
リーリルハとソンドールは揃って小首を倒した。
「だからよ!パートルムの者なら、この話に食いつかないわけがない。クィードを引きずり下ろし、私に望み通りの婚約を献上してくれるに違いないとね。何しろクィードはずっと前からパートルムの目の上のたんこぶだったのだから」
この上なく悪そうに、リュスティリア王女はニヤリと笑うのだった。
「そんなティンバーに比べたら、カジューン王子の婚約者への想いはしようもないものよ。それには一生勝てないかもしれないけど、王子はそれはそれとして、私を妻として尊重してくれると思ったの。蔑ろにされていると知っているのに、口では大切だーとか愛してるーとか言って誤魔化す気満々のろくでなしより、健康上の理由で諦めざるを得なかった婚約者に想いを残しながらも私と夫婦になる努力をしてくれる男。
リルハならどうする?」
「えっ?わ、わたくしですか?」
ソンドールも聞きたいと身を乗り出したが。
「私わかりません、だってずっとソンドール様といるつもりですもの」
うふふと笑いながら、言葉を漏らすリーリルハにソンドールも身をくねらせて照れている。
「貴方達、鬱陶しい!」
リュスティリア王女に手で払われた。
「とにかく!私が知るカジューン王子は誠実な方だったから、それに賭けたのよ」
短い時間でカジューンが何を考え、決断したかを知るソンドールだが、政略だからといって王女を蔑ろにはしないと思えた。
「それは当たりだと思います。カジューン殿下は例え心で想いきれない相手がいても、縁あって結婚する相手を大切にするのは当然だ。それができないような不誠実な男なんて、男の風上おけんと仰られておられました。きっと王女殿下を大切になさることと思います」
ソンドールの言葉は、強がっていたリュスティリアの心を揺らすのに十分だった。
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