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ソンドール挟み打ち
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メットリア王国に無事着いた一行は王宮へと迎え入れられた。
カジューンの離宮ではなく、王城の客間に通されて三日目。
今は離宮の庭で茶会中だが。
リュスティリアとカジューンに挟まれ、ソンドールが小さくなっていた。
「あの、せっかくの機会ですから、俺、いや私を挟むのではなく、おふたりだけでお話しされたら如何ですか」
居心地悪そうにソンドールが勧めるのだが、ふたりの王族は面白そうに首を左右に振って拒否する。
(息ぴったりだな)
ある意味で感心させられるが、このポジションにはうんざりだった。
「リュスティリア王女殿下」
「なあに?」
天使のように微笑むが、ソンドールは騙されない。知っているのだ、リーリルハを絡め取り、カジューンとの縁組みを画策させたことを。
だから言ってやった。
「本当にようございましたね、密かにお慕いされていたカジューン王子殿下と婚約が整われて。家臣として殿下がお幸せになられることを喜ばしく思っております」
「まっ!」
本当にカジューン王子を慕っていたかは知らないが、結婚したがっていたのは本当のこと。
真っ赤な顔でアワアワするリュスティリアに、態とにこにことしながらそろそろ下がっていく。
ちらりと見えたカジューンは、笑うのを必死に堪えて小さく震えていた。
無事に逃げ出したソンドールは、他の護衛と交代して宿舎へ戻り、明日のリュスティリアからの小言に備えることにしたが、翌朝、リュスティリアを迎えに行くと上機嫌で迎えられる。
「ソンドールおはよ」
「おはようございます、リュスティリア殿下」
「昨日はやってくれたわね」
「さて、何のことでしょうか」
「ふん、まあよろしくてよ。お陰でカジューン王子と打ち解けられたから」
「え?」
ふふんと笑うと、リュスティリアは背中を向ける。
ガラス窓に映る顔は、こう言っては何だがだらしなく緩んで、へらへらと笑っていた。
「結婚式が楽しみですね」
「そうねっ」
一矢報いる気で言ったのに、上手くいってしまったソンドールは不満顔だが、これでリーリルハがリュスティリアから解放されるのだと頭を切り替えた。
交代の時間となり、リュスティリアから離れたのを見計らったように、今度はカジューンが現れる。
(なんだよ、今度はこっちか。まったく本当に息ぴったりで似合いだよ似合い!)
心の中で毒づきつつ、手招きで呼び寄せようとしているカジューンのもとへ歩み寄った。
「ソンドール、昨日はやってくれたな」
(言う事まで同じとは)
「なあ、リュスティリア王女にも訊ねたんだが、あれは本当のことか?」
ソンドールはこてんと首を傾げてとぼけて見せる。
「だからあれだよ、あれ」
「ああ、アレですか。リュスティリア殿下はなんて?」
「恥ずかしがって教えてくれなかった」
「それこそが答えじゃないですか」
「う、まあそうとは思うが、ちゃんと聞きたいんだよ」
気持ちは分からないでもない。
「ソンドールは婚約者殿と気持ちを確かめあったのか?」
「え?え、ええ」
キラリンと王子の瞳が光を放つ。
「ど、どうやって?ソンドールから言ったのか?」
「いやー、どうだったかなあ」
「とぼけるなよ!そんな大切なことを忘れるわけがないぞ」
本当に覚えてないのだが、そう睨まれて、仕方なく考え込む振りをする。
「・・・」
しかし覚えていないものはどうしようもない。
「俺から言いました。リルハが、あっ、リルハっていうんですけど。リルハが可愛いし大切だって」
カジューン王子は意外そうに目を見開いている。
「ソンドールが?へえ・・・」
「へえって、なんですそれ」
「そんな甘いことを囁くようには見えないから」
「悪かったですね!でも俺のリルハは本当に美人だけど可愛らしくて、やさしくて、よく笑うし、まあ怒ると怖いけど、そういうすべてが最高なんです。会えばわかりますよ!」
ソンドールは口を滑らせたことに気づかなかった。
■□■
お知らせです。
ファンタジー「呪われ令嬢、猫になる」を公開しています。
こちらもよろしくお願いいたします。
カジューンの離宮ではなく、王城の客間に通されて三日目。
今は離宮の庭で茶会中だが。
リュスティリアとカジューンに挟まれ、ソンドールが小さくなっていた。
「あの、せっかくの機会ですから、俺、いや私を挟むのではなく、おふたりだけでお話しされたら如何ですか」
居心地悪そうにソンドールが勧めるのだが、ふたりの王族は面白そうに首を左右に振って拒否する。
(息ぴったりだな)
ある意味で感心させられるが、このポジションにはうんざりだった。
「リュスティリア王女殿下」
「なあに?」
天使のように微笑むが、ソンドールは騙されない。知っているのだ、リーリルハを絡め取り、カジューンとの縁組みを画策させたことを。
だから言ってやった。
「本当にようございましたね、密かにお慕いされていたカジューン王子殿下と婚約が整われて。家臣として殿下がお幸せになられることを喜ばしく思っております」
「まっ!」
本当にカジューン王子を慕っていたかは知らないが、結婚したがっていたのは本当のこと。
真っ赤な顔でアワアワするリュスティリアに、態とにこにことしながらそろそろ下がっていく。
ちらりと見えたカジューンは、笑うのを必死に堪えて小さく震えていた。
無事に逃げ出したソンドールは、他の護衛と交代して宿舎へ戻り、明日のリュスティリアからの小言に備えることにしたが、翌朝、リュスティリアを迎えに行くと上機嫌で迎えられる。
「ソンドールおはよ」
「おはようございます、リュスティリア殿下」
「昨日はやってくれたわね」
「さて、何のことでしょうか」
「ふん、まあよろしくてよ。お陰でカジューン王子と打ち解けられたから」
「え?」
ふふんと笑うと、リュスティリアは背中を向ける。
ガラス窓に映る顔は、こう言っては何だがだらしなく緩んで、へらへらと笑っていた。
「結婚式が楽しみですね」
「そうねっ」
一矢報いる気で言ったのに、上手くいってしまったソンドールは不満顔だが、これでリーリルハがリュスティリアから解放されるのだと頭を切り替えた。
交代の時間となり、リュスティリアから離れたのを見計らったように、今度はカジューンが現れる。
(なんだよ、今度はこっちか。まったく本当に息ぴったりで似合いだよ似合い!)
心の中で毒づきつつ、手招きで呼び寄せようとしているカジューンのもとへ歩み寄った。
「ソンドール、昨日はやってくれたな」
(言う事まで同じとは)
「なあ、リュスティリア王女にも訊ねたんだが、あれは本当のことか?」
ソンドールはこてんと首を傾げてとぼけて見せる。
「だからあれだよ、あれ」
「ああ、アレですか。リュスティリア殿下はなんて?」
「恥ずかしがって教えてくれなかった」
「それこそが答えじゃないですか」
「う、まあそうとは思うが、ちゃんと聞きたいんだよ」
気持ちは分からないでもない。
「ソンドールは婚約者殿と気持ちを確かめあったのか?」
「え?え、ええ」
キラリンと王子の瞳が光を放つ。
「ど、どうやって?ソンドールから言ったのか?」
「いやー、どうだったかなあ」
「とぼけるなよ!そんな大切なことを忘れるわけがないぞ」
本当に覚えてないのだが、そう睨まれて、仕方なく考え込む振りをする。
「・・・」
しかし覚えていないものはどうしようもない。
「俺から言いました。リルハが、あっ、リルハっていうんですけど。リルハが可愛いし大切だって」
カジューン王子は意外そうに目を見開いている。
「ソンドールが?へえ・・・」
「へえって、なんですそれ」
「そんな甘いことを囁くようには見えないから」
「悪かったですね!でも俺のリルハは本当に美人だけど可愛らしくて、やさしくて、よく笑うし、まあ怒ると怖いけど、そういうすべてが最高なんです。会えばわかりますよ!」
ソンドールは口を滑らせたことに気づかなかった。
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