【完結】君を傷つけるつもりはなかったと、浮気者の婚約者が叫んでいます。

やまぐちこはる

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第3話

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「一人手堅い男がいる」
「ゾイルでしょう?」

 シューラも同じことを考えていたが。

「いや」
「え?ゾイル以外に財産を預けられるほどの者がおりますか?」
「うむ。信用はできる、私が知る誰よりも。力もあり適任だろう」


 何しろソネイル子爵からの話がなければ、シューラの婿には彼の息子をもらいたかったくらいなのだ。


 マイクスが選んだのは、同じ平民でも先代テルド伯爵の落し胤と囁かれるノルディーン商会長ボルトン・ノルズだった。
 ボルトン自身は噂を肯定も否定もせず、ただ泰然としている。信用第一を信条とし、富を独り占めせず分け合いながら皆で豊かになろうという理想を掲げて実践する、商人としては変わり者と言えるだろう。
 しかし、そんなバカ正直な信条が売りでも決して騙されたりはしない、卓越した調査能力と交渉力を誇り、騙そうとして返り討ちにされた愚か者も数多くいた。

 ボルトンには息子が三人おり、マイクスはその次男に目をつけていたのだが、動き出すのが少し遅かった。
 ソネイル子爵から共同事業を持ちかけられ、より強い繋がりを結ぼうとシューラの婿の座を狙われたのだ。

 ふと、マイクスの脳裡に閃くものがあった。

 シューラの婿にズーミーを押し込み、レインスルの財産を手に入れることが本来の目的で、共同事業はその手段に過ぎなかったのではないかと。
 マイクスは今更気づいて、己の愚かさに歯軋りしたのだった。



 
 ボルトン・ノルズのもとに、マイクス・レインスル男爵から訪問の打診があったのは、その翌日。

「レインスル男爵から急ぎの相談?珍しい申し出だな、では二日後の午後と返事を」

 メッセンジャーを下がらせたボルトンに、腹心のユルガ・ジョナスが首を傾げていた。

「珍しいことですね」
「ああ。確かに」

 ソネイル子爵家と事業を始めてから、ボルトンはマイクスに一線を引いて接している。

「嫌なヤツに目をつけられたものだよ、気の毒にな」

 ボルトンはソネイル子爵をよく知っていた。金遣いが荒く、借金まみれというのに浪費がやめられない、典型的などうしようもない貴族である。
 


「一体何の用だろうな?うちの扱い品に欲しいものでもあるのだろうか」







「久方ぶりです、本日はお時間を頂きありがとうございます」

 マイクスはボルトンが平民だからといって居丈高な扱いをすることはない。礼儀を弁えた丁寧な挨拶をした。

「いえ、レインスル男爵にお声をかけて頂いてちょうどよかったです。久しぶりに情報交換などもしたかったので」

 ボルトンはうっすらと笑みを浮かべた。
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