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第12話
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「さて、ではソネイル子爵」
何故かヨノイ・テルド伯爵が口を開いたので、ソネイル子爵が言葉を返す。
「あの、何故ここにテルド伯爵がいらしたのでしょうか?」
「ああ。私は今後ノルディーン商会とレインスル商会が起こす事業を後見し、共同出資もすることになったのだよ。しかし運命共同体となったレインスル男爵家や商会をもし、ソネイル家の令息がめちゃくちゃにするようなことがあれば、私は大損しかねないだろう?
貴殿の令息の素行を聞きつけてから、心配で我慢ならなくなってね。今日のことを聞いて、ついてきたのだよ」
ソネイル子爵は顔を顰めながら俯いた。
その様子を見てニヤリとするヨノイの先程の言葉は、半分本当、半分は嘘だ。
実子ボルトンの誘いに応じただけ。
─面白そうだから。
そして可愛い孫の最良な婿入り先確保のため─
事情はボルトンから聞いている。
気に入りだったメイドはヨノイの子を孕むと、嫉妬深い正妻の目を避けて母子で市井に逃れ、ボルトンを生んで、ヨノイの支援を受けながら女手一つで育てていた。
しかしボルトン15歳のときに母は流行り病で亡くなる。独りぽっちになった子を引き取ろうとしたヨノイに対し、ボルトンは伯爵家の籍に入る気はないと断り、代わりに跡継ぎのいない商会に養子に入りたいから紹介してくれと言ったのだ。
ヨノイは伯爵家の子として認められることを息子が喜ぶと思っていたので驚いたが、平民育ちのボルトンには小さな頃ならまだしも、今更貴族社会には馴染めないし、ヨノイの正妻との無用な摩擦を避けるためにも平民のまま過ごしたいと訴えた。
そう言われては仕方ないと、テルド伯爵家子飼いのひとつ、子の無いノルディーン商会長ジョイエラ・ノルズの養子に押し込んだのだ。
ジョイエラの息子となったボルトンは、よく学びよく働いた。
当然のようにノルディーン商会の後継者となり、ヨノイの妻ポリエラが亡くなってからはテルド伯爵家の全面的な後援を受け、事業を拡大し続けている。
ボルトンが信用第一を掲げるのは、テルド伯爵家の庇護下にあり、あまりにもヨノイに瓜二つの容姿を持つため誤魔化しようがない自分の出自にあった。
一線を画して平民社会に留まり、次期テルド伯爵で、血を分けた兄でもあるユイズとも良好な関係を築くボルトンは、自らの言動がテルド伯爵家に何らかの影響を及ぼす可能性を弁えている。
誰にでも穏やかに接し、さすがテルド伯爵家の血筋と言われることを意識しているのだ。
兄との付き合いの中で知った貴族の、義務とそれに伴う権利や利権。
商会に養子に来たことを後悔はしないが、貴族社会に入ることを面倒くさがったことはもったいないことをしたと後悔した。
だからこそ貴族の血を持つ自分のこどもたちには、機会があれば臆すことなくそちらの社会にも入れるよう教育を施してきた。
「レインスル男爵家にスタイスが婿入りするという案、すごくいいと思うぞ」
ヨノイもユイズも、不逞の輩ズーミー・ソネイルを排除してスタイスを次のシューラの婚約者にしたいというボルトンの企みに大賛成し、バックアップを始める。
今日この場にヨノイがいるのも、その一環。ユイズも来たがったが、大袈裟になりすぎるとボルトンに説得されて、渋渋諦めたのだった。
マイクスとボルトンは示し合わせ一つしていなかったが、見事なほど同じことを考え、シューラとスタイスの婚約に向けて着々とソネイル一家を追い込んでいった。
何故かヨノイ・テルド伯爵が口を開いたので、ソネイル子爵が言葉を返す。
「あの、何故ここにテルド伯爵がいらしたのでしょうか?」
「ああ。私は今後ノルディーン商会とレインスル商会が起こす事業を後見し、共同出資もすることになったのだよ。しかし運命共同体となったレインスル男爵家や商会をもし、ソネイル家の令息がめちゃくちゃにするようなことがあれば、私は大損しかねないだろう?
貴殿の令息の素行を聞きつけてから、心配で我慢ならなくなってね。今日のことを聞いて、ついてきたのだよ」
ソネイル子爵は顔を顰めながら俯いた。
その様子を見てニヤリとするヨノイの先程の言葉は、半分本当、半分は嘘だ。
実子ボルトンの誘いに応じただけ。
─面白そうだから。
そして可愛い孫の最良な婿入り先確保のため─
事情はボルトンから聞いている。
気に入りだったメイドはヨノイの子を孕むと、嫉妬深い正妻の目を避けて母子で市井に逃れ、ボルトンを生んで、ヨノイの支援を受けながら女手一つで育てていた。
しかしボルトン15歳のときに母は流行り病で亡くなる。独りぽっちになった子を引き取ろうとしたヨノイに対し、ボルトンは伯爵家の籍に入る気はないと断り、代わりに跡継ぎのいない商会に養子に入りたいから紹介してくれと言ったのだ。
ヨノイは伯爵家の子として認められることを息子が喜ぶと思っていたので驚いたが、平民育ちのボルトンには小さな頃ならまだしも、今更貴族社会には馴染めないし、ヨノイの正妻との無用な摩擦を避けるためにも平民のまま過ごしたいと訴えた。
そう言われては仕方ないと、テルド伯爵家子飼いのひとつ、子の無いノルディーン商会長ジョイエラ・ノルズの養子に押し込んだのだ。
ジョイエラの息子となったボルトンは、よく学びよく働いた。
当然のようにノルディーン商会の後継者となり、ヨノイの妻ポリエラが亡くなってからはテルド伯爵家の全面的な後援を受け、事業を拡大し続けている。
ボルトンが信用第一を掲げるのは、テルド伯爵家の庇護下にあり、あまりにもヨノイに瓜二つの容姿を持つため誤魔化しようがない自分の出自にあった。
一線を画して平民社会に留まり、次期テルド伯爵で、血を分けた兄でもあるユイズとも良好な関係を築くボルトンは、自らの言動がテルド伯爵家に何らかの影響を及ぼす可能性を弁えている。
誰にでも穏やかに接し、さすがテルド伯爵家の血筋と言われることを意識しているのだ。
兄との付き合いの中で知った貴族の、義務とそれに伴う権利や利権。
商会に養子に来たことを後悔はしないが、貴族社会に入ることを面倒くさがったことはもったいないことをしたと後悔した。
だからこそ貴族の血を持つ自分のこどもたちには、機会があれば臆すことなくそちらの社会にも入れるよう教育を施してきた。
「レインスル男爵家にスタイスが婿入りするという案、すごくいいと思うぞ」
ヨノイもユイズも、不逞の輩ズーミー・ソネイルを排除してスタイスを次のシューラの婚約者にしたいというボルトンの企みに大賛成し、バックアップを始める。
今日この場にヨノイがいるのも、その一環。ユイズも来たがったが、大袈裟になりすぎるとボルトンに説得されて、渋渋諦めたのだった。
マイクスとボルトンは示し合わせ一つしていなかったが、見事なほど同じことを考え、シューラとスタイスの婚約に向けて着々とソネイル一家を追い込んでいった。
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