【完結】呪われ令嬢、猫になる

やまぐちこはる

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呪われたエザリア

正気のブラス

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「ありがとうナレス」


 ブラス・サリバーが発した言葉は、ナレスが覚悟したものとはまったく違っていた。

「え?信じてくださるのですか?」

 不思議そうに訊ねたナレスの意図を感じて暫く言い淀んだあと、思い切ったようにブラスが口を開く。



「・・・・・・思い当たることがある。

気のせいだと思っていたんだが、実は屋敷や店にいると頭にモヤがかかったように思考が鈍くなる気がしていた」
「なんと!」
「それに、そんなこと思っていないのに、そう思わなければいけないような、なんというか自分の思いや考えが口から出る前に無理矢理捻じ曲げられているような違和感があったんだ。
これを読んで、漸く腑に落ちた」

 ホッと、誰かがため息を吐いた。
ナレスはツィカたちを見回し、緊張が解れたように笑う。

 それを見て、ブラスは気がついた。

「ナレスよ、もしかしてこの数日の取ってつけたようような追加商談はこのためだったのか?」

 困ったように眉尻を下げたナレス。

「騙すようなことをして申し訳ございません」
「では牡蠣のオイル漬けも?」
「いえ、それはツィカたちが元々目をつけていたもので。丁度良かったというやつです」

 ナレスの言葉に応えてこくりと若者たちが頷くのを目にすると、ブラスは立ち上がり頭を下げた。

「そんな!ブラス様頭を上げてください!」

「いや、売上に対する報奨金どころではない。本当に忠実に仕えてくれているからこそ、私の異変に気づいてくれたのだ。この件が片付いたら相応の対応を約束しよう。
でも牡蠣のオイル漬けを気に入ったのは本当だからな、それは報奨金も含め約束どおりうちで扱うぞ」

 シュマーの影響から逃れたブラスが宣言した。

「エザリアが無事に保護されていることも何よりの知らせだ。護衛がついたのはナレスの手配だろう?本当にどれほど感謝してもし足りない。
それにしても私としたことが、シュマー如きにみすみす騙されるとはな」

 ぐっと拳を握り、忌々しげに呟くブラス。
ナレスは気の毒そうな表情をほんの一瞬、すぐに打ち消して毅然と言う。

「それは違います。シュマーはなんらかの呪術でブラス様を操ったに違いないんですから、どうしようもなかった!」
「しかし、魔封じなどの対策をしておけば」
「ブラス様さっきの手紙ちゃんと読みましたか?最新の魔封じ以外、この呪術師には歯が立たないんですよ!」
「あ、ああそうだったな。恐ろしい敵だ・・」


 何か思いついたようなブラスは先程読み終えた手紙をもう一度読み出した。




「・・・なあ、シュマーはサリバー商会と男爵家を乗っ取るのが目的なんだろうか?」

 少なくともナレスはそう思っているが。

「違うのでしょうか?」
「うむ・・・。この子爵の嫡男が失踪したというのはパルツカのミヒエル様ではないかな?ほら、ミヒエル様は義妹を虐めたりするような方ではないのにおかしいと話したじゃないか?」
「あっ!」

言われて思い出したナレスは、頭の良さをひけらかしたりしない、穏やかな青年の顔を思い浮かべ、彼がエザリアのように動物に変えられて野に放逐されていたらと思うと、体が震えるほどの怒りを感じた。

「サリバー商会もパルツカ商会も王家御用達で、爵位は高くないが、商談という体で比較的気軽に王族に直に会うことが許されている。
もし王族を狙うならだ、平民でも近づきやすい身分で、どちらも王家に用立てるほど金もあるところを糸口にするのではないか?考えすぎだろうか?」

 ブラスの推測は、言われてみればもっともなような気がする。

「騎士団に連絡しましょう」
「しかし私の推理に過ぎん、証拠がないぞ」
「少しでも可能性があることなら知っておいたほうがいいでしょう!」
「ではナレス、もう一つ。イルキュラ男爵家の安全に気を配ってくれるよう騎士団に頼んでくれ」
「あ!はい、承知いたしました」

 イルキュラ男爵家もパルツカ、サリバーと同じように王家御用達の商会を営む下級貴族だ。
この三家を掌握したら、どこからでも疑われずに王家に入り込むことができるだろう。

 ナレスとツィカたちは底知れぬ深い闇のような陰謀に恐ろしさを感じたが、今度こそ目覚めたと言ってよさそうなブラスの指示に集中することで忘れようと努めた。
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