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呪われたエザリア

歓迎会

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 ミクスが妻子と離れ、セインの店に泊まり込むことになった初めての夜。

「では歓迎会を始めよう!」

 セインが作った料理を手際よくジョルが皆に取り分けて並べると、グラスを手にエザリアの「にゃあん」の一声で乾杯する。

 ─まさかこんな美味そうなものが出るとは!いやいや、食べてみなければわからないが─

 心から妻を愛しているミクスだが、その妻の唯一の欠点は料理が苦手なことだと思っている。味が薄すぎたり濃すぎたり、焼きすぎて固いとか、食べた気がしない物が多いのだ。
鼻をくすぐる芳香に、ごくりとミクスの喉がなった。

「エザリアのはこれだよ」

 湯がいたとり肉に胡麻ドレッシングをかけ、そのまわりを花びらのようにレタスをちぎって可愛らしく飾ってあるものを、セインはそっと白猫の前に置いてやる。

 ─猫が飾りを喜ぶのか?─

 思わず笑いかけたミクスを嘲笑うように、「にゃあああん」と甘ったれモード・極みとでも言いそうなエザリアが、セインにすりすりと頭を擦りつけているではないか。

「気に入った?よかったぁ!」

 それでセインが頭を撫でると蕩けるような顔で笑うのだ!
そう確かに笑っているのだ、猫なのに!

見れば見るほど完璧な白猫エザリアだが。

ただの猫なら文字盤で会話したりしないし、笑わない。

 目を白黒させてエザリアを見ているミクスを、ジョルは肘でつついた。


「ミック、おまえが今感じてる疑問や葛藤は私も団長も、たぶんあのセインも通ってきた道だ。だってどう見ても本当に猫にしか見えないもんな。
だがそれも徐々に受け入れられるようになるから大丈夫だ。
細かいことは気にしないで粛々と護衛を務めようや!慣れれば町の見回りよりずっと穏やかで過ごしやすいぞ」

 ─確かに警備についているはずのジョルが、妙にリラックスしてるんだよな─

 ジョルの言葉に、ふと違和感を感じる。

「そういえば!ジョル見回りしないのか?」

 ミクスがセインの店に来てから丸一日、ジョルがまったく見回りをしていないことに気がついたのだ。

「ああそれな。実はセインがこの建物の周囲2キロ、幾重にも魔力感知や索敵の魔法陣を設置してるんだよ。結界も張って警戒しているから、異常があればすぐにわかるんだ」
「え!まさかすべてデールさん任せなのか?」
「そんなことないぞ。セインが魔法陣の見回りに行くときは私がエザリア嬢につきっきりで警護してるんだ。おやつで機嫌をとったり、文字盤でおしゃべりしたりと世話をしている」

 ミクスが騎士団にいるときのクールそうなジョルとは違う、気の抜けた言葉に笑いを噛みこらえた時、呆れたような白猫の翠の瞳と視線がかちあって思わず目を逸した。

「まあここでセインといると緩むんだよなぁ。実に居心地がよくてな。ミックもそのうちにわかるようになるさ」

 自由を知ってしまったジョル・ドレイラは、遠い目で窓から星空を見上げて言った。
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