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14話
「カーラ・チトアですわ」
「リリ・マドラです、今日は急なお誘いでしたのにありがとうございます」
二人の挨拶が済むと、ロリエラを迎えに来ていた馬車に乗り込んでマドラ伯爵家へと向かう。
車内ではカーラのクラスの人間関係を教えてもらい、マドラ家の庭で茶を囲むとすぐ話が始まった。
「ツィータード様はお気の毒だったと思いますの」
「気の毒?」
「ええ。ダーマ様と落ち着いて話ができる方があまりいらっしゃらなくて。なんとなく何かあるといつもお願いしてしまっていたのです」
「でも、それと噂が出るほど接触するのとは違いますわ」
「それがそうとも言えないのです、なにしろ毎日のように誰かとトラブルを起こされるものだから」
カーラが肩をすくめる。
「なぜそんなに問題が多いの?」
ロリエラがリリの代わりに訊いた。
「そうねえ、気が強すぎるし思い込みが激しくて、誰もそんなこと言っていないのに、彼女の頭の中で勝手に作り上げられて突っかかってきたりするのよ」
ロリエラとリリは顔を見合わせ、声を合わせて言った。
「うわぁ、同じクラスじゃなくてよかったわ」
運ばれてきたケーキはマドラ家のパティシエが焼いたベリーのムースケーキで、ピンクの彩りも可愛いがそのとろける舌触りと味に蕩けた令嬢たちは一気に盛り上がり、その口は滑らかに噂話に興じた。
「それでね、少し前はランチも一緒だったのだけど、この数日の昼はツィータード様がひとりでいなくなってしまうのよ」
カーラの口調もすっかり砕けている。
「毎日あんなふうに張り付かれたら、誰だって嫌気がさすわ。いないと気づくと、それこそランチタイム中ツィータードさまぁって探し回るのよ」
「うそ!」
「ほんとよ、しつこいったらありゃしないわ」
ぶるぶるっとカーラが震える。
「クラスの中でもね、ダーマ様とツィータード様が付き合っていて喧嘩でもしたと思っている人と、もともとツィータード様はお世話してるくらいにしか思っていなくてまとわりつかれてかわいそうと思っている人とに分かれているの」
「それよ!それを聞きたかったの!」
リリが身を乗り出し、先を促す。
「何を知りたいの?」
「ツィータード様が無実かどうか」
「本当のところはわからないわ。でも私が見ている限りの話でよければ」
三人の令嬢は顔を近づけ、目をキラめかせて話しに夢中になった。
「私思うのだけど。ダーマ様ってクラスでツィータード様とお茶したとかお屋敷に連れて行っていただいたとか話されるのは、絶対わざとなの。ほらマウンティングっていうやつよ。そして自ら噂を広めているんだと思うわ」
「ええ?自分の噂を自分で広めるの?」
そんな発想はリリには思いもつかない。
令嬢たちにとって、噂がたったという事実だけでもマイナスになる。それを自ら?
「そうそう、やたら言うのよ。ツィータード様と自分が真実だって。噂をたくさん流して逃げられないようにでもしようと思っているんじゃなくて?」
「そんなこと、できるわけないわ。真実を噂で捻じ曲げるつもり?」
「ダーマ様って、そんなにお利口な方ではないから」
パチンと片目を瞑ってみせたカーラが、くつっと笑った。
「そういえば、ツィータード様しばらくおやすみされるんでしょう?」
ロリエラが思い出したように訊ね、カーラが頷く。
「昨日、お迎えがいらして急に帰られたのよ。それで数日っておっしゃられたのだから、何かあったのかもしれないわね」
楽しい茶会がお開きとなり、焼き菓子を土産に持たせて二人を見送ったリリは、猛烈な勢いでマリエンザに手紙を書いた。
もちろん、噂が立つようなツィータードの迂闊さは責められるべきだが、誤った噂かもしれないからもう少し待っていて!必ず調べてみせるから。
そしてもうひとつ、辺境伯家へも手紙を。
マリエンザの心が癒やされるようにと願いをこめ、知り得たすべてを小さな文字で便箋を埋め尽くすほどに書き殴って封をした。
その手紙が届くより一日早く。
ツィータードとロランはムリエルガ領に着いて、宿を探しているところだ。砂埃を浴びながら旅をしてきたので、湯浴みをしてからでないとさすがに訪問は躊躇われる。
「先駆けを出して、今夜は一晩ここで世話になり、明日伺うことにしよう」
ツィータードのこの判断が、ムリエルガ家での自分の扱いを天国か地獄かというほど変えたとは、露ほども思わなかった。
なぜ、そう変わったかというと。
ドロレスト侯爵家からの先駆けに、来るなら来いや!くらいの戦闘態勢を取ったムリエルガ一族に、ツィータードたちが訪問するほんの少し前にリリ・マドラの手紙が届いたから。
それを目を通して「裏切者には死を!」と言って妻に窘められていたムリエルガ辺境伯ガンザルが、「迂闊者には制裁を!」くらいにトーンダウンしたからだ。
「来たら、水くらいは出してやってもよいが、ソファには座らせるなよ」
夫がそう指示を出しているのを見て、イルメリアは吹き出す。
「あなた、そんな子供じみたことはおやめになって」
妻に諌められても、面白くなさそうにフンっ!と鼻を鳴らしたガンザルは、手ぐすねを引いて獲物がやって来るのを待ち侘びていた。
「リリ・マドラです、今日は急なお誘いでしたのにありがとうございます」
二人の挨拶が済むと、ロリエラを迎えに来ていた馬車に乗り込んでマドラ伯爵家へと向かう。
車内ではカーラのクラスの人間関係を教えてもらい、マドラ家の庭で茶を囲むとすぐ話が始まった。
「ツィータード様はお気の毒だったと思いますの」
「気の毒?」
「ええ。ダーマ様と落ち着いて話ができる方があまりいらっしゃらなくて。なんとなく何かあるといつもお願いしてしまっていたのです」
「でも、それと噂が出るほど接触するのとは違いますわ」
「それがそうとも言えないのです、なにしろ毎日のように誰かとトラブルを起こされるものだから」
カーラが肩をすくめる。
「なぜそんなに問題が多いの?」
ロリエラがリリの代わりに訊いた。
「そうねえ、気が強すぎるし思い込みが激しくて、誰もそんなこと言っていないのに、彼女の頭の中で勝手に作り上げられて突っかかってきたりするのよ」
ロリエラとリリは顔を見合わせ、声を合わせて言った。
「うわぁ、同じクラスじゃなくてよかったわ」
運ばれてきたケーキはマドラ家のパティシエが焼いたベリーのムースケーキで、ピンクの彩りも可愛いがそのとろける舌触りと味に蕩けた令嬢たちは一気に盛り上がり、その口は滑らかに噂話に興じた。
「それでね、少し前はランチも一緒だったのだけど、この数日の昼はツィータード様がひとりでいなくなってしまうのよ」
カーラの口調もすっかり砕けている。
「毎日あんなふうに張り付かれたら、誰だって嫌気がさすわ。いないと気づくと、それこそランチタイム中ツィータードさまぁって探し回るのよ」
「うそ!」
「ほんとよ、しつこいったらありゃしないわ」
ぶるぶるっとカーラが震える。
「クラスの中でもね、ダーマ様とツィータード様が付き合っていて喧嘩でもしたと思っている人と、もともとツィータード様はお世話してるくらいにしか思っていなくてまとわりつかれてかわいそうと思っている人とに分かれているの」
「それよ!それを聞きたかったの!」
リリが身を乗り出し、先を促す。
「何を知りたいの?」
「ツィータード様が無実かどうか」
「本当のところはわからないわ。でも私が見ている限りの話でよければ」
三人の令嬢は顔を近づけ、目をキラめかせて話しに夢中になった。
「私思うのだけど。ダーマ様ってクラスでツィータード様とお茶したとかお屋敷に連れて行っていただいたとか話されるのは、絶対わざとなの。ほらマウンティングっていうやつよ。そして自ら噂を広めているんだと思うわ」
「ええ?自分の噂を自分で広めるの?」
そんな発想はリリには思いもつかない。
令嬢たちにとって、噂がたったという事実だけでもマイナスになる。それを自ら?
「そうそう、やたら言うのよ。ツィータード様と自分が真実だって。噂をたくさん流して逃げられないようにでもしようと思っているんじゃなくて?」
「そんなこと、できるわけないわ。真実を噂で捻じ曲げるつもり?」
「ダーマ様って、そんなにお利口な方ではないから」
パチンと片目を瞑ってみせたカーラが、くつっと笑った。
「そういえば、ツィータード様しばらくおやすみされるんでしょう?」
ロリエラが思い出したように訊ね、カーラが頷く。
「昨日、お迎えがいらして急に帰られたのよ。それで数日っておっしゃられたのだから、何かあったのかもしれないわね」
楽しい茶会がお開きとなり、焼き菓子を土産に持たせて二人を見送ったリリは、猛烈な勢いでマリエンザに手紙を書いた。
もちろん、噂が立つようなツィータードの迂闊さは責められるべきだが、誤った噂かもしれないからもう少し待っていて!必ず調べてみせるから。
そしてもうひとつ、辺境伯家へも手紙を。
マリエンザの心が癒やされるようにと願いをこめ、知り得たすべてを小さな文字で便箋を埋め尽くすほどに書き殴って封をした。
その手紙が届くより一日早く。
ツィータードとロランはムリエルガ領に着いて、宿を探しているところだ。砂埃を浴びながら旅をしてきたので、湯浴みをしてからでないとさすがに訪問は躊躇われる。
「先駆けを出して、今夜は一晩ここで世話になり、明日伺うことにしよう」
ツィータードのこの判断が、ムリエルガ家での自分の扱いを天国か地獄かというほど変えたとは、露ほども思わなかった。
なぜ、そう変わったかというと。
ドロレスト侯爵家からの先駆けに、来るなら来いや!くらいの戦闘態勢を取ったムリエルガ一族に、ツィータードたちが訪問するほんの少し前にリリ・マドラの手紙が届いたから。
それを目を通して「裏切者には死を!」と言って妻に窘められていたムリエルガ辺境伯ガンザルが、「迂闊者には制裁を!」くらいにトーンダウンしたからだ。
「来たら、水くらいは出してやってもよいが、ソファには座らせるなよ」
夫がそう指示を出しているのを見て、イルメリアは吹き出す。
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