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第1章
第37話 実行
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「そろそろだそ」
マーカスの言葉を合図にユートリーがベッドに戻り、マベルが白いベールを顔に乗せる。
普通はハンカチを顔にかけるものだが、それだと呼吸で布が動いてしまうので、オーガンジーのベールをハンカチの大きさに切り取って使うことにした。
胸が上下するのを隠すために、かけ布団の内側に針金を通し、ユートリーの体よりほんの少し浮かしている。準備は万端だ。
それぞれの部屋に戻り、マーカスが時計を見る。
「よし、では始めるぞ!」
タラが廊下を小走りに駆けていく。
「ユートリー様がぁ、た、高みにっのぼ、のぼられっぅぅっ」
泣きながら、大袈裟なほどに声をあげた。
「え?ユートリー様がなんだって?」
屋敷の使用人たちがざわめきながらユートリーの部屋の前に集まるが、中には入れず、ただ廊下から覗くだけだ。
感染するかもしれないと言われた、ユートリーの世話をしたタラのことも、使用人たちは遠巻きにしている。
遠目にもベールの下に見えるユートリーは安らかな静かな顔をしていた。
「うっ。ううう、お嬢さまぁ」
廊下から使用人たちの泣き声がきこえてくると、ユートリーは「生きてるよ」と起き上がりたくなったが何とか我慢する。
使用人たちの目の前で、駆けつけたリラが倒れた。
「リラ!」
マーカスが抱き止めて、ソファに横たえるとマベル医師が悲痛な表情で脈を取り、頷いてブランケットをかけてやった。
「あの、皆さんは細心の注意を払って下さっていましたが、病の原因がはっきりしない以上感染する可能性も未だゼロではないのです。皆さんをお守りするために念のためにご家族だけでお別れを。あの、棺に安置して蓋を閉めたあとなら、皆さんもお別れはできますから」
マベルは使用人たちを慰めるように声をかけたが、それを引き金に侍女やメイドたちが大量の涙をこぼし始める。
「スチュー、呼ぶまでは皆のことも休ませてやってくれ」
見かねたマーカスに指示されれば、スチューは忠実に、使用人たちに呼ぶまで部屋で休むよう指示してユートリーの部屋の扉を閉めた。
「みんないなくなったか?じゃあ棺を運び込もう」
サルジャンがマベルたちと棺を部屋に入れると、ユートリーとリラがむくっと起き上がってタラと3人で綿を詰めたドレスを棺にしまい込む。
「次はお顔ですねーっ」
タラが持ち上げた例の蝋人形の顔をドレスの首に取り付けて、金髪のかつらをフェイスラインの輪郭に沿ってちぎった白い薔薇を敷き詰めていった。
「ぞっとするほど似ているな」
妹の死に顔もどきにサルジャンが身震いをするほど、それはリアルで美しい。
リラが頷いて、ユートリーを抱き寄せるとそっと髪を撫でながら言った。
「でも偽物よ」
棺の準備が整い、蓋を被せて小窓以外はすべて釘で打ち付けると、ユートリーは床下の隠し通路から密かに屋敷を脱出。
リラは悲しみのあまり錯乱しているため、マベルの勧めに応じて、人の出入りの多い屋敷ではなく別邸で休ませると、玄関からマーカスが馬車に乗せて送り出した。
暫く進んだ街道沿いでリラとユートリーは合流し、ナイジェルスが潜伏する隠れ家へ。
「漸く殿下に会えるわね、トリー」
母の言葉に、危機を乗り越え愛しい婚約者と再会できるのだと、やっと実感するユートリーだった。
マーカスの言葉を合図にユートリーがベッドに戻り、マベルが白いベールを顔に乗せる。
普通はハンカチを顔にかけるものだが、それだと呼吸で布が動いてしまうので、オーガンジーのベールをハンカチの大きさに切り取って使うことにした。
胸が上下するのを隠すために、かけ布団の内側に針金を通し、ユートリーの体よりほんの少し浮かしている。準備は万端だ。
それぞれの部屋に戻り、マーカスが時計を見る。
「よし、では始めるぞ!」
タラが廊下を小走りに駆けていく。
「ユートリー様がぁ、た、高みにっのぼ、のぼられっぅぅっ」
泣きながら、大袈裟なほどに声をあげた。
「え?ユートリー様がなんだって?」
屋敷の使用人たちがざわめきながらユートリーの部屋の前に集まるが、中には入れず、ただ廊下から覗くだけだ。
感染するかもしれないと言われた、ユートリーの世話をしたタラのことも、使用人たちは遠巻きにしている。
遠目にもベールの下に見えるユートリーは安らかな静かな顔をしていた。
「うっ。ううう、お嬢さまぁ」
廊下から使用人たちの泣き声がきこえてくると、ユートリーは「生きてるよ」と起き上がりたくなったが何とか我慢する。
使用人たちの目の前で、駆けつけたリラが倒れた。
「リラ!」
マーカスが抱き止めて、ソファに横たえるとマベル医師が悲痛な表情で脈を取り、頷いてブランケットをかけてやった。
「あの、皆さんは細心の注意を払って下さっていましたが、病の原因がはっきりしない以上感染する可能性も未だゼロではないのです。皆さんをお守りするために念のためにご家族だけでお別れを。あの、棺に安置して蓋を閉めたあとなら、皆さんもお別れはできますから」
マベルは使用人たちを慰めるように声をかけたが、それを引き金に侍女やメイドたちが大量の涙をこぼし始める。
「スチュー、呼ぶまでは皆のことも休ませてやってくれ」
見かねたマーカスに指示されれば、スチューは忠実に、使用人たちに呼ぶまで部屋で休むよう指示してユートリーの部屋の扉を閉めた。
「みんないなくなったか?じゃあ棺を運び込もう」
サルジャンがマベルたちと棺を部屋に入れると、ユートリーとリラがむくっと起き上がってタラと3人で綿を詰めたドレスを棺にしまい込む。
「次はお顔ですねーっ」
タラが持ち上げた例の蝋人形の顔をドレスの首に取り付けて、金髪のかつらをフェイスラインの輪郭に沿ってちぎった白い薔薇を敷き詰めていった。
「ぞっとするほど似ているな」
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リラが頷いて、ユートリーを抱き寄せるとそっと髪を撫でながら言った。
「でも偽物よ」
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リラは悲しみのあまり錯乱しているため、マベルの勧めに応じて、人の出入りの多い屋敷ではなく別邸で休ませると、玄関からマーカスが馬車に乗せて送り出した。
暫く進んだ街道沿いでリラとユートリーは合流し、ナイジェルスが潜伏する隠れ家へ。
「漸く殿下に会えるわね、トリー」
母の言葉に、危機を乗り越え愛しい婚約者と再会できるのだと、やっと実感するユートリーだった。
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