【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

文字の大きさ
52 / 80
第3章 

第52話 離宮の庭

しおりを挟む
 ユートリーとナイジェルスが互いの無事と愛を確かめあっていた頃。

 ミイヤはキャロラ妃の離宮に到着していた。このところトローザー王子と密かに会うときはいつも、この離宮の奥深い庭で会っているのだ。

「ミイヤ!急ぎの知らせがあると聞いたが」

 挨拶もそこそこにトローザーが植え込みに隠れるように敷かれた庭道から顔を出した。

「トローザー殿下!ご機嫌いかがでしょうか」
「ああ、執務が溜まっていて時間がないのだ。しかし至急と聞いて抜けてきたんだ、こんな時間だし手短に頼む」

 いつものトローザーに比べてぞんざいな口調にミイヤは違和感を感じたが、忙しい中を来てくれたのだから仕方ないと、それでも話を聞けば間違いなく大喜びでプロポーズしてくれるに違いないと切り出した。

「お喜び下さい、とうとうユートリーが遠い旅に出ましたの」
「なにっ?本当か?」

 トローザーがミイヤの両肩を掴んで顔を寄せる。

「はい、先ほど屋敷に戻りましたら既に棺に安置されておりましたわ。これで殿下と私は結婚できますわね」

 うれしそうに頬を染めたミイヤを見て、トローザーはゾッとした。
 そして気づく。

「おい、ということは今葬儀の支度をしているところではないのか?」
「え?ええ。使用人たちがばたばたしておりましたわ」
「そんな中で私に屋敷から先触れを出し、ここに来たと言うのか?」
「ええ、だって少しでも早くお知らせして喜んで頂きたかったのですもの」

 トローザーは、ハアーっとそれは大きなため息をつき、冷たい目をミイヤに向けたがまったく気づくことなくにこにこと笑っている。

 ─ユートリーが死んだのなら、ミイヤに用はない。兄上の遺体はまだ見つかっていないが、潜入させたセルにミイヤの罪を暴かせる根回しをしよう─

 今、この数分で考えた程度の計画では失敗する可能性が高い。一旦ミイヤを帰し、体勢を整えてからミイヤを処分しようと考えた。

「ミイヤ、すぐに屋敷に帰るんだ」
「え?あ!挨拶に来てくださるのですね」
「挨拶とはなんだ?」
「私との婚約のですわ」

 トローザーは自分の我慢の限界が近いと感じた。

「ハア。何を言っているんだ!皆が悲しみに暮れているときにそんなことをしたら頭がおかしいと思われる。家族を亡くしたら喪に服す期間が必要だ。その間は祝い事は避けられる、それが常識でありマナーでもある、知らないなどとは恥ずかしいことだぞ」

 遠まわしにマナーも常識もないおまえは王子の自分に相応しくないと言ったのだが、ミイヤは口を尖らせて言った。

「ええ、じゃ殿下とすぐ婚約できないじゃないですか!私、すぐにでも殿下の婚約者になりたいんです」

 トローザーは呆然とする。

 ─嘘だろう・・これほどまでに愚かだったとは─

「すぐにはできない・・・喪に服す期間も決められているのだから、これはしかたのないことだ。慣習を破れば後々まで悪い影響が残る。ましてや王子である私がそれを破るなどできないのだ。理解できなくともそういう物だと受け止めるしかない、わかったか?喪が明けたらすぐ動けばいい」
「そんなぁ。本当に?本当ですよ!ユートリーとナイジェルス王子がいなくなったら、私がソイスト侯爵家をトローザー殿下の後ろ盾にしてゴールダイン王子を追い落として、殿下が王太子、私が王太子妃になるんですよね!」

 ミイヤは、トローザーが話した計画をかなり正確に覚えており、それを口にした。
慌ててミイヤを抱き寄せ、その口を掌で塞ぐ。

 ─王太子妃だと?巫山戯るな、私にはメラルダ嬢がいるんだ!おまえのような愚かな娘は妾でもごめんだ─

「母上の離宮の庭とは言え、そんな声で話してはダメだ!不届き者に聞かれたらどうする!」

 トローザーは口を開いたら怒りで言葉が漏れ出しそうになり、強く自制しながらもだいぶきつい声音で言い聞かせると、ミイヤの両肩を掴んでくるりと反対側に向けたが、その目は今や憎しみすら浮かんでいる。

「さあ、葬儀の支度に戻るんだ。先触れに出した使用人に口止めを忘れてはいけない。ミイヤがユートリー嬢を害したことが知られたら婚約どころでは無くなるぞ」

 そう言って、背中をぽんと押し出した。

「しばらくは会わないほうがいい」
「え!いや!いやです殿下」
「私だって寂しいが、こんな時だからこそ我慢して疑われないようにしなくてはならないんだよ、二人の未来のためだ。いいな」

 そう言われたら、頷くしかないミイヤは渋々とソイスト家の馬車に乗って帰って行った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【完結】愛とは呼ばせない

野村にれ
恋愛
リール王太子殿下とサリー・ペルガメント侯爵令嬢は六歳の時からの婚約者である。 二人はお互いを励まし、未来に向かっていた。 しかし、王太子殿下は最近ある子爵令嬢に御執心で、サリーを蔑ろにしていた。 サリーは幾度となく、王太子殿下に問うも、答えは得られなかった。 二人は身分差はあるものの、子爵令嬢は男装をしても似合いそうな顔立ちで、長身で美しく、 まるで対の様だと言われるようになっていた。二人を見つめるファンもいるほどである。 サリーは婚約解消なのだろうと受け止め、承知するつもりであった。 しかし、そうはならなかった。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...