【完結】時戻り令嬢は復讐する

やまぐちこはる

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第3章 

第52話 離宮の庭

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 ユートリーとナイジェルスが互いの無事と愛を確かめあっていた頃。

 ミイヤはキャロラ妃の離宮に到着していた。このところトローザー王子と密かに会うときはいつも、この離宮の奥深い庭で会っているのだ。

「ミイヤ!急ぎの知らせがあると聞いたが」

 挨拶もそこそこにトローザーが植え込みに隠れるように敷かれた庭道から顔を出した。

「トローザー殿下!ご機嫌いかがでしょうか」
「ああ、執務が溜まっていて時間がないのだ。しかし至急と聞いて抜けてきたんだ、こんな時間だし手短に頼む」

 いつものトローザーに比べてぞんざいな口調にミイヤは違和感を感じたが、忙しい中を来てくれたのだから仕方ないと、それでも話を聞けば間違いなく大喜びでプロポーズしてくれるに違いないと切り出した。

「お喜び下さい、とうとうユートリーが遠い旅に出ましたの」
「なにっ?本当か?」

 トローザーがミイヤの両肩を掴んで顔を寄せる。

「はい、先ほど屋敷に戻りましたら既に棺に安置されておりましたわ。これで殿下と私は結婚できますわね」

 うれしそうに頬を染めたミイヤを見て、トローザーはゾッとした。
 そして気づく。

「おい、ということは今葬儀の支度をしているところではないのか?」
「え?ええ。使用人たちがばたばたしておりましたわ」
「そんな中で私に屋敷から先触れを出し、ここに来たと言うのか?」
「ええ、だって少しでも早くお知らせして喜んで頂きたかったのですもの」

 トローザーは、ハアーっとそれは大きなため息をつき、冷たい目をミイヤに向けたがまったく気づくことなくにこにこと笑っている。

 ─ユートリーが死んだのなら、ミイヤに用はない。兄上の遺体はまだ見つかっていないが、潜入させたセルにミイヤの罪を暴かせる根回しをしよう─

 今、この数分で考えた程度の計画では失敗する可能性が高い。一旦ミイヤを帰し、体勢を整えてからミイヤを処分しようと考えた。

「ミイヤ、すぐに屋敷に帰るんだ」
「え?あ!挨拶に来てくださるのですね」
「挨拶とはなんだ?」
「私との婚約のですわ」

 トローザーは自分の我慢の限界が近いと感じた。

「ハア。何を言っているんだ!皆が悲しみに暮れているときにそんなことをしたら頭がおかしいと思われる。家族を亡くしたら喪に服す期間が必要だ。その間は祝い事は避けられる、それが常識でありマナーでもある、知らないなどとは恥ずかしいことだぞ」

 遠まわしにマナーも常識もないおまえは王子の自分に相応しくないと言ったのだが、ミイヤは口を尖らせて言った。

「ええ、じゃ殿下とすぐ婚約できないじゃないですか!私、すぐにでも殿下の婚約者になりたいんです」

 トローザーは呆然とする。

 ─嘘だろう・・これほどまでに愚かだったとは─

「すぐにはできない・・・喪に服す期間も決められているのだから、これはしかたのないことだ。慣習を破れば後々まで悪い影響が残る。ましてや王子である私がそれを破るなどできないのだ。理解できなくともそういう物だと受け止めるしかない、わかったか?喪が明けたらすぐ動けばいい」
「そんなぁ。本当に?本当ですよ!ユートリーとナイジェルス王子がいなくなったら、私がソイスト侯爵家をトローザー殿下の後ろ盾にしてゴールダイン王子を追い落として、殿下が王太子、私が王太子妃になるんですよね!」

 ミイヤは、トローザーが話した計画をかなり正確に覚えており、それを口にした。
慌ててミイヤを抱き寄せ、その口を掌で塞ぐ。

 ─王太子妃だと?巫山戯るな、私にはメラルダ嬢がいるんだ!おまえのような愚かな娘は妾でもごめんだ─

「母上の離宮の庭とは言え、そんな声で話してはダメだ!不届き者に聞かれたらどうする!」

 トローザーは口を開いたら怒りで言葉が漏れ出しそうになり、強く自制しながらもだいぶきつい声音で言い聞かせると、ミイヤの両肩を掴んでくるりと反対側に向けたが、その目は今や憎しみすら浮かんでいる。

「さあ、葬儀の支度に戻るんだ。先触れに出した使用人に口止めを忘れてはいけない。ミイヤがユートリー嬢を害したことが知られたら婚約どころでは無くなるぞ」

 そう言って、背中をぽんと押し出した。

「しばらくは会わないほうがいい」
「え!いや!いやです殿下」
「私だって寂しいが、こんな時だからこそ我慢して疑われないようにしなくてはならないんだよ、二人の未来のためだ。いいな」

 そう言われたら、頷くしかないミイヤは渋々とソイスト家の馬車に乗って帰って行った。
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