【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
20 / 42

第20話

しおりを挟む
 ロイリー伯爵家に珍しい書状が届いたのはその翌日。

「王妃様から呼び出された」

 深刻そうなジャブリックをテューリンが慰める。

「トーソルドの件とは限りませんよ、父上」
「・・・だが、他に思い浮かぶことがない」

 ジュールも言っていたように、城でも不貞で辺境に飛ばされた近衛騎士の噂はかなり広まっていた。

「お叱りを受けることになるのか」

 騎士爵位を授して独立したとはいえ、家門を率いるのはジャブリックなのだ。
ハァと大きくため息をつくと、城に向かう支度を整えて馬車に乗り込んだ。

 重い足取りで王妃からの召喚を告げると、しばらく待たされたあと女官が迎えに来る。

「王妃様とメリレア姫様が庭園にてお待ちしております」

 ん?とジャブリックは疑問に思う。
庭園でお咎めを受けるのか?
内々の注意で済ませてくださるおつもりだろうかと小さな期待を胸に、女官のあとをついて行った。



 美しい庭園は、王妃の好きな白い花が咲き乱れる透明感漂わせた庭だ。その中の四阿で、王妃とメリレア姫が茶を楽しんでいる。

「ロイリー伯爵、よく来てくれました」

 王妃が手招きをする。
 ジャブリックは深く礼を捧げると、王妃のいるテーブルの近くに歩み寄った。

「そこにお座りなさいな。見てもらいたいものがあります」

 てっきりトーソルドのことだと思っていたジャブリックは、拍子抜けした。

「これを」

 テーブルに差し出された一枚のハンカチには素晴らしい刺繍が施されている。

 ─どこかで見たような?─

「あ!」
「誰が刺繍をしたかおわかり?」
「はい、我が家のアニエラの作と思われます」
「そう!アニエラね。してアニエラはロイリー伯爵とはどのような繋がりかしら」
「はあ、三男に嫁いだ義娘でございます」

 ここでもジャブリックは義娘とアニエラを位置づけた。

「そうなの!良き刺繍師を迎えられたわね」
「刺繍師ですか?」
「ええ。これほどの腕前の者はそうはいないわよ、それにこの技法!細やかで美しい上に素晴らしい色彩感覚だわ。刺繍師と呼ばれるのに相応しいと思うから、私がその称号を与えましょう。そうすればアニエラに、私とメリレアの刺繍を依頼しやすくなるわね。受けてもらえるかしら」
「お母様!素晴らしいお考えだわ!」

 盛り上がる王妃と王女を前にジャブリックは理解が追いついていない。
 てっきりお叱りを受ける覚悟で来たが、アニエラに称号を与えると最上級の褒め言葉を賜ったばかりか、その腕を見込んで注文を依頼したいと言われたのだ。

「あ、あの光栄に存じます。きっとアニエラも喜ぶことと存じます」
「ではアニエラに改めて城へ来るよう手配して頂戴」

 ジャブリックは椅子から立ち上がると、頭が床につくのではないかと心配になるほど腰を深く折って礼をした。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

[完結]だってあなたが望んだことでしょう?

青空一夏
恋愛
マールバラ王国には王家の血をひくオルグレーン公爵家の二人の姉妹がいる。幼いころから、妹マデリーンは姉アンジェリーナのドレスにわざとジュースをこぼして汚したり、意地悪をされたと嘘をついて両親に小言を言わせて楽しんでいた。 アンジェリーナの生真面目な性格をけなし、勤勉で努力家な姉を本の虫とからかう。妹は金髪碧眼の愛らしい容姿。天使のような無邪気な微笑みで親を味方につけるのが得意だった。姉は栗色の髪と緑の瞳で一見すると妹よりは派手ではないが清楚で繊細な美しさをもち、知性あふれる美貌だ。 やがて、マールバラ王国の王太子妃に二人が候補にあがり、天使のような愛らしい自分がふさわしいと、妹は自分がなると主張。しかし、膨大な王太子妃教育に我慢ができず、姉に代わってと頼むのだがーー

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

(完結)元お義姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれど・・・・・・(5話完結)

青空一夏
恋愛
私(エメリーン・リトラー侯爵令嬢)は義理のお姉様、マルガレータ様が大好きだった。彼女は4歳年上でお兄様とは同じ歳。二人はとても仲のいい夫婦だった。 けれどお兄様が病気であっけなく他界し、結婚期間わずか半年で子供もいなかったマルガレータ様は、実家ノット公爵家に戻られる。 マルガレータ様は実家に帰られる際、 「エメリーン、あなたを本当の妹のように思っているわ。この思いはずっと変わらない。あなたの幸せをずっと願っていましょう」と、おっしゃった。 信頼していたし、とても可愛がってくれた。私はマルガレータが本当に大好きだったの!! でも、それは見事に裏切られて・・・・・・ ヒロインは、マルガレータ。シリアス。ざまぁはないかも。バッドエンド。バッドエンドはもやっとくる結末です。異世界ヨーロッパ風。現代的表現。ゆるふわ設定ご都合主義。時代考証ほとんどありません。 エメリーンの回も書いてダブルヒロインのはずでしたが、別作品として書いていきます。申し訳ありません。 元お姉様に麗しの王太子殿下を取られたけれどーエメリーン編に続きます。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

処理中です...