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第28話
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待てど暮らせど現れないトーソルド。
ロイリー伯爵家では、悪い予感を覚えた男たちが動き始めていた。
馬車がただ遅れている場合に備えて伯爵家にはジャブリックが残るも、「まさかそんな厚かましいことはしないと思いたい」と呟きながら、テューリンとジュールがアニエラのいる屋敷へと向かっていた。
「兄上、あの馬車を見てくれ」
ジュールの指差す先には、跳ねた泥を払うでもなく、たっぷりと砂埃を被った実用本位の箱馬車がとめられている。
「遅かったか!」
御者に馬車を寄せるように急がせて飛び降り、屋敷に駆け込むと、トーソルドと執事マイルスの押し問答が始まっていた。
「マイルス!なぜ私を入れようとしない?私の屋敷に私が帰館して何が悪い!誰の金で飯を食ってきたというんだ!」
「三年もの長い間、顧みることもない屋敷に今更何をおっしゃいますか。それにご存知ないようですが、もうここはトーソルド様ではなくアニエラ様が行われる事業収益で維持されておりますから」
そう。毎月辺境騎士団からアニエラに送られる金は、アニエラが収入を得るようになったことで必要性が低くなり、少しづつ減らしていたのだ。
その分トーソルドに多く払われるようになっていた。
しかし辺境では酒くらいしか楽しみがなく、どうしても毎日酒場に寄ってしまう。またトーソルドは年に2回ルイーフの元に帰るため、かなりの金がかかる。常にかつかつの暮らしで、そんなことにも気づいていなかった。
マイルスはそんなトーソルドを通す気などこれっぽっちもない。
「アニエラ様はお出かけをされておりますし、不在の間は私に留守を任されておりますよって、ここより一歩でも進まれることは断固!お断り致します」
「何を!誰が屋敷の主人だと思って」
「それはもちろんアニエラだ」
怒鳴りつけようとしたトーソルドの背後から、テューリンが告げた。
「え?」
「久しいな、弟よ」
「テュー兄上!来てくださったのですね、ありがとうございます」
味方を得たと顔を輝かせたトーソルドだが。
「マイルス、アニエラは不在か?ではこの件は言わなくて良いぞ。これは我らが引き取っていくからな」
抱えられたトーソルドを、自分たちの馬車に乗せるよう指示を出すと、箱馬車にも行き先を変えるようジュールが伝えた。
「騒がせてすまなかったな」
そう言って、本来の屋敷の主は兄たちに回収されていった。
ロイリー伯爵家では、悪い予感を覚えた男たちが動き始めていた。
馬車がただ遅れている場合に備えて伯爵家にはジャブリックが残るも、「まさかそんな厚かましいことはしないと思いたい」と呟きながら、テューリンとジュールがアニエラのいる屋敷へと向かっていた。
「兄上、あの馬車を見てくれ」
ジュールの指差す先には、跳ねた泥を払うでもなく、たっぷりと砂埃を被った実用本位の箱馬車がとめられている。
「遅かったか!」
御者に馬車を寄せるように急がせて飛び降り、屋敷に駆け込むと、トーソルドと執事マイルスの押し問答が始まっていた。
「マイルス!なぜ私を入れようとしない?私の屋敷に私が帰館して何が悪い!誰の金で飯を食ってきたというんだ!」
「三年もの長い間、顧みることもない屋敷に今更何をおっしゃいますか。それにご存知ないようですが、もうここはトーソルド様ではなくアニエラ様が行われる事業収益で維持されておりますから」
そう。毎月辺境騎士団からアニエラに送られる金は、アニエラが収入を得るようになったことで必要性が低くなり、少しづつ減らしていたのだ。
その分トーソルドに多く払われるようになっていた。
しかし辺境では酒くらいしか楽しみがなく、どうしても毎日酒場に寄ってしまう。またトーソルドは年に2回ルイーフの元に帰るため、かなりの金がかかる。常にかつかつの暮らしで、そんなことにも気づいていなかった。
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「何を!誰が屋敷の主人だと思って」
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「え?」
「久しいな、弟よ」
「テュー兄上!来てくださったのですね、ありがとうございます」
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「マイルス、アニエラは不在か?ではこの件は言わなくて良いぞ。これは我らが引き取っていくからな」
抱えられたトーソルドを、自分たちの馬車に乗せるよう指示を出すと、箱馬車にも行き先を変えるようジュールが伝えた。
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そう言って、本来の屋敷の主は兄たちに回収されていった。
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