【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

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1話

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 コンラル公国メーリア伯爵領はこの数年の度重なる自然災害で疲弊し、復旧費用は足りなくなって、手つかずのまま放置された土地があちこちに見受けられる。
 かつて豊かな大地だったところも、荒れて草しか生えない土地に変わったことで、伯爵家とその領民を苦しめていた。

 領主のデード・メーリア伯爵には男女のこどもがおり、上は二十歳のハルバリ、下は十七歳のサラ。
 ハルバリは学園を卒業してすぐ婚姻し、邸内の離れに妻と住んで日々復旧に走り回っている。
 サラは婚約者がおり、あと半年ほどで学園を卒業してから婚姻の予定だった。


「え?今なんて?」

 亜麻色の髪と青い瞳のサラが、ハッと振り向いた。

「うん、だから婚約は解消してもらいたいんだ。両親にも相談して、サラ嬢がいいと言えば構わないと言われている」

 サラの目の前にいるのは婚約者のフェルナンド・イーデス子爵令息。

「それは何故?私、フェルナンド様に何かご不快なことをしてしまいましたか?」
「いや、サラ嬢はなにも。ただ申し訳ないのだが私に想い人が現れて。こんな気持ちでサラ嬢とは結婚できないから」

 ─想い人?

 サラは足元の土が柔らかく崩れて、足が埋もれていくような気がした。

 想い人がいるのは本当のことだろう。ただそれだけではない。メーリア伯爵家の逼迫した経済状況から逃げ出したくなったのだ。
 フェルナンドは貴族令息らしく、華やかで眉目秀麗である。生活も付き合いも華やかで、ここ暫くドレスもろくに作れず、流行遅れのドレスを着ているサラを疎むような目をすることがあった。
 ようするに貧乏令嬢が嫌になったのだろう。

 サラは、フェルナンドとイーデス子爵夫妻が、持参金も絶望的な自分との婚約をここまで解消せずにいたことにただ感謝していたが、それもそろそろ限界かと理解した。

「その件につきましては、両親と相談して返答いたします」

 小さく震えていたがせめて貴族の矜持をと、美しいカーテシーをしたあとしっかり顔を上げてフェルナンドに別れの挨拶をする。
逃げ込むように馬車に乗り込むと、我慢していた涙が一気に溢れ出た。

「ううっ」

 十歳で家同士の婚約をしたが、サラなりにフェルナンドを想っていた。フェルナンドも友人を紹介しあったり、一緒に茶会に行ったりと良好の仲だった。
 三年前、領地で自然災害が起きるまでは。

 この三年で夏の豪雨、秋の台風と計三回の大規模な災害があり、復旧する間もなく土砂災害を伴って畑が土砂に埋め尽くされ全滅した。住む家すら失った領民たちは、畑どころではない。
 領地復興のために土木作業員を募集した伯爵家に畑を諦めた農民が殺到し、インフラ整備は最優先でなんとか進めているが、その分農地が手つかずで放置されて危機的状況だ。
 いまではただ草だけがみっしりと生えているだけの領地を見ては、デードのため息がこぼれた。

「お話しがありますの。」

 サラの思いつめた様子に、伯爵夫妻と兄夫婦が向き直る。

「フェルナンド様から想い人ができたから婚約を解消したいと言われました。私がそれでよければ良しとイーデス子爵ご夫妻からも了解を取っているそうです」

「なんだと?」父は驚きの声を。

「何が想い人だ!うちがこんな状況だから見捨てるのだろう!」

 この状況でも臆さずに嫁いできた兄嫁が隣りに座る兄は、瞬時に怒りを吐き出した。
母だけは何も言わず、唇を噛み締めている。

「もう仕方ありませんわ、最近のフェルナンド様は私を疎んでいらっしゃいましたもの。華やかな方ですし、遅かれ早かれこうなったのでしょう」

 馬車で泣くだけ泣いて、気持ちを切り替えたサラはサバサバした様子でそう言った。

「あとはお父さまにお任せしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ!サラは何も気に病まずに」
「ええ、ありがとうございます。私、少し疲れておりますの。夕食はいりません、休ませてください」

 そう言うと、家族の視線を避けるように部屋へと引き上げた。



「はあ。これからどうしようかしら」

 イーデス子爵家は先々代からメーリア伯爵家と付き合いの深い貴族で、その繋がりでフェルナンドと婚約する運びとなったのだが。
婚約を解消し、持参金もないサラが新しくまともな婚約にありつけるとはとても思えない。
 伯爵家はいずれ兄夫婦が継ぐので、いつまでもここに置いてもらうわけにはいかないだろう。

「どこかに働きにいかないとダメかしらね」

 食事はいらないと言ったが、口寂しくなっておやつを入れてある小瓶を指先で探ると、前にイーデス子爵家で土産に持たせてくれたショコラが二個入っている。

「もう二口しかないわ!はあ、こっちも問題ね」

 サラはスイーツが大好きだ。
しかし今、伯爵家は貴重品の砂糖は極力買わないようにしており、イーデス子爵家に行ったときに子爵夫人が持たせてくれるスイーツを大切に少しづつ食べていた。

「最後なんだから、ちゃんと貰ってから帰ればよかったわ」

 心優しく、よく気のつく子爵夫人なら今日も必ずサラに用意してくれていたに違いない。動揺して忘れてきたことを深く後悔する。

「買うお金も、作る材料もない・・・か」

 ため息をひとつついてドレスを脱ぐと、寝台に潜り込んで蝋燭を吹き消した。
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