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3話
「嘘だろう?私が廃嫡?タイリユ子爵家にも慰謝料だと?」
部屋に連れ戻されたフェルナンド・イーデスは、頭を抱えてベッドに座り込んだ。
なぜだ?
父上はサラが婚約解消に応じると言えばそれで構わないと言ったではないか。双方が納得の上で解消するというのに、なぜそれで自分やタイリユ子爵家が責めを負わねばならないんだ?
恋人となったソイラ・タイリユ子爵令嬢も、その責めを負うのかと思うと気が重くなった。
ソイラは裕福なタイリユ子爵の娘だが、それまでは目立たぬ存在だった。最終学年になって初めて同じクラスになり知り合ったが、学内のパーティーでドレスアップしてきた美しさに目を惹かれ、同じ子爵家同士ということもあり親しくなった。
実はソイラは庶子で、入学直前の遅くに引き取られたため婚約者もおらず、歳の離れた貴族の再婚相手くらいにしかなれないだろうと嘆く姿に同情するうちに、どんどんとのめり込んでしまったのだ。
ソイラと会ったあと、サラの流行遅れの野暮ったい姿を見ると気持ちが急に萎えてしまう。それをくり返すうちにサラが嫌になり、ソイラと情を通じてしまった。
秘密の関係だったが、何故か父ブルワリーにばれて何度も殴られたあと、サラが婚約解消に応じるというならと言ったのだ。
婚約解消を決めたのは父なのに、なぜ自分が責めを負うのだろう?
そうだ!
母上なら私の味方をしてくれるに違いない!
母カイラの元へと足を運び、扉をノックすると侍女が顔を出した。
「母上にお目通り願いたい」
部屋へ通されると母カイラが項垂れていた。
「母上、大丈夫ですか?」
フェルナンドはまだわかっていなかった。
カイラがゆっくりとした動きで顔を上げると、その瞳は泣きくれて真っ赤だ。
「大丈夫なわけがないでしょう。私は大切な娘をひとり失ったのよ」
「いや、しかしこれからはソイラがおりますから、ソイラをかわいがってやってください」
無神経なことを言ったことにも気づかない。
「可愛がるですって?冗談じゃないわ。その娘はけっして私の娘とはならない。そうはさせないわ」
「なぜです?私の伴侶となる令嬢ですよ!かわいそうに美しい令嬢なのに、庶子というだけで歳の離れた貴族の再婚相手にさせられるところだった!でもこれからは私が彼女を守るのです。私の妻になるのですから、母上の娘ですよ」
ジッと暗い目を息子に向けると、フェルナンドも初めて聞く低く震える声でカイラが言った。
「フェルナンド、おまえは。
サラ様がおまえに傷物にされて、歳の離れた貴族の再婚相手にしかなれなくなることは気の毒ではないのか?サラ様は守られなくともよいとでも言うのかえ?」
「え・・・」
そう言われて初めて、フェルナンドは自分がサラに何をしたかがわかってきた。
「あ」
「サラ様はメーリア伯爵家のまごうかたなきご令嬢。汚らわしい疑惑の庶子などとは大違いのね。
十歳からおまえの婚約者として私たちとの関係を育んで、この私をお義母様と呼んでくれていた。そのサラ様の七年を裏切り、よくもまあ想い合う何処ぞの馬の骨を守るなどと言ったものだわ。
おまえたちはサラ様の身なりが流行遅れだと言ったそうだが、まさかメーリア領のこの数年の窮地を知らないわけではあるまい?領主一家が心血を注ぎ、身なりも構わず私財を投じて領地復興を行っているというのに、おまえも貴族、領主となるべき身で気遣いはできなかったのか?茶会に伴うならおまえがドレスを贈ればよかったではないか」
静かな口調ではあるが、聞いたことのない声と口調に母の怒りのほどが伝わってきて、フェルナンドは父に殴られたときよりも恐ろしくなって体が震え始めた。
「おまえは廃嫡されて当然であろう。我がイーデス家がどれほどの慰謝料を払うか。おまえのせいで、領民のために私財を投じる真面目な領主一家に後ろ足で砂をかけた一族だと、我らは社交界で誹りを受けねばならない。
まさか不満を言うつもりなどあるまい?」
「は、はい、ありません」
それだけをなんとか言うと、頭を深く下げてずりずりと摺り足をしながら母の部屋から逃げ出した。
はっはっと息が荒くなっている。
「なんということを私は・・・。もう取り返しがつかないのか?・・・これからどうなるんだろう」
ブルワリー・イーデス子爵とデード・メーリア伯爵から身に覚えのない書状を受け取ったザニ・タイリユ子爵は、目を通していくうちに顔を真っ赤に染めた。
こめかみに血管が浮いている。
「誰かっ、ソイラを呼べっ!」
使用人が慌てて小走りに廊下を行き、ソイラを連れて戻ってきた。
「お呼びと伺い参りました、お父さま」
「ソイラっ!おまえ、引き取ってやったというのに私の顔に泥を塗りおったな」
激怒したザニの怒号が飛び、ひっ!と声を上げて後退るが閉められた扉により部屋の中央へと押し戻される。
「あのお父さま」
「二度と私を父と呼ぶなっ!おまえなど引き取るのではなかったわ」
「あの、一体なにが」
「何がだと?おまえ、イーデス子爵家の息子となにがあった?」
フェルナンドのことを言われ、思わず頬を赤らめて微笑んだソイラを見て、ザニの怒りは最高潮に達した。
「おまえのせいでイーデス子爵家はメーリア伯爵家との婚約を解消せざるを得なくなった」
「はい、フェルナンド様が私をお選びくださったのです。婚約者の方は、地味で流行遅れな服しか着ないとご不満を覚えていらして。それに私が歳の離れた貴族に嫁ぐのはかわいそうだと、私を守りたいとおっしゃってくださったのですわ」
「ばっ!馬鹿者ーっ!」
ザニはソイラに書状を投げつけた。
部屋に連れ戻されたフェルナンド・イーデスは、頭を抱えてベッドに座り込んだ。
なぜだ?
父上はサラが婚約解消に応じると言えばそれで構わないと言ったではないか。双方が納得の上で解消するというのに、なぜそれで自分やタイリユ子爵家が責めを負わねばならないんだ?
恋人となったソイラ・タイリユ子爵令嬢も、その責めを負うのかと思うと気が重くなった。
ソイラは裕福なタイリユ子爵の娘だが、それまでは目立たぬ存在だった。最終学年になって初めて同じクラスになり知り合ったが、学内のパーティーでドレスアップしてきた美しさに目を惹かれ、同じ子爵家同士ということもあり親しくなった。
実はソイラは庶子で、入学直前の遅くに引き取られたため婚約者もおらず、歳の離れた貴族の再婚相手くらいにしかなれないだろうと嘆く姿に同情するうちに、どんどんとのめり込んでしまったのだ。
ソイラと会ったあと、サラの流行遅れの野暮ったい姿を見ると気持ちが急に萎えてしまう。それをくり返すうちにサラが嫌になり、ソイラと情を通じてしまった。
秘密の関係だったが、何故か父ブルワリーにばれて何度も殴られたあと、サラが婚約解消に応じるというならと言ったのだ。
婚約解消を決めたのは父なのに、なぜ自分が責めを負うのだろう?
そうだ!
母上なら私の味方をしてくれるに違いない!
母カイラの元へと足を運び、扉をノックすると侍女が顔を出した。
「母上にお目通り願いたい」
部屋へ通されると母カイラが項垂れていた。
「母上、大丈夫ですか?」
フェルナンドはまだわかっていなかった。
カイラがゆっくりとした動きで顔を上げると、その瞳は泣きくれて真っ赤だ。
「大丈夫なわけがないでしょう。私は大切な娘をひとり失ったのよ」
「いや、しかしこれからはソイラがおりますから、ソイラをかわいがってやってください」
無神経なことを言ったことにも気づかない。
「可愛がるですって?冗談じゃないわ。その娘はけっして私の娘とはならない。そうはさせないわ」
「なぜです?私の伴侶となる令嬢ですよ!かわいそうに美しい令嬢なのに、庶子というだけで歳の離れた貴族の再婚相手にさせられるところだった!でもこれからは私が彼女を守るのです。私の妻になるのですから、母上の娘ですよ」
ジッと暗い目を息子に向けると、フェルナンドも初めて聞く低く震える声でカイラが言った。
「フェルナンド、おまえは。
サラ様がおまえに傷物にされて、歳の離れた貴族の再婚相手にしかなれなくなることは気の毒ではないのか?サラ様は守られなくともよいとでも言うのかえ?」
「え・・・」
そう言われて初めて、フェルナンドは自分がサラに何をしたかがわかってきた。
「あ」
「サラ様はメーリア伯爵家のまごうかたなきご令嬢。汚らわしい疑惑の庶子などとは大違いのね。
十歳からおまえの婚約者として私たちとの関係を育んで、この私をお義母様と呼んでくれていた。そのサラ様の七年を裏切り、よくもまあ想い合う何処ぞの馬の骨を守るなどと言ったものだわ。
おまえたちはサラ様の身なりが流行遅れだと言ったそうだが、まさかメーリア領のこの数年の窮地を知らないわけではあるまい?領主一家が心血を注ぎ、身なりも構わず私財を投じて領地復興を行っているというのに、おまえも貴族、領主となるべき身で気遣いはできなかったのか?茶会に伴うならおまえがドレスを贈ればよかったではないか」
静かな口調ではあるが、聞いたことのない声と口調に母の怒りのほどが伝わってきて、フェルナンドは父に殴られたときよりも恐ろしくなって体が震え始めた。
「おまえは廃嫡されて当然であろう。我がイーデス家がどれほどの慰謝料を払うか。おまえのせいで、領民のために私財を投じる真面目な領主一家に後ろ足で砂をかけた一族だと、我らは社交界で誹りを受けねばならない。
まさか不満を言うつもりなどあるまい?」
「は、はい、ありません」
それだけをなんとか言うと、頭を深く下げてずりずりと摺り足をしながら母の部屋から逃げ出した。
はっはっと息が荒くなっている。
「なんということを私は・・・。もう取り返しがつかないのか?・・・これからどうなるんだろう」
ブルワリー・イーデス子爵とデード・メーリア伯爵から身に覚えのない書状を受け取ったザニ・タイリユ子爵は、目を通していくうちに顔を真っ赤に染めた。
こめかみに血管が浮いている。
「誰かっ、ソイラを呼べっ!」
使用人が慌てて小走りに廊下を行き、ソイラを連れて戻ってきた。
「お呼びと伺い参りました、お父さま」
「ソイラっ!おまえ、引き取ってやったというのに私の顔に泥を塗りおったな」
激怒したザニの怒号が飛び、ひっ!と声を上げて後退るが閉められた扉により部屋の中央へと押し戻される。
「あのお父さま」
「二度と私を父と呼ぶなっ!おまえなど引き取るのではなかったわ」
「あの、一体なにが」
「何がだと?おまえ、イーデス子爵家の息子となにがあった?」
フェルナンドのことを言われ、思わず頬を赤らめて微笑んだソイラを見て、ザニの怒りは最高潮に達した。
「おまえのせいでイーデス子爵家はメーリア伯爵家との婚約を解消せざるを得なくなった」
「はい、フェルナンド様が私をお選びくださったのです。婚約者の方は、地味で流行遅れな服しか着ないとご不満を覚えていらして。それに私が歳の離れた貴族に嫁ぐのはかわいそうだと、私を守りたいとおっしゃってくださったのですわ」
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