3 / 44
3話
しおりを挟む
「嘘だろう?私が廃嫡?タイリユ子爵家にも慰謝料だと?」
部屋に連れ戻されたフェルナンド・イーデスは、頭を抱えてベッドに座り込んだ。
なぜだ?
父上はサラが婚約解消に応じると言えばそれで構わないと言ったではないか。双方が納得の上で解消するというのに、なぜそれで自分やタイリユ子爵家が責めを負わねばならないんだ?
恋人となったソイラ・タイリユ子爵令嬢も、その責めを負うのかと思うと気が重くなった。
ソイラは裕福なタイリユ子爵の娘だが、それまでは目立たぬ存在だった。最終学年になって初めて同じクラスになり知り合ったが、学内のパーティーでドレスアップしてきた美しさに目を惹かれ、同じ子爵家同士ということもあり親しくなった。
実はソイラは庶子で、入学直前の遅くに引き取られたため婚約者もおらず、歳の離れた貴族の再婚相手くらいにしかなれないだろうと嘆く姿に同情するうちに、どんどんとのめり込んでしまったのだ。
ソイラと会ったあと、サラの流行遅れの野暮ったい姿を見ると気持ちが急に萎えてしまう。それをくり返すうちにサラが嫌になり、ソイラと情を通じてしまった。
秘密の関係だったが、何故か父ブルワリーにばれて何度も殴られたあと、サラが婚約解消に応じるというならと言ったのだ。
婚約解消を決めたのは父なのに、なぜ自分が責めを負うのだろう?
そうだ!
母上なら私の味方をしてくれるに違いない!
母カイラの元へと足を運び、扉をノックすると侍女が顔を出した。
「母上にお目通り願いたい」
部屋へ通されると母カイラが項垂れていた。
「母上、大丈夫ですか?」
フェルナンドはまだわかっていなかった。
カイラがゆっくりとした動きで顔を上げると、その瞳は泣きくれて真っ赤だ。
「大丈夫なわけがないでしょう。私は大切な娘をひとり失ったのよ」
「いや、しかしこれからはソイラがおりますから、ソイラをかわいがってやってください」
無神経なことを言ったことにも気づかない。
「可愛がるですって?冗談じゃないわ。その娘はけっして私の娘とはならない。そうはさせないわ」
「なぜです?私の伴侶となる令嬢ですよ!かわいそうに美しい令嬢なのに、庶子というだけで歳の離れた貴族の再婚相手にさせられるところだった!でもこれからは私が彼女を守るのです。私の妻になるのですから、母上の娘ですよ」
ジッと暗い目を息子に向けると、フェルナンドも初めて聞く低く震える声でカイラが言った。
「フェルナンド、おまえは。
サラ様がおまえに傷物にされて、歳の離れた貴族の再婚相手にしかなれなくなることは気の毒ではないのか?サラ様は守られなくともよいとでも言うのかえ?」
「え・・・」
そう言われて初めて、フェルナンドは自分がサラに何をしたかがわかってきた。
「あ」
「サラ様はメーリア伯爵家のまごうかたなきご令嬢。汚らわしい疑惑の庶子などとは大違いのね。
十歳からおまえの婚約者として私たちとの関係を育んで、この私をお義母様と呼んでくれていた。そのサラ様の七年を裏切り、よくもまあ想い合う何処ぞの馬の骨を守るなどと言ったものだわ。
おまえたちはサラ様の身なりが流行遅れだと言ったそうだが、まさかメーリア領のこの数年の窮地を知らないわけではあるまい?領主一家が心血を注ぎ、身なりも構わず私財を投じて領地復興を行っているというのに、おまえも貴族、領主となるべき身で気遣いはできなかったのか?茶会に伴うならおまえがドレスを贈ればよかったではないか」
静かな口調ではあるが、聞いたことのない声と口調に母の怒りのほどが伝わってきて、フェルナンドは父に殴られたときよりも恐ろしくなって体が震え始めた。
「おまえは廃嫡されて当然であろう。我がイーデス家がどれほどの慰謝料を払うか。おまえのせいで、領民のために私財を投じる真面目な領主一家に後ろ足で砂をかけた一族だと、我らは社交界で誹りを受けねばならない。
まさか不満を言うつもりなどあるまい?」
「は、はい、ありません」
それだけをなんとか言うと、頭を深く下げてずりずりと摺り足をしながら母の部屋から逃げ出した。
はっはっと息が荒くなっている。
「なんということを私は・・・。もう取り返しがつかないのか?・・・これからどうなるんだろう」
ブルワリー・イーデス子爵とデード・メーリア伯爵から身に覚えのない書状を受け取ったザニ・タイリユ子爵は、目を通していくうちに顔を真っ赤に染めた。
こめかみに血管が浮いている。
「誰かっ、ソイラを呼べっ!」
使用人が慌てて小走りに廊下を行き、ソイラを連れて戻ってきた。
「お呼びと伺い参りました、お父さま」
「ソイラっ!おまえ、引き取ってやったというのに私の顔に泥を塗りおったな」
激怒したザニの怒号が飛び、ひっ!と声を上げて後退るが閉められた扉により部屋の中央へと押し戻される。
「あのお父さま」
「二度と私を父と呼ぶなっ!おまえなど引き取るのではなかったわ」
「あの、一体なにが」
「何がだと?おまえ、イーデス子爵家の息子となにがあった?」
フェルナンドのことを言われ、思わず頬を赤らめて微笑んだソイラを見て、ザニの怒りは最高潮に達した。
「おまえのせいでイーデス子爵家はメーリア伯爵家との婚約を解消せざるを得なくなった」
「はい、フェルナンド様が私をお選びくださったのです。婚約者の方は、地味で流行遅れな服しか着ないとご不満を覚えていらして。それに私が歳の離れた貴族に嫁ぐのはかわいそうだと、私を守りたいとおっしゃってくださったのですわ」
「ばっ!馬鹿者ーっ!」
ザニはソイラに書状を投げつけた。
部屋に連れ戻されたフェルナンド・イーデスは、頭を抱えてベッドに座り込んだ。
なぜだ?
父上はサラが婚約解消に応じると言えばそれで構わないと言ったではないか。双方が納得の上で解消するというのに、なぜそれで自分やタイリユ子爵家が責めを負わねばならないんだ?
恋人となったソイラ・タイリユ子爵令嬢も、その責めを負うのかと思うと気が重くなった。
ソイラは裕福なタイリユ子爵の娘だが、それまでは目立たぬ存在だった。最終学年になって初めて同じクラスになり知り合ったが、学内のパーティーでドレスアップしてきた美しさに目を惹かれ、同じ子爵家同士ということもあり親しくなった。
実はソイラは庶子で、入学直前の遅くに引き取られたため婚約者もおらず、歳の離れた貴族の再婚相手くらいにしかなれないだろうと嘆く姿に同情するうちに、どんどんとのめり込んでしまったのだ。
ソイラと会ったあと、サラの流行遅れの野暮ったい姿を見ると気持ちが急に萎えてしまう。それをくり返すうちにサラが嫌になり、ソイラと情を通じてしまった。
秘密の関係だったが、何故か父ブルワリーにばれて何度も殴られたあと、サラが婚約解消に応じるというならと言ったのだ。
婚約解消を決めたのは父なのに、なぜ自分が責めを負うのだろう?
そうだ!
母上なら私の味方をしてくれるに違いない!
母カイラの元へと足を運び、扉をノックすると侍女が顔を出した。
「母上にお目通り願いたい」
部屋へ通されると母カイラが項垂れていた。
「母上、大丈夫ですか?」
フェルナンドはまだわかっていなかった。
カイラがゆっくりとした動きで顔を上げると、その瞳は泣きくれて真っ赤だ。
「大丈夫なわけがないでしょう。私は大切な娘をひとり失ったのよ」
「いや、しかしこれからはソイラがおりますから、ソイラをかわいがってやってください」
無神経なことを言ったことにも気づかない。
「可愛がるですって?冗談じゃないわ。その娘はけっして私の娘とはならない。そうはさせないわ」
「なぜです?私の伴侶となる令嬢ですよ!かわいそうに美しい令嬢なのに、庶子というだけで歳の離れた貴族の再婚相手にさせられるところだった!でもこれからは私が彼女を守るのです。私の妻になるのですから、母上の娘ですよ」
ジッと暗い目を息子に向けると、フェルナンドも初めて聞く低く震える声でカイラが言った。
「フェルナンド、おまえは。
サラ様がおまえに傷物にされて、歳の離れた貴族の再婚相手にしかなれなくなることは気の毒ではないのか?サラ様は守られなくともよいとでも言うのかえ?」
「え・・・」
そう言われて初めて、フェルナンドは自分がサラに何をしたかがわかってきた。
「あ」
「サラ様はメーリア伯爵家のまごうかたなきご令嬢。汚らわしい疑惑の庶子などとは大違いのね。
十歳からおまえの婚約者として私たちとの関係を育んで、この私をお義母様と呼んでくれていた。そのサラ様の七年を裏切り、よくもまあ想い合う何処ぞの馬の骨を守るなどと言ったものだわ。
おまえたちはサラ様の身なりが流行遅れだと言ったそうだが、まさかメーリア領のこの数年の窮地を知らないわけではあるまい?領主一家が心血を注ぎ、身なりも構わず私財を投じて領地復興を行っているというのに、おまえも貴族、領主となるべき身で気遣いはできなかったのか?茶会に伴うならおまえがドレスを贈ればよかったではないか」
静かな口調ではあるが、聞いたことのない声と口調に母の怒りのほどが伝わってきて、フェルナンドは父に殴られたときよりも恐ろしくなって体が震え始めた。
「おまえは廃嫡されて当然であろう。我がイーデス家がどれほどの慰謝料を払うか。おまえのせいで、領民のために私財を投じる真面目な領主一家に後ろ足で砂をかけた一族だと、我らは社交界で誹りを受けねばならない。
まさか不満を言うつもりなどあるまい?」
「は、はい、ありません」
それだけをなんとか言うと、頭を深く下げてずりずりと摺り足をしながら母の部屋から逃げ出した。
はっはっと息が荒くなっている。
「なんということを私は・・・。もう取り返しがつかないのか?・・・これからどうなるんだろう」
ブルワリー・イーデス子爵とデード・メーリア伯爵から身に覚えのない書状を受け取ったザニ・タイリユ子爵は、目を通していくうちに顔を真っ赤に染めた。
こめかみに血管が浮いている。
「誰かっ、ソイラを呼べっ!」
使用人が慌てて小走りに廊下を行き、ソイラを連れて戻ってきた。
「お呼びと伺い参りました、お父さま」
「ソイラっ!おまえ、引き取ってやったというのに私の顔に泥を塗りおったな」
激怒したザニの怒号が飛び、ひっ!と声を上げて後退るが閉められた扉により部屋の中央へと押し戻される。
「あのお父さま」
「二度と私を父と呼ぶなっ!おまえなど引き取るのではなかったわ」
「あの、一体なにが」
「何がだと?おまえ、イーデス子爵家の息子となにがあった?」
フェルナンドのことを言われ、思わず頬を赤らめて微笑んだソイラを見て、ザニの怒りは最高潮に達した。
「おまえのせいでイーデス子爵家はメーリア伯爵家との婚約を解消せざるを得なくなった」
「はい、フェルナンド様が私をお選びくださったのです。婚約者の方は、地味で流行遅れな服しか着ないとご不満を覚えていらして。それに私が歳の離れた貴族に嫁ぐのはかわいそうだと、私を守りたいとおっしゃってくださったのですわ」
「ばっ!馬鹿者ーっ!」
ザニはソイラに書状を投げつけた。
31
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い
希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。
一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。
ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。
その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。
彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。
しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。
今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる