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8話
口の中でふわりとろりと広がるクリームの甘さに、母娘できゃあきゃあと賑やかな笑い声が響く。
「本当においしい!」
母の声に、頷いたサラが
「冷やすことが大切らしいの。帰宅にかかる時間を訊ねられて、そうしたら氷を入れてくださったのだけれど」
「どおりで!ひんやりすると思ったわ」
「このクリーム、なにを使っていらっしゃるのかしら?」
「そうねえ、あまり見たことがないけれど、この数年のことなら我が家だけが知らないかもしれないわよ」
ネル夫人が言って、ふふっと笑った。
「そう・・・ありえるわ。リリエラを誘ってもう一度行ってみようかしら」
友人の顔が浮かんだ。
婚約者が留学しており、時間を持て余していると言っていたので、一緒に行ってくれるかもしれない。
「いいわね、たまにはおともだちと出かけていらっしゃいな」
母も心なしか楽しそうだ。
サラは早速リリエラへ手紙を書き、返事を待った。
翌日、返事とともに現れたリリエラに笑いを堪えきれず、吹き出したサラとモニカ、リリエラの護衛のベニーで王都へ向かう。
今日もモニカの案内で、あの店へ行くのだ。
「ねえサラ、本当にここなの?」
サラと同じ心配をリリエラもしているが
「大丈夫、私を信じて」
背中を優しく押して店に押し込むと、あの主が顔を出す。
「いらっしゃいませ?おや、先日のご令嬢ですね、ケーキは無事に持ち帰ることができましたか?」
「はい、おかげさまで。とっても美味しかったと母も喜んでおりましたわ」
「ありがとうございます。貴族の方にそのようにおっしゃっていただいて恐縮でございます」
「あら、他にも貴族が来るのではなくて」
「いえまさか。このような裏通りの薄暗い店に貴族の方など」
サラは好奇心の目を向ける。
「裏通りにわざわざ店を構えているのには理由がおありなのでしょう?」
「・・・・・なぜそんなことに興味を持たれるのですか」
ふっとサラの目に壁の貼り紙が飛び込んできた。
『店員募集』
働くところを探そうとは思っていた。
貴族の令嬢なら王城や貴族家の文官、侍女が圧倒的だが、サラはあまり興味を持てなかった。結婚も婚約解消して間もないサラは乗り気になれない。
何かやってみたいと思うが、何をやりたいかわからないまま、今もまだスイーツ巡りをしているのだ。
「そう、そうだわ。わたくしここで働かせていただきたいのです」
「はっ?」
主だけではない、リリエラもモニカもびっくりして聞き返す。
「サラ様、お待ちくださいっ」
「ちゃんと考えて、今日来たの。リリエラともう一度ケーキをいただいてからと思っていたけど」
もちろん嘘だ。貼り紙に気づいて、急にそんな気持ちになっただけ。でも思いつきを実行することに迷いはなかった。
主も迷うことなく、あっさりと言った。
「いやいや、貴族のお嬢様になど務まりませんよ。こちらはお断りです。ケーキを食べないならお帰りください」
ハッとしたモニカが食い下がる。
「いえ、ケーキはぜひ食べたいです!そこは断らないでください!」
リリエラの分もサラが支払い、二日前に食べたばかりのケーキを三人で啄む。
「私までご一緒してしまって申し訳ございません」
リリエラがいるので同じテーブルにつくことを遠慮したモニカだったが、リリエラも気にせず一緒に座るよう勧めてくれた。
「いいの。それよりサラよ!ねえ本気で言ったの?そりゃあ次の結婚どころではないと思うけど、早計すぎない?こんな裏通りのスイーツショップなんて」
「いいえ、私はだからこそ素敵だと思うの。こんな小さなスイーツショップだから目立たずひっそり働ける上に、あのケーキに近づけるのよ」
サラが右の口元だけを上げてニッと笑う。
何かを企んでいるような、そんな笑み。
「ねえ、モニカは応援してくれるわよね?」
「えっ?私・・・私はサラ様についていくだけです」
「モニカ、サラがメーリア家を出ることになったらあなたの雇い主は誰?」
「メーリア伯爵様・・・あっ」
メーリア伯爵家を出たサラに、伯爵家が自分をつけるかはわからない。
仮にサラについて出ても、サラが給金をはらえるのだろうか・・・
「は、反対です!私反対!どうしても働くというなら貴族のご令嬢に相応しいところにしてください!」
掌を返すモニカに、サラもリリエラも吹き出した。
「私、贅沢しなければなんとか暮らしていけるくらいの慰謝料を頂いたから、心配いらなくてよ」
すましたサラに、あっ!と声を漏らしたモニカが
「あっあっ、でもでもどうしよう~」
ひとり慌てるモニカに笑いを堪える令嬢二人である。
「でもご主人に断られたし、難しいのではないかしら」
「いーえ。どうせ時間はたっぷりあるのですもの、毎日でも来て、雇うと言わせてみせるわ」
ちょっと思いついただけだったが、一度断られたことで意地もでた。
─絶対にここで働くわ!─
スイーツショップの主、エンデラ・メーメは風邪をひいたわけでもないのに、酷い悪寒に見舞われていた。
「本当においしい!」
母の声に、頷いたサラが
「冷やすことが大切らしいの。帰宅にかかる時間を訊ねられて、そうしたら氷を入れてくださったのだけれど」
「どおりで!ひんやりすると思ったわ」
「このクリーム、なにを使っていらっしゃるのかしら?」
「そうねえ、あまり見たことがないけれど、この数年のことなら我が家だけが知らないかもしれないわよ」
ネル夫人が言って、ふふっと笑った。
「そう・・・ありえるわ。リリエラを誘ってもう一度行ってみようかしら」
友人の顔が浮かんだ。
婚約者が留学しており、時間を持て余していると言っていたので、一緒に行ってくれるかもしれない。
「いいわね、たまにはおともだちと出かけていらっしゃいな」
母も心なしか楽しそうだ。
サラは早速リリエラへ手紙を書き、返事を待った。
翌日、返事とともに現れたリリエラに笑いを堪えきれず、吹き出したサラとモニカ、リリエラの護衛のベニーで王都へ向かう。
今日もモニカの案内で、あの店へ行くのだ。
「ねえサラ、本当にここなの?」
サラと同じ心配をリリエラもしているが
「大丈夫、私を信じて」
背中を優しく押して店に押し込むと、あの主が顔を出す。
「いらっしゃいませ?おや、先日のご令嬢ですね、ケーキは無事に持ち帰ることができましたか?」
「はい、おかげさまで。とっても美味しかったと母も喜んでおりましたわ」
「ありがとうございます。貴族の方にそのようにおっしゃっていただいて恐縮でございます」
「あら、他にも貴族が来るのではなくて」
「いえまさか。このような裏通りの薄暗い店に貴族の方など」
サラは好奇心の目を向ける。
「裏通りにわざわざ店を構えているのには理由がおありなのでしょう?」
「・・・・・なぜそんなことに興味を持たれるのですか」
ふっとサラの目に壁の貼り紙が飛び込んできた。
『店員募集』
働くところを探そうとは思っていた。
貴族の令嬢なら王城や貴族家の文官、侍女が圧倒的だが、サラはあまり興味を持てなかった。結婚も婚約解消して間もないサラは乗り気になれない。
何かやってみたいと思うが、何をやりたいかわからないまま、今もまだスイーツ巡りをしているのだ。
「そう、そうだわ。わたくしここで働かせていただきたいのです」
「はっ?」
主だけではない、リリエラもモニカもびっくりして聞き返す。
「サラ様、お待ちくださいっ」
「ちゃんと考えて、今日来たの。リリエラともう一度ケーキをいただいてからと思っていたけど」
もちろん嘘だ。貼り紙に気づいて、急にそんな気持ちになっただけ。でも思いつきを実行することに迷いはなかった。
主も迷うことなく、あっさりと言った。
「いやいや、貴族のお嬢様になど務まりませんよ。こちらはお断りです。ケーキを食べないならお帰りください」
ハッとしたモニカが食い下がる。
「いえ、ケーキはぜひ食べたいです!そこは断らないでください!」
リリエラの分もサラが支払い、二日前に食べたばかりのケーキを三人で啄む。
「私までご一緒してしまって申し訳ございません」
リリエラがいるので同じテーブルにつくことを遠慮したモニカだったが、リリエラも気にせず一緒に座るよう勧めてくれた。
「いいの。それよりサラよ!ねえ本気で言ったの?そりゃあ次の結婚どころではないと思うけど、早計すぎない?こんな裏通りのスイーツショップなんて」
「いいえ、私はだからこそ素敵だと思うの。こんな小さなスイーツショップだから目立たずひっそり働ける上に、あのケーキに近づけるのよ」
サラが右の口元だけを上げてニッと笑う。
何かを企んでいるような、そんな笑み。
「ねえ、モニカは応援してくれるわよね?」
「えっ?私・・・私はサラ様についていくだけです」
「モニカ、サラがメーリア家を出ることになったらあなたの雇い主は誰?」
「メーリア伯爵様・・・あっ」
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「は、反対です!私反対!どうしても働くというなら貴族のご令嬢に相応しいところにしてください!」
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「いーえ。どうせ時間はたっぷりあるのですもの、毎日でも来て、雇うと言わせてみせるわ」
ちょっと思いついただけだったが、一度断られたことで意地もでた。
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