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11話
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その日、サラ・メーリアは朝早くに飛び起きて伯爵家の馬車で王都へ向かった。
護衛侍女のモニカもついていったが、店に一緒にいられるわけではないため馬車と一緒に帰れと言うと、複雑そうな顔で馬車へと乗り込み伯爵家へ戻って行った。
「おはようございます!」
「おはよう。本当に来たのか」
「もちろんですわ」
「ではまず名を教えてもらおうかな」
はっとした顔で佇まいを正すと、カーテシーではなくお辞儀をした。
「申し遅れました、サラ・メーリアと申します」
「メーリア?メーリア伯爵家のご令嬢?」
「ご令嬢ではございません、こちらの使用人になるのですから、どうかサラとお呼びください」
メーメよりサラの覚悟の方が上回っていた。失敗しても次があるとのんびり構えている父とは違い、サラにとっては背水の陣なのだ。
ここで自立した女性になるための何かを掴むと、決意してやってきたのだから、あれはできないこれはできないなどと言うつもりはこれっぽっちもない。
「わかった。私はエンデラ・メーメだ。メーメと呼ぶように」
「畏まりました、メーメ様」
メーメは当然サラもニ、三日で辞めると思っている。故に距離を近づけるようなことはせず、メーメと呼ばせることに決めていた。
「それではまず奥の掃除から始めなさい。掃除をしたことはあるのかね?」
用具入れの扉を開けながら訊ねると、サラはにっこり笑って答える。
「屋敷の使用人たちに教えてもらって參りましたわ」
そういうと屋敷から持ってきたエプロンを掛ける。よく見るとサラの服はメイドのお仕着せだ。レースを施して幾分か華やかだったので、メーメも最初は気付かなかった。
「おまかせくださいませ。貴族の本気をお見せいたしましょう!」
水を張ったバケツ、箒と塵取りなどを両手にして勇ましく奥へと歩いて行った。
それを鵜呑みにしたわけではないが、ほんの少し期待を込めた目でメーメが見守る。
まず部屋の隅から丁寧に部屋を掃き始めた。埃を巻き上げないよう静かに、そして掃き漏らしがないよう少しだけ移動しながら。
部屋全体を履き終えると、今度は拭き掃除を開始する。バケツに布巾をいれて湿らせ、ぎゅうっと絞って床を拭く。
キュッキュッと汚れを拭き取る音がして、時折額の汗を拭うサラの動きには貴族令嬢とは思えないほどに無駄がない。
それもそのはず。
メーメの店で働きたいと思うようになった日、メイドにミーラに、使用人になったら最初にやることは何か訊ねて掃除と聞いてから、ミーラに掃除のやり方を教えてもらっていたのだから。
付け焼き刃でも、伯爵家の掃除レベルである。如何に煩いメーメであっても、丁寧に施された掃除に文句のつけようがなかった。
強いて言うなら時間がかかりすぎたが、
慣れればもっと早く終えられるようになるだろうと、メーメは何も言わなかった。
「お掃除終わりましたっ」
よく動いたサラの顔は真っ赤だ。
「暑いのか?窓を開けて風を通すといいぞ」
「そんなことをしたら埃が入ってしまいますわ。扇ぐので大丈夫です」
エンデラ・メーメは困っていた。
今まで掃除を終えたものがいなかったのだ。やり直しをさせ続けているうちに一日終わり、翌日も掃除に明け暮れて三日目には来なくなるはずだったのだが、清々しい顔で次の仕事を与えられるのを待っている。
「次は何をしたらよろしいでしょうか?」
「果物の皮むきをしてもらおうか」
まずはオレンジの皮むきだ。
指先でむくには少し固い。
それが終わるとレモン絞り、リンゴの皮むきと、慣れないナイフを使う仕事は苦だろうと踏んだが、サラはこの三年、おやつは料理長に教えてもらって自分で作っていた。ナイフなどお手のもので、リンゴなど一度も皮を切ることなくくるくると長ーくむいてみせる。
メーメの目論見は外れ、しかたなく自分はケーキを作り、サラには店頭でお客様の対応をさせることにした。
彼とは違い、にこにこと感じよく丁寧に対応するサラがいると陰気臭さが薄れ、気のせいか店内が華やかにさえ見えてくるから不思議だ。
客も最低限のオーダーしかしないはずが、天気がいいだのあれがうまいこれがうまいと、サラと世間話をしているではないか。
メーメは首を捻った。
おかしい、こんなはずではなかったのだが?すぐに尻尾を巻いて逃げ出すはずではないのか?
「メーメ様、クリームのケーキはお出しできますかしら?」
「あ、ああ、何個だ?」
「四名様分お願いいたします。お茶は私がお出ししてよろしいでしょうか?」
「あ?茶淹れられるのかね?」
「もちろんですわ、お任せください。美味しく淹れてみせます」
そう宣言したサラはカップを温める間に、お茶用に温度を調整した湯を沸かし、茶葉を人数分用意する。準備を整えたらティーポットにぽこぽこと音が鳴る程度に沸かした湯と茶葉をいれて時間を計りながら葉を蒸らして。
横目に見るメーメはまた、手際よく丁寧に茶を淹れているサラに文句のつけようもなく、肩を竦めた。
護衛侍女のモニカもついていったが、店に一緒にいられるわけではないため馬車と一緒に帰れと言うと、複雑そうな顔で馬車へと乗り込み伯爵家へ戻って行った。
「おはようございます!」
「おはよう。本当に来たのか」
「もちろんですわ」
「ではまず名を教えてもらおうかな」
はっとした顔で佇まいを正すと、カーテシーではなくお辞儀をした。
「申し遅れました、サラ・メーリアと申します」
「メーリア?メーリア伯爵家のご令嬢?」
「ご令嬢ではございません、こちらの使用人になるのですから、どうかサラとお呼びください」
メーメよりサラの覚悟の方が上回っていた。失敗しても次があるとのんびり構えている父とは違い、サラにとっては背水の陣なのだ。
ここで自立した女性になるための何かを掴むと、決意してやってきたのだから、あれはできないこれはできないなどと言うつもりはこれっぽっちもない。
「わかった。私はエンデラ・メーメだ。メーメと呼ぶように」
「畏まりました、メーメ様」
メーメは当然サラもニ、三日で辞めると思っている。故に距離を近づけるようなことはせず、メーメと呼ばせることに決めていた。
「それではまず奥の掃除から始めなさい。掃除をしたことはあるのかね?」
用具入れの扉を開けながら訊ねると、サラはにっこり笑って答える。
「屋敷の使用人たちに教えてもらって參りましたわ」
そういうと屋敷から持ってきたエプロンを掛ける。よく見るとサラの服はメイドのお仕着せだ。レースを施して幾分か華やかだったので、メーメも最初は気付かなかった。
「おまかせくださいませ。貴族の本気をお見せいたしましょう!」
水を張ったバケツ、箒と塵取りなどを両手にして勇ましく奥へと歩いて行った。
それを鵜呑みにしたわけではないが、ほんの少し期待を込めた目でメーメが見守る。
まず部屋の隅から丁寧に部屋を掃き始めた。埃を巻き上げないよう静かに、そして掃き漏らしがないよう少しだけ移動しながら。
部屋全体を履き終えると、今度は拭き掃除を開始する。バケツに布巾をいれて湿らせ、ぎゅうっと絞って床を拭く。
キュッキュッと汚れを拭き取る音がして、時折額の汗を拭うサラの動きには貴族令嬢とは思えないほどに無駄がない。
それもそのはず。
メーメの店で働きたいと思うようになった日、メイドにミーラに、使用人になったら最初にやることは何か訊ねて掃除と聞いてから、ミーラに掃除のやり方を教えてもらっていたのだから。
付け焼き刃でも、伯爵家の掃除レベルである。如何に煩いメーメであっても、丁寧に施された掃除に文句のつけようがなかった。
強いて言うなら時間がかかりすぎたが、
慣れればもっと早く終えられるようになるだろうと、メーメは何も言わなかった。
「お掃除終わりましたっ」
よく動いたサラの顔は真っ赤だ。
「暑いのか?窓を開けて風を通すといいぞ」
「そんなことをしたら埃が入ってしまいますわ。扇ぐので大丈夫です」
エンデラ・メーメは困っていた。
今まで掃除を終えたものがいなかったのだ。やり直しをさせ続けているうちに一日終わり、翌日も掃除に明け暮れて三日目には来なくなるはずだったのだが、清々しい顔で次の仕事を与えられるのを待っている。
「次は何をしたらよろしいでしょうか?」
「果物の皮むきをしてもらおうか」
まずはオレンジの皮むきだ。
指先でむくには少し固い。
それが終わるとレモン絞り、リンゴの皮むきと、慣れないナイフを使う仕事は苦だろうと踏んだが、サラはこの三年、おやつは料理長に教えてもらって自分で作っていた。ナイフなどお手のもので、リンゴなど一度も皮を切ることなくくるくると長ーくむいてみせる。
メーメの目論見は外れ、しかたなく自分はケーキを作り、サラには店頭でお客様の対応をさせることにした。
彼とは違い、にこにこと感じよく丁寧に対応するサラがいると陰気臭さが薄れ、気のせいか店内が華やかにさえ見えてくるから不思議だ。
客も最低限のオーダーしかしないはずが、天気がいいだのあれがうまいこれがうまいと、サラと世間話をしているではないか。
メーメは首を捻った。
おかしい、こんなはずではなかったのだが?すぐに尻尾を巻いて逃げ出すはずではないのか?
「メーメ様、クリームのケーキはお出しできますかしら?」
「あ、ああ、何個だ?」
「四名様分お願いいたします。お茶は私がお出ししてよろしいでしょうか?」
「あ?茶淹れられるのかね?」
「もちろんですわ、お任せください。美味しく淹れてみせます」
そう宣言したサラはカップを温める間に、お茶用に温度を調整した湯を沸かし、茶葉を人数分用意する。準備を整えたらティーポットにぽこぽこと音が鳴る程度に沸かした湯と茶葉をいれて時間を計りながら葉を蒸らして。
横目に見るメーメはまた、手際よく丁寧に茶を淹れているサラに文句のつけようもなく、肩を竦めた。
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