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12話
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一日が終わったメーメの店で、サラが片付けをしていると、背中から店主のエンデラ・メーメが声をかけた。
「今日は一日がんばったな」
本当は、やっぱり貴族のお嬢様が働くなど無理と言ってやるはずだったのだが、サラの準備のほうが一枚上手だった。
不本意ながら褒めるしかないと認めて、訊いてみることにする。
「なぜ伯爵令嬢なのに、掃除や果物の皮むきができたのだ?」
「それは不思議なことなのですか?」
「ああ、普通はできない」
「そうでしたか。それならよかったですわ。私、こちらで働きたいと思うようになってからメイドに掃除の仕方などを教えてもらっていたのです。皮むきは・・・領地の災害で家に余裕が無くて、いつも自分でおやつを作っておりましたから」
それはメーメには予想外の答えであった。
「自分で作っていた?」
「ええ。今は我が家は領地復興のために砂糖などはあまり買えないのです。パティシエも辞めてしまいまして、おやつが食べたいときははちみつや果物を使って自分で作るしかございませんの」
そんな伯爵令嬢がいるなんて誰が思うだろう。
メーメは呆れつつも、サラ・メーリア伯爵令嬢はただのお嬢様ではないと漸く気がついた。
「そうか。ではまた明日、同じように掃除から始めてくれ。気をつけて帰りなさい」
「はいっ畏まりました!お先に失礼いたします」
扉がしまると店内にメーメの溜息が響いた。
「また明日か・・・参ったな」
店員が欲しいのは間違いない。
定期的に知人からまとまった数で焼き菓子の注文が入る上、店で食べていく客の対応もあるので、いてくれれば有り難い。
「まあ、どこまでやれるものか、様子を見るとするか・・・」
それからのサラの毎日は、店をピカピカにすることから始まった。
最初のうちは時間をかけて飲食用のホールや販売スペースだけを掃除していたが、しばらくすると厨房の掃除もメーメとやるようになり、バラして洗浄しなければならないものなどは機器の外し方なども教わった。どんな機器があり、どう使って何を作るのか。
伯爵家の厨房とは段違いの設備に舌を巻く。どの機器も磨きあげられて、メーメの性格がよくわかる気がした。
「掃除は毎日このくらいでいい」
初めて及第点をもらって、サラはうれしそうに「はいっ」と答える。
「来客時は販売と飲食スペースを頼むが、手が空いたときは果物の皮むきと絞り汁を頼む。あと粉を振るってもらおうか」
果物の皮むきは、前回より丁寧に教えてもらう。オレンジの皮をむいたあと、薄皮もむくのだとやって見せてくれた。
「当分は果物の皮むきと、オレンジとレモンの絞り汁係とする」
役目を仰せつかり、サラは大いに張り切った。
「このオレンジやレモンはケーキには使いませんよね?」
「それはジュレ用だよ。涼しそうに見えるから夏は特に人気が高い」
どのように絞れば効率的か、そしてカスが入らないように布で濾すなど、基礎的な準備を覚えていった。
「じゃあそろそろ卵割りもやってみるか」
メーメがそう言い出したのは一月も経った頃。
もうサラを辞めさせようとは思っていない。何しろ次にやるだろうことがわかると家で先に練習してきて、完璧とは言えなくてもやる気を見せつけるのだから。
むしろ面白くなってきて、今はサラをどう育てるかを考えるのが楽しくなっていた。
日が経つうち、メーメはサラにいくつかの仕事を途中まで任せてみることにした。
例えばジュレ作りの一部や焼き菓子の粉を振るい卵や砂糖とよく混ぜさせる。
もちろん、サラの仕事で完成させることはなく、メーメが仕上げをするのだが一部でも任せられることでサラのやる気は更に上がった。
「師匠!これが上手く混ざらないんです」
サラはいつの間にかメーメを師匠と呼んでいた。
スイーツ作りを手取り足取り教えてくれるわけではないが、わからないところは丁寧にやってみせてくれる。それを見て真似をし、自分のものにしていくのだ。
見て盗めという師匠が多い中、メーメはかなり親切に教えていると言って間違いないだろう。
サラは伯爵家に帰ると今日覚えたことを書き付けたメモをまとめ、忘れないように毎晩最初からすべて読み返している。日を追うごとにまとめは増えて、読む時間も長くなっているがやめる気はない。
メーメがなかなかすごいと思っているサラは、その努力の積み重ねによって作り上げられたものだった。
さて。
外から見える厨房で、サラが卵をかき混ぜたり焼き菓子の生地を伸ばしたりする姿が見られるようになると、王都周辺の菓子屋では、あのメーメがとうとう弟子を取ったと噂になった。
噂のサラを見に来るパティシエも多くいたが、すぐメーメに撃退される。
メーメとサラは月日が経つうちに、良き師弟となりつつあった。
「今日は一日がんばったな」
本当は、やっぱり貴族のお嬢様が働くなど無理と言ってやるはずだったのだが、サラの準備のほうが一枚上手だった。
不本意ながら褒めるしかないと認めて、訊いてみることにする。
「なぜ伯爵令嬢なのに、掃除や果物の皮むきができたのだ?」
「それは不思議なことなのですか?」
「ああ、普通はできない」
「そうでしたか。それならよかったですわ。私、こちらで働きたいと思うようになってからメイドに掃除の仕方などを教えてもらっていたのです。皮むきは・・・領地の災害で家に余裕が無くて、いつも自分でおやつを作っておりましたから」
それはメーメには予想外の答えであった。
「自分で作っていた?」
「ええ。今は我が家は領地復興のために砂糖などはあまり買えないのです。パティシエも辞めてしまいまして、おやつが食べたいときははちみつや果物を使って自分で作るしかございませんの」
そんな伯爵令嬢がいるなんて誰が思うだろう。
メーメは呆れつつも、サラ・メーリア伯爵令嬢はただのお嬢様ではないと漸く気がついた。
「そうか。ではまた明日、同じように掃除から始めてくれ。気をつけて帰りなさい」
「はいっ畏まりました!お先に失礼いたします」
扉がしまると店内にメーメの溜息が響いた。
「また明日か・・・参ったな」
店員が欲しいのは間違いない。
定期的に知人からまとまった数で焼き菓子の注文が入る上、店で食べていく客の対応もあるので、いてくれれば有り難い。
「まあ、どこまでやれるものか、様子を見るとするか・・・」
それからのサラの毎日は、店をピカピカにすることから始まった。
最初のうちは時間をかけて飲食用のホールや販売スペースだけを掃除していたが、しばらくすると厨房の掃除もメーメとやるようになり、バラして洗浄しなければならないものなどは機器の外し方なども教わった。どんな機器があり、どう使って何を作るのか。
伯爵家の厨房とは段違いの設備に舌を巻く。どの機器も磨きあげられて、メーメの性格がよくわかる気がした。
「掃除は毎日このくらいでいい」
初めて及第点をもらって、サラはうれしそうに「はいっ」と答える。
「来客時は販売と飲食スペースを頼むが、手が空いたときは果物の皮むきと絞り汁を頼む。あと粉を振るってもらおうか」
果物の皮むきは、前回より丁寧に教えてもらう。オレンジの皮をむいたあと、薄皮もむくのだとやって見せてくれた。
「当分は果物の皮むきと、オレンジとレモンの絞り汁係とする」
役目を仰せつかり、サラは大いに張り切った。
「このオレンジやレモンはケーキには使いませんよね?」
「それはジュレ用だよ。涼しそうに見えるから夏は特に人気が高い」
どのように絞れば効率的か、そしてカスが入らないように布で濾すなど、基礎的な準備を覚えていった。
「じゃあそろそろ卵割りもやってみるか」
メーメがそう言い出したのは一月も経った頃。
もうサラを辞めさせようとは思っていない。何しろ次にやるだろうことがわかると家で先に練習してきて、完璧とは言えなくてもやる気を見せつけるのだから。
むしろ面白くなってきて、今はサラをどう育てるかを考えるのが楽しくなっていた。
日が経つうち、メーメはサラにいくつかの仕事を途中まで任せてみることにした。
例えばジュレ作りの一部や焼き菓子の粉を振るい卵や砂糖とよく混ぜさせる。
もちろん、サラの仕事で完成させることはなく、メーメが仕上げをするのだが一部でも任せられることでサラのやる気は更に上がった。
「師匠!これが上手く混ざらないんです」
サラはいつの間にかメーメを師匠と呼んでいた。
スイーツ作りを手取り足取り教えてくれるわけではないが、わからないところは丁寧にやってみせてくれる。それを見て真似をし、自分のものにしていくのだ。
見て盗めという師匠が多い中、メーメはかなり親切に教えていると言って間違いないだろう。
サラは伯爵家に帰ると今日覚えたことを書き付けたメモをまとめ、忘れないように毎晩最初からすべて読み返している。日を追うごとにまとめは増えて、読む時間も長くなっているがやめる気はない。
メーメがなかなかすごいと思っているサラは、その努力の積み重ねによって作り上げられたものだった。
さて。
外から見える厨房で、サラが卵をかき混ぜたり焼き菓子の生地を伸ばしたりする姿が見られるようになると、王都周辺の菓子屋では、あのメーメがとうとう弟子を取ったと噂になった。
噂のサラを見に来るパティシエも多くいたが、すぐメーメに撃退される。
メーメとサラは月日が経つうちに、良き師弟となりつつあった。
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