【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
12 / 44

12話

 一日が終わったメーメの店で、サラが片付けをしていると、背中から店主のエンデラ・メーメが声をかけた。

「今日は一日がんばったな」

 本当は、やっぱり貴族のお嬢様が働くなど無理と言ってやるはずだったのだが、サラの準備のほうが一枚上手だった。
不本意ながら褒めるしかないと認めて、訊いてみることにする。

「なぜ伯爵令嬢なのに、掃除や果物の皮むきができたのだ?」
「それは不思議なことなのですか?」
「ああ、普通はできない」
「そうでしたか。それならよかったですわ。私、こちらで働きたいと思うようになってからメイドに掃除の仕方などを教えてもらっていたのです。皮むきは・・・領地の災害で家に余裕が無くて、いつも自分でおやつを作っておりましたから」

 それはメーメには予想外の答えであった。

「自分で作っていた?」
「ええ。今は我が家は領地復興のために砂糖などはあまり買えないのです。パティシエも辞めてしまいまして、おやつが食べたいときははちみつや果物を使って自分で作るしかございませんの」

 そんな伯爵令嬢がいるなんて誰が思うだろう。
メーメは呆れつつも、サラ・メーリア伯爵令嬢はただのお嬢様ではないと漸く気がついた。

「そうか。ではまた明日、同じように掃除から始めてくれ。気をつけて帰りなさい」
「はいっ畏まりました!お先に失礼いたします」

 扉がしまると店内にメーメの溜息が響いた。

「また明日か・・・参ったな」

 店員が欲しいのは間違いない。
定期的に知人からまとまった数で焼き菓子の注文が入る上、店で食べていく客の対応もあるので、いてくれれば有り難い。

「まあ、どこまでやれるものか、様子を見るとするか・・・」

 それからのサラの毎日は、店をピカピカにすることから始まった。
最初のうちは時間をかけて飲食用のホールや販売スペースだけを掃除していたが、しばらくすると厨房の掃除もメーメとやるようになり、バラして洗浄しなければならないものなどは機器の外し方なども教わった。どんな機器があり、どう使って何を作るのか。
 伯爵家の厨房とは段違いの設備に舌を巻く。どの機器も磨きあげられて、メーメの性格がよくわかる気がした。

「掃除は毎日このくらいでいい」

 初めて及第点をもらって、サラはうれしそうに「はいっ」と答える。

「来客時は販売と飲食スペースを頼むが、手が空いたときは果物の皮むきと絞り汁を頼む。あと粉を振るってもらおうか」

 果物の皮むきは、前回より丁寧に教えてもらう。オレンジの皮をむいたあと、薄皮もむくのだとやって見せてくれた。

「当分は果物の皮むきと、オレンジとレモンの絞り汁係とする」

 役目を仰せつかり、サラは大いに張り切った。

「このオレンジやレモンはケーキには使いませんよね?」
「それはジュレ用だよ。涼しそうに見えるから夏は特に人気が高い」

 どのように絞れば効率的か、そしてカスが入らないように布で濾すなど、基礎的な準備を覚えていった。



「じゃあそろそろ卵割りもやってみるか」

 メーメがそう言い出したのは一月も経った頃。
もうサラを辞めさせようとは思っていない。何しろ次にやるだろうことがわかると家で先に練習してきて、完璧とは言えなくてもやる気を見せつけるのだから。
 むしろ面白くなってきて、今はサラをどう育てるかを考えるのが楽しくなっていた。

 日が経つうち、メーメはサラにいくつかの仕事を途中まで任せてみることにした。
例えばジュレ作りの一部や焼き菓子の粉を振るい卵や砂糖とよく混ぜさせる。
 もちろん、サラの仕事で完成させることはなく、メーメが仕上げをするのだが一部でも任せられることでサラのやる気は更に上がった。

「師匠!これが上手く混ざらないんです」

 サラはいつの間にかメーメを師匠と呼んでいた。
 スイーツ作りを手取り足取り教えてくれるわけではないが、わからないところは丁寧にやってみせてくれる。それを見て真似をし、自分のものにしていくのだ。
見て盗めという師匠が多い中、メーメはかなり親切に教えていると言って間違いないだろう。
 サラは伯爵家に帰ると今日覚えたことを書き付けたメモをまとめ、忘れないように毎晩最初からすべて読み返している。日を追うごとにまとめは増えて、読む時間も長くなっているがやめる気はない。
 メーメがなかなかすごいと思っているサラは、その努力の積み重ねによって作り上げられたものだった。

 さて。
 外から見える厨房で、サラが卵をかき混ぜたり焼き菓子の生地を伸ばしたりする姿が見られるようになると、王都周辺の菓子屋では、あのメーメがとうとう弟子を取ったと噂になった。
 噂のサラを見に来るパティシエも多くいたが、すぐメーメに撃退される。
メーメとサラは月日が経つうちに、良き師弟となりつつあった。
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます

みゅー
恋愛
ジェイドは幼いころ会った王太子殿下であるカーレルのことを忘れたことはなかった。だが魔法学校で再会したカーレルはジェイドのことを覚えていなかった。 それでもジェイドはカーレルを想っていた。 学校の卒業式の日、貴族令嬢と親しくしているカーレルを見て元々身分差もあり儚い恋だと潔く身を引いたジェイド。 赴任先でモンスターの襲撃に会い、療養で故郷にもどった先で驚きの事実を知る。自分はこの宇宙を作るための機械『ジェイド』のシステムの一つだった。 それからは『ジェイド』に従い動くことになるが、それは国を裏切ることにもなりジェイドは最終的に殺されてしまう。 ところがその後ジェイドの記憶を持ったまま翡翠として他の世界に転生し元の世界に召喚され…… ジェイドは王太子殿下のカーレルを愛していた。 だが、自分が裏切り者と思われてもやらなければならないことができ、それを果たした。 そして、死んで翡翠として他の世界で生まれ変わったが、ものと世界に呼び戻される。 そして、戻った世界ではカーレルは聖女と呼ばれる令嬢と恋人になっていた。 だが、裏切り者のジェイドの生まれ変わりと知っていて、恋人がいるはずのカーレルはなぜか翡翠に優しくしてきて……

【完結】破滅フラグを回避したいのに婚約者の座は譲れません⁈─王太子殿下の婚約者に転生したみたいだけど転生先の物語がわかりません─

江崎美彩
恋愛
侯爵家の令嬢エレナ・トワインは王太子殿下の婚約者……のはずなのに、正式に発表されないまま月日が過ぎている。 王太子殿下も通う王立学園に入学して数日たったある日、階段から転げ落ちたエレナは、オタク女子高生だった恵玲奈の記憶を思い出す。 『えっ? もしかしてわたし転生してる?』 でも肝心の転生先の作品もヒロインなのか悪役なのかモブなのかもわからない。エレナの記憶も恵玲奈の記憶も曖昧で、エレナの王太子殿下に対する一方的な恋心だけしか手がかりがない。 王太子殿下の発表されていない婚約者って、やっぱり悪役令嬢だから殿下の婚約者として正式に発表されてないの? このまま婚約者の座に固執して、断罪されたりしたらどうしよう! 『婚約者から妹としか思われてないと思い込んで悪役令嬢になる前に身をひこうとしている侯爵令嬢(転生者)』と『婚約者から兄としか思われていないと思い込んで自制している王太子様』の勘違いからすれ違いしたり、謀略に巻き込まれてすれ違いしたりする物語です。 長編ですが、一話一話はさっくり読めるように短めです。 『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています。

王太子に理不尽に婚約破棄されたので辺境を改革したら、王都に戻ってきてくれと言われました

水上
恋愛
【全18話完結】 「君は中身まで腐っている」と婚約破棄されたエリアナ。 そんな彼女は成り行きで辺境へ嫁ぐことに。 自身の知識と技術で辺境を改革するエリアナ。 そんな彼女を、白い結婚のはずなのに「膝枕は合理的だ」と甘やかす夫。 一方、エリアナを追放した王都では、彼女の不在の影響が出始めて……。

悪役令嬢は自称親友の令嬢に婚約者を取られ、予定どおり無事に婚約破棄されることに成功しましたが、そのあとのことは考えてませんでした

みゅー
恋愛
婚約者のエーリクと共に招待された舞踏会、公の場に二人で参加するのは初めてだったオルヘルスは、緊張しながらその場へ臨んだ。 会場に入ると前方にいた幼馴染みのアリネアと目が合った。すると、彼女は突然泣き出しそんな彼女にあろうことか婚約者のエーリクが駆け寄る。 そんな二人に注目が集まるなか、エーリクは突然オルヘルスに婚約破棄を言い渡す……。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。