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19話
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タイリユ子爵家では、ザイアが持ち帰った大量のスイーツに子爵夫人のエラと弟のゲール、遊びに来ていたその婚約者カナリエが歓声をあげた。
「ゲール様から聞いておりますわ!頂いて宜しいのですか?」
カナリエはうれしそうに、遠慮なくフルーツケーキに手をのばした。エラはいつものジュレに。
「これよ、これ!私が食べたかったスイーツは」
ぱくりとジュレを食べ終えたエラに、ザイアが訊ねる。
「母上、お味はいかがですか?」
「もちろん!今日もとっても美味しいわ。オレンジの酸味と甘みが絶妙でのどごしがつるんとして!うちのパティシエにもこれくらい美味しいものを作ってほしいのだけど」
それを聞いたザイアがとてもうれしそうに笑う、自分の手柄を褒められたように。
エラがはて?と小首を傾げたとき
「実は今日のスイーツは、店員のお嬢さんが作られたそうなんですよ」
弾むザイアの声に、居合わせた三人は目配せをしてにんまりと口角をあげた。
「この前お留守をされていた方ね!素晴らしい腕だと思うわ!ああ、私も会ってみたい。あの店にまた行きたいわ」
「いいですよ、そのうちにまたご案内しましょう」
ザイアの言葉を聞いたカナリエが、ゲールに自分も行ってみたいとねだったので、いずれ皆で都合を合わせて一緒に行くことになった。
「このパティスリー、うちの商会が手を貸したらもっと大きくなれるのではなくて?」
エラが言うが、ザイアは首を振る。
「店がそれを望んでいるなら、とうに自らそうしているでしょうね。
人も今日初めて見かけた者がいましたが、三人でやっているようですし。人手がなければたくさんは作れませんよ。大きくするために急拵えの人手を増やすより、美味しいけど少量しか作れないことを大切にするほうが店の価値を高めるのではないでしょうか?」
「確かに兄上の言うことには一理ある。あの店は、大きくなるより知る人ぞ知る店という方が似合う気がするしな」
ゲールがザイアに同意すると、商会の娘でもあるカナリエは
「希少価値のあるスイーツ、素敵だわ!」
何かを狙うように瞳をきらりと光らせた。
「そういえば店でしか食べられないケーキがあるんだが、今日は置いてなかったんだ。主もいなかったし」
「あら、そうなの?あの主人、相当なお年でしょう?体調でも悪いのかしら」
「主人でなければ作れない物もあるのかもしれんな。あのケーキが食べられなくなったら残念だ。また明日にでも聞いてみることにするよ」
何でもないことのようにザイアが言ったので、エラたちは面食らった。
今日こんなに買い込んできたというのに、明日も買ってくるつもりなのかと。
しかし、それを口にする者はいない。
婚約を解消して以来、こんなに華やいだ顔をしたザイアを見たのはエラもゲールもひさしぶりだったから。
ザイアが食べきれなかったスイーツを侍女たちに分けると言って部屋を出たあと、エラがぽつりと言った。
「あのときザイアにもゲールにも罪のないことなのに、二人を巻き込んで傷付けてしまったわ。でももういい加減幸せになってもらいたいの。もしね。パティシエールのお嬢さんがしっかりした、ザイアを大切にしてくださる方なら、身分は問わなくても良いのではないかと私は思うのよ。スイーツを作りたいなら作ればいいと思う。ゲール、貴方はどう思う?」
「母上。カナリエも平民ですから彼女の家に婿入りすれば私もそうなりますが、私はこの婚約で満たされています。貴族同士の縁も大切だと理解していますが、貴族同士だったからこそあのとき我が家は遠慮なく切り捨てられたのですから・・・、想い合い、お互いを大切にできる相手を選んだほうが幸せになれるでしょう。
兄上がパティシエールの娘を想うのであれば、我が家がその娘を貴族のしがらみから守ってやればいいだけです。平民であろうと本人の素養が良ければ良しとすべきと思いますよ。但しソイラのような者だとしたら、また傷を負うだけですから諦めるべきとも思いますがね」
エラはゲールの言葉に満足したように、ゆっくり大きく頷いた。カナリエもその想いを聞いてとてもうれしそうにゲールを見つめている。
「あのとき私たちはたくさんの犠牲を払いましたが、少なくとも私は、そのおかげで何が本当の幸せで本当に信頼できるのが誰かを知りましたよ。兄上にもそういう相手に出逢ってもらいたいと心から思っています」
そう言うとゲールは、彼が愛するカナリエをエスコートし、夕暮れが美しい庭へと出て行った。
エラはゲールの気持ちを知って自分も気持ちを固めた。もしザイアが平民を選んでも、まずは人柄を見、無闇に反対はしないと。
もちろん夫ザニに文句は言わせない。
そう決めると、気持ちが軽くなった。
「ザイアたちがいてもいなくても構わないわ。明日ひとりでスイーツショップに行ってみようかしら」
独りごちると、ふふっと微笑んだ。
「ゲール様から聞いておりますわ!頂いて宜しいのですか?」
カナリエはうれしそうに、遠慮なくフルーツケーキに手をのばした。エラはいつものジュレに。
「これよ、これ!私が食べたかったスイーツは」
ぱくりとジュレを食べ終えたエラに、ザイアが訊ねる。
「母上、お味はいかがですか?」
「もちろん!今日もとっても美味しいわ。オレンジの酸味と甘みが絶妙でのどごしがつるんとして!うちのパティシエにもこれくらい美味しいものを作ってほしいのだけど」
それを聞いたザイアがとてもうれしそうに笑う、自分の手柄を褒められたように。
エラがはて?と小首を傾げたとき
「実は今日のスイーツは、店員のお嬢さんが作られたそうなんですよ」
弾むザイアの声に、居合わせた三人は目配せをしてにんまりと口角をあげた。
「この前お留守をされていた方ね!素晴らしい腕だと思うわ!ああ、私も会ってみたい。あの店にまた行きたいわ」
「いいですよ、そのうちにまたご案内しましょう」
ザイアの言葉を聞いたカナリエが、ゲールに自分も行ってみたいとねだったので、いずれ皆で都合を合わせて一緒に行くことになった。
「このパティスリー、うちの商会が手を貸したらもっと大きくなれるのではなくて?」
エラが言うが、ザイアは首を振る。
「店がそれを望んでいるなら、とうに自らそうしているでしょうね。
人も今日初めて見かけた者がいましたが、三人でやっているようですし。人手がなければたくさんは作れませんよ。大きくするために急拵えの人手を増やすより、美味しいけど少量しか作れないことを大切にするほうが店の価値を高めるのではないでしょうか?」
「確かに兄上の言うことには一理ある。あの店は、大きくなるより知る人ぞ知る店という方が似合う気がするしな」
ゲールがザイアに同意すると、商会の娘でもあるカナリエは
「希少価値のあるスイーツ、素敵だわ!」
何かを狙うように瞳をきらりと光らせた。
「そういえば店でしか食べられないケーキがあるんだが、今日は置いてなかったんだ。主もいなかったし」
「あら、そうなの?あの主人、相当なお年でしょう?体調でも悪いのかしら」
「主人でなければ作れない物もあるのかもしれんな。あのケーキが食べられなくなったら残念だ。また明日にでも聞いてみることにするよ」
何でもないことのようにザイアが言ったので、エラたちは面食らった。
今日こんなに買い込んできたというのに、明日も買ってくるつもりなのかと。
しかし、それを口にする者はいない。
婚約を解消して以来、こんなに華やいだ顔をしたザイアを見たのはエラもゲールもひさしぶりだったから。
ザイアが食べきれなかったスイーツを侍女たちに分けると言って部屋を出たあと、エラがぽつりと言った。
「あのときザイアにもゲールにも罪のないことなのに、二人を巻き込んで傷付けてしまったわ。でももういい加減幸せになってもらいたいの。もしね。パティシエールのお嬢さんがしっかりした、ザイアを大切にしてくださる方なら、身分は問わなくても良いのではないかと私は思うのよ。スイーツを作りたいなら作ればいいと思う。ゲール、貴方はどう思う?」
「母上。カナリエも平民ですから彼女の家に婿入りすれば私もそうなりますが、私はこの婚約で満たされています。貴族同士の縁も大切だと理解していますが、貴族同士だったからこそあのとき我が家は遠慮なく切り捨てられたのですから・・・、想い合い、お互いを大切にできる相手を選んだほうが幸せになれるでしょう。
兄上がパティシエールの娘を想うのであれば、我が家がその娘を貴族のしがらみから守ってやればいいだけです。平民であろうと本人の素養が良ければ良しとすべきと思いますよ。但しソイラのような者だとしたら、また傷を負うだけですから諦めるべきとも思いますがね」
エラはゲールの言葉に満足したように、ゆっくり大きく頷いた。カナリエもその想いを聞いてとてもうれしそうにゲールを見つめている。
「あのとき私たちはたくさんの犠牲を払いましたが、少なくとも私は、そのおかげで何が本当の幸せで本当に信頼できるのが誰かを知りましたよ。兄上にもそういう相手に出逢ってもらいたいと心から思っています」
そう言うとゲールは、彼が愛するカナリエをエスコートし、夕暮れが美しい庭へと出て行った。
エラはゲールの気持ちを知って自分も気持ちを固めた。もしザイアが平民を選んでも、まずは人柄を見、無闇に反対はしないと。
もちろん夫ザニに文句は言わせない。
そう決めると、気持ちが軽くなった。
「ザイアたちがいてもいなくても構わないわ。明日ひとりでスイーツショップに行ってみようかしら」
独りごちると、ふふっと微笑んだ。
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