【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
22 / 44

22話

しおりを挟む
 王都の裏通りでザイアが見かけたのは、かつて父の庶子としてタイリユ子爵家で育てていたソイラに、驚くほどに良く似た男。
 父娘と並んで現れたら誰も疑いようがないほどに似ていて、思わず肌が粟立ったほど。

 あの出来事以来、ソイラはタイリユ商会が持つ製糸工場で働かされて、子爵家が払った慰謝料の返済を続けている。
 娼館のようなところとは違い、俸給が安いためまだほんの少ししか取り返せていないのだが、制服があり、寮の中で支給された食事を食べられるのだからと、俸給はすべて返済に充てさせているのだが。

 ソイラはその母親ともども、ザニ・タイリユ子爵の娘と言い張り、親子かどうかの真偽は今も判明しないまま。

(もしあの男がソイラの父親だとしたら!)

 ザイアは一瞬も目を逸らさずに、離されないよう尾行を続けた。
その男は小さな屋敷に吸い込まれていく。

「バーリン」

 屋敷は小さいながらどう見ても貴族の構えであるが、バーリンという名に聞き覚えがない。
 もちろんすべての貴族を知るわけではないのだが、主要な貴族ならだいたいの名はわかるにも関わらず。

「調べてみるかな」

 そう呟いて踵を反し、馬車へ戻ろうとしたときに行き違った女に目が吸い付いた。
以前より年をとったが、間違いなくソイラの母親だ!
 女はバーリン家のベルを鳴らして中に招き入れられた。

 ザイアの頭の中に、あることが思い浮かぶ。

「急いで調べなくては!」

 馬車に戻ると、御者にスイーツを使用人たちで分けるよう伝えて、自分は王城に戻ることと今夜は帰れないかもしれないが仮眠所に泊めてもらうと伝えて屋敷に帰した。

 乗合馬車で城へ戻り、図書室で最新の貴族名鑑を調べ始める。

「バーリン、バー・・・」

 指先が活字を追って紙面を滑っていく。

「バーリン!これだ。バーリン準男爵」

 一代爵位の準男爵で当主はジェニルド・バーリン。
貴族名鑑によると爵位を賜ったのは、三年前にニルド商会長としての功績によりとある。

『ジェニルド・バーリン、旧姓メヘンディ。
バーリン家へ婿入りするとその手腕により商会を発展。平民の生活をその流通力で向上させたと評価され叙爵した』

 ニルド商会?
元は平民向けであったが貴族へも出入りを画策し、タイリユ商会が醜聞に勢いを落としたとき、手を拡げた商会だ。
 もしその商会長がソイラの父だとしたら、それなりに裕福なのだから自ら囲いこめば良い。こどももいないようだし、自分の跡目を継がせればよいだけではないか。
 なぜタイリユ子爵家に托卵などする必要がある?

 疑問を浮かべながら先を読む。

『家族 妻エレンザ、嫡男ゴーミ。馬車事故により落命』

「え・・・。妻子は亡くなってからまだ一年も経っていないのか」

 そうすると、婿入りした男の愛人のこどもの存在を隠したことは理解できる。
 もし今、商会を継がせようと実の娘ソイラを引き取るとしたら、当然慰謝料や養育費の賠償と、世を謀り托卵した誹りを受ける。タイリユ商会が醜聞に晒された隙間に入り込み、奪った貴族との取引も無くなるだろう。
 そのリスクを被ってもソイラを引き取るつもりがあれば、とっくにそうしているはずだからソイラは切り捨てたということ。
 ザイアは怒りで手が震えてきた。

「許さない!」

 気の済むまで図書室で調べ物をして、王城の仮眠室を借りて身を横たえたが、興奮してなかなか寝つけない。
 ソイラさえ引き取らなければ今頃は想いあった婚約者と幸せな家庭を・・・と頭を過ぎったが、そのとき何故か別れた婚約者ではなくサラの顔が浮かんだ。
 あのとき婚約破棄されていなければ彼女と出会うことはなかったかもしれないのか・・・。

 そういえばあのとき、ソイラのせいで婚約解消になった令嬢やソイラの相手だった令息はどうなったんだろうと思い至る。

 謝罪に訪れたメーリア伯爵家では令嬢に会うことは叶わなかった。直接詫びたかったが、それがずっと心残りだった。
しあわせになってくれているといいのだが。

 通り過ぎて、いつしか遠くなってしまった過去の後悔が頭を過ぎったが、ようやく訪れた眠気にとろとろと蕩けて消えていった。

 翌日はそのまま仕事をして、早めにタイリユ家へ戻ると、家族を集めて調べてきたことを話す。

「な・・・んだと?それは本当か?」
「ゲール、バーリンの顔を見たらきっと驚くぞ。それにあの家にはソイラの母親も出入りしているんだ!」

 ザニがエラに聞いていたスイーツ店員の身上調査をしようと、呼びつけた調査員がちょうどよくやって来たので、すぐバーリンとソイラやその母親、そしてニルド商会について綿密な調査を依頼した。
 もちろん以前も調べさせたことだが。
あのときは警戒されて見つけられなかった痕跡も、時間が経った今なら気が緩んでいるはずだ。ザイアに見つけられたように。
 こうなるとスイーツショップの店員どころではない。
 バーリンとソイラの母親の謀略がもし証明できたら、一気に汚名返上できるかもしれないのだ。
 社交界で失われた地位を取り戻せれば、ザイアだって、店員などと結婚しなくて済むだろうとザニは都合よく考え始めていた。



 調査の結果は五日ほどで届けられた。
ザイアの予想どおりの結果にタイリユ家の面々は怒りに打ち震え、全員一致で貴族裁判所に訴えることに決めた。
 追加調査を依頼してより細かく少しの異変も漏らさずに証拠を集めさせ、ザニとザイアが揃って裁判所に向かう。

 持参した訴状を受理されると、いよいよタイリユ子爵家を貶めたバーリン準男爵との戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】20あなたが思っている通りにはいきませんわ。

華蓮
恋愛
ユリアスとオリンピアは、もうすぐ結婚式を挙げる。 幸せな生活が続くはずだったのに、隣国から要請により、人質になることになった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。 一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。 ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。 その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。 彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。 しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

処理中です...