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22話
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王都の裏通りでザイアが見かけたのは、かつて父の庶子としてタイリユ子爵家で育てていたソイラに、驚くほどに良く似た男。
父娘と並んで現れたら誰も疑いようがないほどに似ていて、思わず肌が粟立ったほど。
あの出来事以来、ソイラはタイリユ商会が持つ製糸工場で働かされて、子爵家が払った慰謝料の返済を続けている。
娼館のようなところとは違い、俸給が安いためまだほんの少ししか取り返せていないのだが、制服があり、寮の中で支給された食事を食べられるのだからと、俸給はすべて返済に充てさせているのだが。
ソイラはその母親ともども、ザニ・タイリユ子爵の娘と言い張り、親子かどうかの真偽は今も判明しないまま。
(もしあの男がソイラの父親だとしたら!)
ザイアは一瞬も目を逸らさずに、離されないよう尾行を続けた。
その男は小さな屋敷に吸い込まれていく。
「バーリン」
屋敷は小さいながらどう見ても貴族の構えであるが、バーリンという名に聞き覚えがない。
もちろんすべての貴族を知るわけではないのだが、主要な貴族ならだいたいの名はわかるにも関わらず。
「調べてみるかな」
そう呟いて踵を反し、馬車へ戻ろうとしたときに行き違った女に目が吸い付いた。
以前より年をとったが、間違いなくソイラの母親だ!
女はバーリン家のベルを鳴らして中に招き入れられた。
ザイアの頭の中に、あることが思い浮かぶ。
「急いで調べなくては!」
馬車に戻ると、御者にスイーツを使用人たちで分けるよう伝えて、自分は王城に戻ることと今夜は帰れないかもしれないが仮眠所に泊めてもらうと伝えて屋敷に帰した。
乗合馬車で城へ戻り、図書室で最新の貴族名鑑を調べ始める。
「バーリン、バー・・・」
指先が活字を追って紙面を滑っていく。
「バーリン!これだ。バーリン準男爵」
一代爵位の準男爵で当主はジェニルド・バーリン。
貴族名鑑によると爵位を賜ったのは、三年前にニルド商会長としての功績によりとある。
『ジェニルド・バーリン、旧姓メヘンディ。
バーリン家へ婿入りするとその手腕により商会を発展。平民の生活をその流通力で向上させたと評価され叙爵した』
ニルド商会?
元は平民向けであったが貴族へも出入りを画策し、タイリユ商会が醜聞に勢いを落としたとき、手を拡げた商会だ。
もしその商会長がソイラの父だとしたら、それなりに裕福なのだから自ら囲いこめば良い。こどももいないようだし、自分の跡目を継がせればよいだけではないか。
なぜタイリユ子爵家に托卵などする必要がある?
疑問を浮かべながら先を読む。
『家族 妻エレンザ、嫡男ゴーミ。馬車事故により落命』
「え・・・。妻子は亡くなってからまだ一年も経っていないのか」
そうすると、婿入りした男の愛人のこどもの存在を隠したことは理解できる。
もし今、商会を継がせようと実の娘ソイラを引き取るとしたら、当然慰謝料や養育費の賠償と、世を謀り托卵した誹りを受ける。タイリユ商会が醜聞に晒された隙間に入り込み、奪った貴族との取引も無くなるだろう。
そのリスクを被ってもソイラを引き取るつもりがあれば、とっくにそうしているはずだからソイラは切り捨てたということ。
ザイアは怒りで手が震えてきた。
「許さない!」
気の済むまで図書室で調べ物をして、王城の仮眠室を借りて身を横たえたが、興奮してなかなか寝つけない。
ソイラさえ引き取らなければ今頃は想いあった婚約者と幸せな家庭を・・・と頭を過ぎったが、そのとき何故か別れた婚約者ではなくサラの顔が浮かんだ。
あのとき婚約破棄されていなければ彼女と出会うことはなかったかもしれないのか・・・。
そういえばあのとき、ソイラのせいで婚約解消になった令嬢やソイラの相手だった令息はどうなったんだろうと思い至る。
謝罪に訪れたメーリア伯爵家では令嬢に会うことは叶わなかった。直接詫びたかったが、それがずっと心残りだった。
しあわせになってくれているといいのだが。
通り過ぎて、いつしか遠くなってしまった過去の後悔が頭を過ぎったが、ようやく訪れた眠気にとろとろと蕩けて消えていった。
翌日はそのまま仕事をして、早めにタイリユ家へ戻ると、家族を集めて調べてきたことを話す。
「な・・・んだと?それは本当か?」
「ゲール、バーリンの顔を見たらきっと驚くぞ。それにあの家にはソイラの母親も出入りしているんだ!」
ザニがエラに聞いていたスイーツ店員の身上調査をしようと、呼びつけた調査員がちょうどよくやって来たので、すぐバーリンとソイラやその母親、そしてニルド商会について綿密な調査を依頼した。
もちろん以前も調べさせたことだが。
あのときは警戒されて見つけられなかった痕跡も、時間が経った今なら気が緩んでいるはずだ。ザイアに見つけられたように。
こうなるとスイーツショップの店員どころではない。
バーリンとソイラの母親の謀略がもし証明できたら、一気に汚名返上できるかもしれないのだ。
社交界で失われた地位を取り戻せれば、ザイアだって、店員などと結婚しなくて済むだろうとザニは都合よく考え始めていた。
調査の結果は五日ほどで届けられた。
ザイアの予想どおりの結果にタイリユ家の面々は怒りに打ち震え、全員一致で貴族裁判所に訴えることに決めた。
追加調査を依頼してより細かく少しの異変も漏らさずに証拠を集めさせ、ザニとザイアが揃って裁判所に向かう。
持参した訴状を受理されると、いよいよタイリユ子爵家を貶めたバーリン準男爵との戦いが始まった。
父娘と並んで現れたら誰も疑いようがないほどに似ていて、思わず肌が粟立ったほど。
あの出来事以来、ソイラはタイリユ商会が持つ製糸工場で働かされて、子爵家が払った慰謝料の返済を続けている。
娼館のようなところとは違い、俸給が安いためまだほんの少ししか取り返せていないのだが、制服があり、寮の中で支給された食事を食べられるのだからと、俸給はすべて返済に充てさせているのだが。
ソイラはその母親ともども、ザニ・タイリユ子爵の娘と言い張り、親子かどうかの真偽は今も判明しないまま。
(もしあの男がソイラの父親だとしたら!)
ザイアは一瞬も目を逸らさずに、離されないよう尾行を続けた。
その男は小さな屋敷に吸い込まれていく。
「バーリン」
屋敷は小さいながらどう見ても貴族の構えであるが、バーリンという名に聞き覚えがない。
もちろんすべての貴族を知るわけではないのだが、主要な貴族ならだいたいの名はわかるにも関わらず。
「調べてみるかな」
そう呟いて踵を反し、馬車へ戻ろうとしたときに行き違った女に目が吸い付いた。
以前より年をとったが、間違いなくソイラの母親だ!
女はバーリン家のベルを鳴らして中に招き入れられた。
ザイアの頭の中に、あることが思い浮かぶ。
「急いで調べなくては!」
馬車に戻ると、御者にスイーツを使用人たちで分けるよう伝えて、自分は王城に戻ることと今夜は帰れないかもしれないが仮眠所に泊めてもらうと伝えて屋敷に帰した。
乗合馬車で城へ戻り、図書室で最新の貴族名鑑を調べ始める。
「バーリン、バー・・・」
指先が活字を追って紙面を滑っていく。
「バーリン!これだ。バーリン準男爵」
一代爵位の準男爵で当主はジェニルド・バーリン。
貴族名鑑によると爵位を賜ったのは、三年前にニルド商会長としての功績によりとある。
『ジェニルド・バーリン、旧姓メヘンディ。
バーリン家へ婿入りするとその手腕により商会を発展。平民の生活をその流通力で向上させたと評価され叙爵した』
ニルド商会?
元は平民向けであったが貴族へも出入りを画策し、タイリユ商会が醜聞に勢いを落としたとき、手を拡げた商会だ。
もしその商会長がソイラの父だとしたら、それなりに裕福なのだから自ら囲いこめば良い。こどももいないようだし、自分の跡目を継がせればよいだけではないか。
なぜタイリユ子爵家に托卵などする必要がある?
疑問を浮かべながら先を読む。
『家族 妻エレンザ、嫡男ゴーミ。馬車事故により落命』
「え・・・。妻子は亡くなってからまだ一年も経っていないのか」
そうすると、婿入りした男の愛人のこどもの存在を隠したことは理解できる。
もし今、商会を継がせようと実の娘ソイラを引き取るとしたら、当然慰謝料や養育費の賠償と、世を謀り托卵した誹りを受ける。タイリユ商会が醜聞に晒された隙間に入り込み、奪った貴族との取引も無くなるだろう。
そのリスクを被ってもソイラを引き取るつもりがあれば、とっくにそうしているはずだからソイラは切り捨てたということ。
ザイアは怒りで手が震えてきた。
「許さない!」
気の済むまで図書室で調べ物をして、王城の仮眠室を借りて身を横たえたが、興奮してなかなか寝つけない。
ソイラさえ引き取らなければ今頃は想いあった婚約者と幸せな家庭を・・・と頭を過ぎったが、そのとき何故か別れた婚約者ではなくサラの顔が浮かんだ。
あのとき婚約破棄されていなければ彼女と出会うことはなかったかもしれないのか・・・。
そういえばあのとき、ソイラのせいで婚約解消になった令嬢やソイラの相手だった令息はどうなったんだろうと思い至る。
謝罪に訪れたメーリア伯爵家では令嬢に会うことは叶わなかった。直接詫びたかったが、それがずっと心残りだった。
しあわせになってくれているといいのだが。
通り過ぎて、いつしか遠くなってしまった過去の後悔が頭を過ぎったが、ようやく訪れた眠気にとろとろと蕩けて消えていった。
翌日はそのまま仕事をして、早めにタイリユ家へ戻ると、家族を集めて調べてきたことを話す。
「な・・・んだと?それは本当か?」
「ゲール、バーリンの顔を見たらきっと驚くぞ。それにあの家にはソイラの母親も出入りしているんだ!」
ザニがエラに聞いていたスイーツ店員の身上調査をしようと、呼びつけた調査員がちょうどよくやって来たので、すぐバーリンとソイラやその母親、そしてニルド商会について綿密な調査を依頼した。
もちろん以前も調べさせたことだが。
あのときは警戒されて見つけられなかった痕跡も、時間が経った今なら気が緩んでいるはずだ。ザイアに見つけられたように。
こうなるとスイーツショップの店員どころではない。
バーリンとソイラの母親の謀略がもし証明できたら、一気に汚名返上できるかもしれないのだ。
社交界で失われた地位を取り戻せれば、ザイアだって、店員などと結婚しなくて済むだろうとザニは都合よく考え始めていた。
調査の結果は五日ほどで届けられた。
ザイアの予想どおりの結果にタイリユ家の面々は怒りに打ち震え、全員一致で貴族裁判所に訴えることに決めた。
追加調査を依頼してより細かく少しの異変も漏らさずに証拠を集めさせ、ザニとザイアが揃って裁判所に向かう。
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