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23話
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ザニ・タイリユ子爵がジェニルド・バーリン準男爵を訴えた件は、噂好きの貴族たちに興味を持たれ、裁判の行方が見守られた。
まずザニからの訴状に沿って事実確認が行われたが、その時ひさしぶりに製糸工場からソイラが連れて来られ、うらぶれてやつれた様子を見たソイラの母ナリサがザニに掴みかかった。
「この、自分の娘になんてことを!」
「静粛に!」裁判官が注意をして座らせる。
ジェニルドとナリサ、ソイラが同じ長椅子に座らされると、誰の目にも血のつながりは明らかなほど似ていて。
髪の色、肌の色、瞳の色、その造作や髪の癖さえもソイラはジェニルドのコピーそのもの。
他人の空似というにはあまりに似すぎていた。
ソイラ自身と裁判官の目にもそれはわかったらしい。呆然とするソイラに頓着せず、裁判官は話を続ける。
「ナリサよ。その娘はそなたとジェニルド・バーリンの娘に相違ないかね」
「いえ、違います!ソイラは間違いなくザニ・タイリユ子爵様のお子でございます」
裁判官の目は不信気にナリサを見つめると
「偽証は罪が重くなるが。わかっていて言っているのかね?」
ナリサはぐっと唇を噛むが、ここで押すべきか引くべきか、悩んでいるようだ。
「認めなければバレないとでも?そなたが隣にいるジェニルド・バーリンの屋敷に出入りしていることも調べ済だぞ」
「調べた?私はこの女とは無関係です。たまたま屋敷近くを通っただけ。その娘とは他人の空似でこざいますよ」
揺れているナリサとは違い、バーリンは迷わずに否定してみせる。
しかし、それがナリサを刺激した。
─私を無関係だと?ソイラも他人の空似?奥様たちが亡くなって一年経つというのに後妻にもしてくれない・・・もしかしたらそのつもりもないのかも!
子まで生んだのに。
子ができたというと、婿入りした妻の手前知られるわけにはいかないからと、お人好しで有名なタイリユ子爵を騙して子爵のこどもとして育てさせたのに。
ソイラが子爵家で問題を起こしたときも助けようとはしなかった─
そう考え始めると、ナリサはバーリンを庇うほど自分にその罪や責任を押し付けられるのではと思い至った。
覚悟を決めた顔を見せたナリサが片手をあげる。
「裁判官様、すべてお話いたします」
そうしてザイアが想像したようなことを、証言し始めると。
「嘘だ!これは私を陥れるための策略!」
ナリサの口を塞ごうと手を伸ばしたジェニルドを、裁判所の護衛が掴んで離した椅子に座らせて拘束する。
「確認するが。ジェニルド・バーリンは婿入り先に知られるわけにはいかないから、ザニ・タイリユ子爵を騙して子爵の庶子として育てさせようとそなたを唆した」
ナリサは俯いたままで頷いた。
「うそだ!」
「うそではないわ。事故で奥様とお子様が亡くなったとき、私を妻にすると言ったのに、いつまで経っても今は無理だと言うばかり。ソイラも見捨てた」
「では本当にこの人が私のお父さまなの?私はザニ・タイリユ子爵の娘ではなかったというの?」
ソイラの悲鳴があがる。
ザニの冷たい視線、そして自身と生き写しの顔を持つジェニルドの面倒くさそうな視線に晒されたソイラは、絶望した顔でがっくりと項垂れた。
「本日この場で判決を言い渡すことはしない。それぞれの証言を精査の上、次回判決を申し渡すが、ジェニルド・バーリン準男爵とナリサについては逃亡の恐れがあると考え、財産差し押さえの上裁判所の監視下に置くこととする。判決により無罪が確定した場合、差し押さえにより発生した損害があれば国の裁判準備金より賠償される」
裁判所から開放されたザニは、大きく息を吐いた。
騙されていたのだ!
ソイラは娘ではなかったし、本来なら醜聞など起こりえなかった。悔しくて歯噛みをしていると、ザイアとゲールが背後に来て声をかける。
「我が家の主張が受け入れられましたね。まあ、あの顔を見れば疑いようもないとわかるでしょう」
「ああ、それにしてもあいつらのせいで我が家がどれほど酷い目にあったか、思い知らせてやりたいよ」
ゲールの言葉に三人はそれぞれ頷いた。
「判決が出たあと、バーリン準男爵家は廃爵取り潰しとなるだろう。ニルド商会は売却されて、我が家への賠償金に当てられることになると思うが、イーデス家とメーリア家も賠償先に含まれるだろうか」
思案顔のザイアに、ザニは言う。
「両家ともいまさらだろうが、ソイラの問題で賠償義務を負うのはそもそもバーリン家であったのだからな」
「メーリア伯爵家のご令嬢はその後どうされているか、父上はご存知か?」
「いや、メーリア伯爵家は社交界にも出ていらっしゃらないからなあ」
「結果として我が家の者ではなかったが、暫く育てていたのも我が家だし、その時点でタイリユに籍を置いていたことは間違いない。我が家に責任はないとあまり口にされないほうがよろしいと思いますよ父上」
自分は悪くなかったと言いたげなザニに、ザイアは釘を刺すことを忘れなかった。
数日後、貴族裁判所で下りた判決はタイリユ子爵家の完全勝訴と宣言され、バーリン準男爵家のあらゆる財産はまずタイリユ子爵家に、ソイラの養育費の弁済と慰謝料として支払われた。そしてメーリア伯爵家とイーデス子爵家への慰謝料も。
しかしイーデス家はすべてをメーリア伯爵家のサラ嬢に委譲し、サラの個人資産はまた増えることとなったのだった。
まずザニからの訴状に沿って事実確認が行われたが、その時ひさしぶりに製糸工場からソイラが連れて来られ、うらぶれてやつれた様子を見たソイラの母ナリサがザニに掴みかかった。
「この、自分の娘になんてことを!」
「静粛に!」裁判官が注意をして座らせる。
ジェニルドとナリサ、ソイラが同じ長椅子に座らされると、誰の目にも血のつながりは明らかなほど似ていて。
髪の色、肌の色、瞳の色、その造作や髪の癖さえもソイラはジェニルドのコピーそのもの。
他人の空似というにはあまりに似すぎていた。
ソイラ自身と裁判官の目にもそれはわかったらしい。呆然とするソイラに頓着せず、裁判官は話を続ける。
「ナリサよ。その娘はそなたとジェニルド・バーリンの娘に相違ないかね」
「いえ、違います!ソイラは間違いなくザニ・タイリユ子爵様のお子でございます」
裁判官の目は不信気にナリサを見つめると
「偽証は罪が重くなるが。わかっていて言っているのかね?」
ナリサはぐっと唇を噛むが、ここで押すべきか引くべきか、悩んでいるようだ。
「認めなければバレないとでも?そなたが隣にいるジェニルド・バーリンの屋敷に出入りしていることも調べ済だぞ」
「調べた?私はこの女とは無関係です。たまたま屋敷近くを通っただけ。その娘とは他人の空似でこざいますよ」
揺れているナリサとは違い、バーリンは迷わずに否定してみせる。
しかし、それがナリサを刺激した。
─私を無関係だと?ソイラも他人の空似?奥様たちが亡くなって一年経つというのに後妻にもしてくれない・・・もしかしたらそのつもりもないのかも!
子まで生んだのに。
子ができたというと、婿入りした妻の手前知られるわけにはいかないからと、お人好しで有名なタイリユ子爵を騙して子爵のこどもとして育てさせたのに。
ソイラが子爵家で問題を起こしたときも助けようとはしなかった─
そう考え始めると、ナリサはバーリンを庇うほど自分にその罪や責任を押し付けられるのではと思い至った。
覚悟を決めた顔を見せたナリサが片手をあげる。
「裁判官様、すべてお話いたします」
そうしてザイアが想像したようなことを、証言し始めると。
「嘘だ!これは私を陥れるための策略!」
ナリサの口を塞ごうと手を伸ばしたジェニルドを、裁判所の護衛が掴んで離した椅子に座らせて拘束する。
「確認するが。ジェニルド・バーリンは婿入り先に知られるわけにはいかないから、ザニ・タイリユ子爵を騙して子爵の庶子として育てさせようとそなたを唆した」
ナリサは俯いたままで頷いた。
「うそだ!」
「うそではないわ。事故で奥様とお子様が亡くなったとき、私を妻にすると言ったのに、いつまで経っても今は無理だと言うばかり。ソイラも見捨てた」
「では本当にこの人が私のお父さまなの?私はザニ・タイリユ子爵の娘ではなかったというの?」
ソイラの悲鳴があがる。
ザニの冷たい視線、そして自身と生き写しの顔を持つジェニルドの面倒くさそうな視線に晒されたソイラは、絶望した顔でがっくりと項垂れた。
「本日この場で判決を言い渡すことはしない。それぞれの証言を精査の上、次回判決を申し渡すが、ジェニルド・バーリン準男爵とナリサについては逃亡の恐れがあると考え、財産差し押さえの上裁判所の監視下に置くこととする。判決により無罪が確定した場合、差し押さえにより発生した損害があれば国の裁判準備金より賠償される」
裁判所から開放されたザニは、大きく息を吐いた。
騙されていたのだ!
ソイラは娘ではなかったし、本来なら醜聞など起こりえなかった。悔しくて歯噛みをしていると、ザイアとゲールが背後に来て声をかける。
「我が家の主張が受け入れられましたね。まあ、あの顔を見れば疑いようもないとわかるでしょう」
「ああ、それにしてもあいつらのせいで我が家がどれほど酷い目にあったか、思い知らせてやりたいよ」
ゲールの言葉に三人はそれぞれ頷いた。
「判決が出たあと、バーリン準男爵家は廃爵取り潰しとなるだろう。ニルド商会は売却されて、我が家への賠償金に当てられることになると思うが、イーデス家とメーリア家も賠償先に含まれるだろうか」
思案顔のザイアに、ザニは言う。
「両家ともいまさらだろうが、ソイラの問題で賠償義務を負うのはそもそもバーリン家であったのだからな」
「メーリア伯爵家のご令嬢はその後どうされているか、父上はご存知か?」
「いや、メーリア伯爵家は社交界にも出ていらっしゃらないからなあ」
「結果として我が家の者ではなかったが、暫く育てていたのも我が家だし、その時点でタイリユに籍を置いていたことは間違いない。我が家に責任はないとあまり口にされないほうがよろしいと思いますよ父上」
自分は悪くなかったと言いたげなザニに、ザイアは釘を刺すことを忘れなかった。
数日後、貴族裁判所で下りた判決はタイリユ子爵家の完全勝訴と宣言され、バーリン準男爵家のあらゆる財産はまずタイリユ子爵家に、ソイラの養育費の弁済と慰謝料として支払われた。そしてメーリア伯爵家とイーデス子爵家への慰謝料も。
しかしイーデス家はすべてをメーリア伯爵家のサラ嬢に委譲し、サラの個人資産はまた増えることとなったのだった。
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