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28話 閑話 フェルナンド・イーデス
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ブルワリー・イーデス子爵とカイラ夫人は、数年ぶりに今は廃した長男フェルナンドの婚約者だったサラ・メーリアの屋敷に来ていた。
復興完了の祝いの会と招待状が届いたとき、非常に悩んで参加を決めた。
厚かましくパーティーを楽しもうというわけではなく、祝い金を置いたらすぐ帰るつもりで。
そのため広間までは入らず、廊下にいたのだが、サラとよく似た令嬢を見かけた。
似ているのだが、雰囲気がかなり違うので親戚だろうかと通り過ぎようとしたとき、侍女がサラ様!と呼んだ。
以前はおっとりとした令嬢だったが、今はすっきりと、そしてきびきびと動く大人の女性になっている。
「こちら、足りなくなりましたので追加で出してもよろしいでしょうか?」
大皿に小さく切り分けられたケーキがのせられているのを見て、小さく頷きかけたが
「待って!これはクリームがよれてしまっているわ」
真ん中に置かれたピースをケーキサーバーで取り除こうとしているが、絹の手袋が邪魔らしい。
するりと手袋を外したその手に、カイラは息を呑んだ。
─なぜ伯爵令嬢があのようなあかぎれだらけの手をしているの?あのあとサラ様は一体・・・─
カイラはフェルナンドと婚約解消したあとのサラとは、意識して離れるように、ただ遠くから誰よりもしあわせになることだけを祈って過ごしていた。
─何か過酷な労働でもさせられている?でもメーリア伯爵夫妻はそんなこと決してお許しにはねらない。ではなぜ?─
サラが王都の小さなスイーツショップで店員をしているというのは秘されていたので、本当に親しい幼馴染くらいしか知らせていない。
カイラが踏み込んだ調査でもしない限り、わかりっこないのはしかたないことだった。
「カイラ、もう失礼しよう」
イーデス子爵が人目を避けてデードに挨拶を済ませてきたようだ。
あのあかぎれを見なくて済むと思うと、カイラの足は自然と早足になった。
「ねえ、サラ様は新たなご婚約などは?」
「メーリア伯爵には聞けないが、噂によるとまだのようだよ・・・」
「そう・・・」
気まずい沈黙が流れ、カイラの胸はしくしくと痛んだ。
「今、サラ様は何をされているのかしら」
「さあ。社交界に姿を見せたのも三年ぶりと聞いていたが、広間ではお見かけしなかったな」
「いえ、いらしたわ。まったく面影が無くなって、よく似たご親戚かと思うほどに」
「お声がけしたのか?」
「いいえ。少し離れておりましたから。侍女がサラ様を呼ばなければ、私も気づかなかったと思いますわ」
暗い気持ちがカイラを覆う。
「そうか・・・」
その姿をしあわせそうと言ってくれたらよかったのにとブルワリーは思ったが、カイラの口は重い。
あのあかぎれを見てしまっては、嘘も言えなくなってしまったから。
イーデス子爵家ではカイラの記憶が薄れるまでの数日、楽しげに笑う者もおらずに通夜のような時間が過ぎた。
静けさを破ったのは一通の手紙。
定期的に届く、廃嫡し地方の小さな役所で文官を務めさせているフェルナンドからのもの。
読む気持ちにはなれなかったが、公私混同で書いてあることが多いのでブルワリーが目を通した。
「なんだ・・・と?あの馬鹿者が」
ブルワリーがぐしゃりと手紙を握り潰して、忌々しげに呟く。
「どうなさったの?」
「フェルナンドが結婚したい相手の女性を連れてくると」
振り返ったカイラは目を吊り上げて憤怒の表情を浮かべており、ブルワリーですら寒気を感じたほどの気を放っている。
あまりにも間が悪すぎた。
「フェルナンドに今すぐ、結婚は認めない、相手を連れてくることは許さないと書状を出して。なんなら二度と我が家の敷居を跨ぐなと。それでも結婚するというなら文官の仕事は取り上げ、一平民として新たな仕事を探すようにと」
ブルワリーは一言も異を唱えることなく、カイラが言ったとおりに手紙を認めて、書状を持ってきた使いにそのまま持たせて帰した。
「一言一句違えずに書いたが、あれでよかったか?」
カイラはただ頷き、部屋へ戻って行った。
イーデス領の外れにあるサガイという田舎町。
フェルナンドはすぐに両親から届けられた返事に、中を見るまでもなく良い手応えを感じて笑みをこぼし、喜びを分かち合うようにアナベル・ニーが寄り添う。
「アナ!ほら。読んですぐに返事を持たせてくれたんだ。きっとすごく喜んでくれたに違いないよ」
そう言うとペーパーナイフで封を切るのももどかしげに封筒の中から書状を引っ張り出し、折り目を広げた。
「・・・ん?」
フェルナンドの手が震え始める。
「嘘だろう・・・なんだ、これは?」
アナベルと一緒に読むつもりだったがアナベルに見られないようにぎゅっと握りしめ、手紙を届けた伝令を探しに行った。
「フェルナンド様?」
アナベルの声に答えもせずに部屋を走り出て。
「おいっ!おまえ、おまえがこれを持ち帰ったのか?」
馬房で先程の使いに手紙を見せると、なんの疑問も持たずに答える。
「はい、さようでごぜえます」
手紙を持ち帰っただけ、開けたり無くしたわけではないので問題があるとはこれっぽっちも考えていない。
「これは間違いなく、イーデス子爵が書いたものか?」
「はあ、書いたところをみていたわけではごぜえませんが、子爵様から渡されましたですよ」
そこまで聞いたフェルナンドは
「なぜ?なぜだ?なぜなんだ?なぜ?」
眉間に皺を寄せてぶつぶつと呟きながら歩いて行ってしまった。
「アナ・・・」
「フェルナンド様!どうされましたの?」
「うん、一度屋敷へ戻らねばならなくなった」
どういうことなのか直接確認しようと決めたのだ。
「まあ!では私も連れていってくださいますのね!フェルナンド様のご両親にご挨拶しなければなりませんものね」
アナベルは華やいだ声を上げるが。
「あ、いや。それはダメだ」
「え?ダメ?なぜですの?」
「あ、いやあの、火急の用らしいのだよ。なにかあちらで問題でも起きたのかもしれないから、アナベルはまた改めて連れて行こう」
苦しい言い訳をして、フェルナンドは急いでサガイを出立した。
復興完了の祝いの会と招待状が届いたとき、非常に悩んで参加を決めた。
厚かましくパーティーを楽しもうというわけではなく、祝い金を置いたらすぐ帰るつもりで。
そのため広間までは入らず、廊下にいたのだが、サラとよく似た令嬢を見かけた。
似ているのだが、雰囲気がかなり違うので親戚だろうかと通り過ぎようとしたとき、侍女がサラ様!と呼んだ。
以前はおっとりとした令嬢だったが、今はすっきりと、そしてきびきびと動く大人の女性になっている。
「こちら、足りなくなりましたので追加で出してもよろしいでしょうか?」
大皿に小さく切り分けられたケーキがのせられているのを見て、小さく頷きかけたが
「待って!これはクリームがよれてしまっているわ」
真ん中に置かれたピースをケーキサーバーで取り除こうとしているが、絹の手袋が邪魔らしい。
するりと手袋を外したその手に、カイラは息を呑んだ。
─なぜ伯爵令嬢があのようなあかぎれだらけの手をしているの?あのあとサラ様は一体・・・─
カイラはフェルナンドと婚約解消したあとのサラとは、意識して離れるように、ただ遠くから誰よりもしあわせになることだけを祈って過ごしていた。
─何か過酷な労働でもさせられている?でもメーリア伯爵夫妻はそんなこと決してお許しにはねらない。ではなぜ?─
サラが王都の小さなスイーツショップで店員をしているというのは秘されていたので、本当に親しい幼馴染くらいしか知らせていない。
カイラが踏み込んだ調査でもしない限り、わかりっこないのはしかたないことだった。
「カイラ、もう失礼しよう」
イーデス子爵が人目を避けてデードに挨拶を済ませてきたようだ。
あのあかぎれを見なくて済むと思うと、カイラの足は自然と早足になった。
「ねえ、サラ様は新たなご婚約などは?」
「メーリア伯爵には聞けないが、噂によるとまだのようだよ・・・」
「そう・・・」
気まずい沈黙が流れ、カイラの胸はしくしくと痛んだ。
「今、サラ様は何をされているのかしら」
「さあ。社交界に姿を見せたのも三年ぶりと聞いていたが、広間ではお見かけしなかったな」
「いえ、いらしたわ。まったく面影が無くなって、よく似たご親戚かと思うほどに」
「お声がけしたのか?」
「いいえ。少し離れておりましたから。侍女がサラ様を呼ばなければ、私も気づかなかったと思いますわ」
暗い気持ちがカイラを覆う。
「そうか・・・」
その姿をしあわせそうと言ってくれたらよかったのにとブルワリーは思ったが、カイラの口は重い。
あのあかぎれを見てしまっては、嘘も言えなくなってしまったから。
イーデス子爵家ではカイラの記憶が薄れるまでの数日、楽しげに笑う者もおらずに通夜のような時間が過ぎた。
静けさを破ったのは一通の手紙。
定期的に届く、廃嫡し地方の小さな役所で文官を務めさせているフェルナンドからのもの。
読む気持ちにはなれなかったが、公私混同で書いてあることが多いのでブルワリーが目を通した。
「なんだ・・・と?あの馬鹿者が」
ブルワリーがぐしゃりと手紙を握り潰して、忌々しげに呟く。
「どうなさったの?」
「フェルナンドが結婚したい相手の女性を連れてくると」
振り返ったカイラは目を吊り上げて憤怒の表情を浮かべており、ブルワリーですら寒気を感じたほどの気を放っている。
あまりにも間が悪すぎた。
「フェルナンドに今すぐ、結婚は認めない、相手を連れてくることは許さないと書状を出して。なんなら二度と我が家の敷居を跨ぐなと。それでも結婚するというなら文官の仕事は取り上げ、一平民として新たな仕事を探すようにと」
ブルワリーは一言も異を唱えることなく、カイラが言ったとおりに手紙を認めて、書状を持ってきた使いにそのまま持たせて帰した。
「一言一句違えずに書いたが、あれでよかったか?」
カイラはただ頷き、部屋へ戻って行った。
イーデス領の外れにあるサガイという田舎町。
フェルナンドはすぐに両親から届けられた返事に、中を見るまでもなく良い手応えを感じて笑みをこぼし、喜びを分かち合うようにアナベル・ニーが寄り添う。
「アナ!ほら。読んですぐに返事を持たせてくれたんだ。きっとすごく喜んでくれたに違いないよ」
そう言うとペーパーナイフで封を切るのももどかしげに封筒の中から書状を引っ張り出し、折り目を広げた。
「・・・ん?」
フェルナンドの手が震え始める。
「嘘だろう・・・なんだ、これは?」
アナベルと一緒に読むつもりだったがアナベルに見られないようにぎゅっと握りしめ、手紙を届けた伝令を探しに行った。
「フェルナンド様?」
アナベルの声に答えもせずに部屋を走り出て。
「おいっ!おまえ、おまえがこれを持ち帰ったのか?」
馬房で先程の使いに手紙を見せると、なんの疑問も持たずに答える。
「はい、さようでごぜえます」
手紙を持ち帰っただけ、開けたり無くしたわけではないので問題があるとはこれっぽっちも考えていない。
「これは間違いなく、イーデス子爵が書いたものか?」
「はあ、書いたところをみていたわけではごぜえませんが、子爵様から渡されましたですよ」
そこまで聞いたフェルナンドは
「なぜ?なぜだ?なぜなんだ?なぜ?」
眉間に皺を寄せてぶつぶつと呟きながら歩いて行ってしまった。
「アナ・・・」
「フェルナンド様!どうされましたの?」
「うん、一度屋敷へ戻らねばならなくなった」
どういうことなのか直接確認しようと決めたのだ。
「まあ!では私も連れていってくださいますのね!フェルナンド様のご両親にご挨拶しなければなりませんものね」
アナベルは華やいだ声を上げるが。
「あ、いや。それはダメだ」
「え?ダメ?なぜですの?」
「あ、いやあの、火急の用らしいのだよ。なにかあちらで問題でも起きたのかもしれないから、アナベルはまた改めて連れて行こう」
苦しい言い訳をして、フェルナンドは急いでサガイを出立した。
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