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5話
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タイリユ子爵家は、当主のザニだけでは頼りないと、妻エラとしっかり者の長男ザイアも同行して、メーリア伯爵家とイーデス子爵家に謝罪行脚を行った。
次男ゲールはソイラの見張りをすると言って、ソイラの部屋のノブにせっせと鎖を巻きつけていたので放っておく。
さて。
タイリユ子爵家の三人、ザニはブラウンの巻毛にブラウンの瞳でごく普通の容貌だが、妻エラは銀の髪と薄いスカイブルーの瞳で全体に色素が薄いせいか水の精霊のような透明感がある。ザニはこの不思議な美しさに初めて顔を合わせた日からぞっこんになり、その有名な妻の溺愛ぶりこそが、ソイラが疑惑の庶子と呼ばれる所以であった。
ザイアは母と同じ色味で、よく似た美しい顔立ちをしている。
今回のことではもっとも激しく怒っており、普段の冷静さはどこへやら。白黒はっきりつけずにはいられないと憤りを隠さない。
「此度は我が家に籍を置く者が大変なことをしでかし、誠に申し訳なく思っております」
メーリア伯爵家を訪問し三人で頭を下げたが、その際誰一人ソイラのことを子爵家の娘とは言わなかった。
─切ってきたか─
デード・メーリア伯爵は、その言葉からタイリユ子爵家のスタンスを読む。
「これでおかけしたご迷惑を贖えるとは思っておりませぬが、まずは謝罪の気持ちとしてお納めください」
大層な額の慰謝料を持ち込んできた。
タイリユ子爵は大きな商会を抱えており、爵位から想像できないほど裕福だとデードも聞いたことがある。
「あの・・・」
ザイアが言葉の足りない父を補佐しようと歩み出た。
「ん?こちらは?」
デードの問いにザニが答えた。
「はい、長男でザイアと申します」
「して?」
「僭越とは存じますが、慰謝料とは別に、災害復旧費用の寄付を考えております。お受け取りいただけますでしょうか?」
険しかったデードの表情が少し和らいだ。
「それはありがたい。我が領民も感謝するだろう。まあこの件を許すわけではないが」
ザイアは深く腰を折って、それからゆっくり顔を上げると
「はい、もちろん寄付くらいでこの件に手心を加えていただこうなどとは微塵も考えておりません」
デードは謝罪の機会に、臆することなく次の手を伸ばすザイアを気に入った。
「それで、あの娘はどうされるのだ?」
「私どもの貴族籍からは除籍致しまして、慰謝料分はどこかで働かせようかと」
頷くデードがチクリと言った。
「まあ当然だな。もともと疑わしき娘であったのだろう?資質があれば化けただろうが所詮は貴族家に相応しくない者だった。我が家としては傷が深すぎて表立っては言えぬが、犬を拾ってやったら噛まれたようなものだと思っている。奥方やご令息には気の毒なことだった」
ザニの胸はギュッと握りつぶされたような痛みを感じたが、ザイアとエラはデードの言葉に感謝し、もう一度三人揃って頭を下げて、改めて念書の取り交わしについて相談に来ることになった。
「ああ、次からはザイア殿だけでいい。子爵とより話が進みそうだからな」
普段のデードはそんな嫌味っぽいことはしないのだが、ザニを見ているとどうにも怒りがこみ上げて、抑えきれない。
誰より深く頭を下げたザニは、三人の中で一番早く部屋を退去した。
─ふん、小心者め、人が良いしか取り柄がないとは─
そう口の中で悪態をつくデードも、真面目一徹と呼ばれているのだが・・・
タイリユ一家が帰ると、置いていった慰謝料と、復興基金にと寄付された金が残された。
「しかし、すごい金額だな」
この寄付は単純にありがたい。気に入らないからと言って断ることはできない、喉から手が出る金だ。
資金不足で擁壁が途中になっているところがあるが、これで完成できるかもしれないと、ホッと胸を撫で下ろした。
「皆を呼んでくれ」
侍従に家族を呼ぶよう頼み、金の使い途を考える。
「お父さま」
「旦那様、お疲れ様でした」
ネルとサラが執務室に入ってきて、そのあとにハルバリが、積み上げられた紙幣に目を瞠った。
「うっわ!すごい、なんですかこれ?」
「タイリユ子爵たちが慰謝料の一部と復興支援の寄付として持参した」
「裕福とは聞いておりましたが、本当にすごいですわね」
みんなネルの言葉に深く頷いた。
「慰謝料部分はこれで、ここからは寄付だそうだから、まず慰謝料はサラが受け取り好きに使いなさい」
デードの言葉に、母と兄がうんうんと首を振るがサラは
「いえ、これは復興に使ってください」
と引いた。
「いや、これはサラのものだし受け取ってもらいたいのだ。フェルナンドにも問題はあったが、贅沢を言うわけでもないのに、この数年おまえの社交用のドレスを買う金すら領地に回していたのは私の過ちだ。本当にすまなかった」
デードが頭を下げ、ネルがくすんと鼻を鳴らし、涙を拭う。
「それに・・・言いづらいことだが、一度婚約解消というアヤがつくと、次の婚約者を見つけるのは至難となるかもしれん。これから先、金はいくらあっても邪魔になることはない」
兄ハルバリが口惜しそうに歯を食いしばった。
「あのバカのせいで、なぜサラがそんな目に遭わねばならないんだ!」
その言葉はメーリア伯爵一家、皆の胸に深く沈み込んでいった
次男ゲールはソイラの見張りをすると言って、ソイラの部屋のノブにせっせと鎖を巻きつけていたので放っておく。
さて。
タイリユ子爵家の三人、ザニはブラウンの巻毛にブラウンの瞳でごく普通の容貌だが、妻エラは銀の髪と薄いスカイブルーの瞳で全体に色素が薄いせいか水の精霊のような透明感がある。ザニはこの不思議な美しさに初めて顔を合わせた日からぞっこんになり、その有名な妻の溺愛ぶりこそが、ソイラが疑惑の庶子と呼ばれる所以であった。
ザイアは母と同じ色味で、よく似た美しい顔立ちをしている。
今回のことではもっとも激しく怒っており、普段の冷静さはどこへやら。白黒はっきりつけずにはいられないと憤りを隠さない。
「此度は我が家に籍を置く者が大変なことをしでかし、誠に申し訳なく思っております」
メーリア伯爵家を訪問し三人で頭を下げたが、その際誰一人ソイラのことを子爵家の娘とは言わなかった。
─切ってきたか─
デード・メーリア伯爵は、その言葉からタイリユ子爵家のスタンスを読む。
「これでおかけしたご迷惑を贖えるとは思っておりませぬが、まずは謝罪の気持ちとしてお納めください」
大層な額の慰謝料を持ち込んできた。
タイリユ子爵は大きな商会を抱えており、爵位から想像できないほど裕福だとデードも聞いたことがある。
「あの・・・」
ザイアが言葉の足りない父を補佐しようと歩み出た。
「ん?こちらは?」
デードの問いにザニが答えた。
「はい、長男でザイアと申します」
「して?」
「僭越とは存じますが、慰謝料とは別に、災害復旧費用の寄付を考えております。お受け取りいただけますでしょうか?」
険しかったデードの表情が少し和らいだ。
「それはありがたい。我が領民も感謝するだろう。まあこの件を許すわけではないが」
ザイアは深く腰を折って、それからゆっくり顔を上げると
「はい、もちろん寄付くらいでこの件に手心を加えていただこうなどとは微塵も考えておりません」
デードは謝罪の機会に、臆することなく次の手を伸ばすザイアを気に入った。
「それで、あの娘はどうされるのだ?」
「私どもの貴族籍からは除籍致しまして、慰謝料分はどこかで働かせようかと」
頷くデードがチクリと言った。
「まあ当然だな。もともと疑わしき娘であったのだろう?資質があれば化けただろうが所詮は貴族家に相応しくない者だった。我が家としては傷が深すぎて表立っては言えぬが、犬を拾ってやったら噛まれたようなものだと思っている。奥方やご令息には気の毒なことだった」
ザニの胸はギュッと握りつぶされたような痛みを感じたが、ザイアとエラはデードの言葉に感謝し、もう一度三人揃って頭を下げて、改めて念書の取り交わしについて相談に来ることになった。
「ああ、次からはザイア殿だけでいい。子爵とより話が進みそうだからな」
普段のデードはそんな嫌味っぽいことはしないのだが、ザニを見ているとどうにも怒りがこみ上げて、抑えきれない。
誰より深く頭を下げたザニは、三人の中で一番早く部屋を退去した。
─ふん、小心者め、人が良いしか取り柄がないとは─
そう口の中で悪態をつくデードも、真面目一徹と呼ばれているのだが・・・
タイリユ一家が帰ると、置いていった慰謝料と、復興基金にと寄付された金が残された。
「しかし、すごい金額だな」
この寄付は単純にありがたい。気に入らないからと言って断ることはできない、喉から手が出る金だ。
資金不足で擁壁が途中になっているところがあるが、これで完成できるかもしれないと、ホッと胸を撫で下ろした。
「皆を呼んでくれ」
侍従に家族を呼ぶよう頼み、金の使い途を考える。
「お父さま」
「旦那様、お疲れ様でした」
ネルとサラが執務室に入ってきて、そのあとにハルバリが、積み上げられた紙幣に目を瞠った。
「うっわ!すごい、なんですかこれ?」
「タイリユ子爵たちが慰謝料の一部と復興支援の寄付として持参した」
「裕福とは聞いておりましたが、本当にすごいですわね」
みんなネルの言葉に深く頷いた。
「慰謝料部分はこれで、ここからは寄付だそうだから、まず慰謝料はサラが受け取り好きに使いなさい」
デードの言葉に、母と兄がうんうんと首を振るがサラは
「いえ、これは復興に使ってください」
と引いた。
「いや、これはサラのものだし受け取ってもらいたいのだ。フェルナンドにも問題はあったが、贅沢を言うわけでもないのに、この数年おまえの社交用のドレスを買う金すら領地に回していたのは私の過ちだ。本当にすまなかった」
デードが頭を下げ、ネルがくすんと鼻を鳴らし、涙を拭う。
「それに・・・言いづらいことだが、一度婚約解消というアヤがつくと、次の婚約者を見つけるのは至難となるかもしれん。これから先、金はいくらあっても邪魔になることはない」
兄ハルバリが口惜しそうに歯を食いしばった。
「あのバカのせいで、なぜサラがそんな目に遭わねばならないんだ!」
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