31 / 44
31話
しおりを挟む
メーメの店は、皆がてんてこ舞いをしていた。
「ああ!本当にサラ様がいらっしゃるわ」
顔見知りの伯爵令嬢が手を振ってサラを呼ぶと、並んだ女性たちが羨ましそうな顔をする。
メーリア伯爵家の復興パーティーで、サラが作り上げたスイーツが評判を呼び、まさかの大繁盛!
当初サラ・メーリア本人がスイーツを作っているなど誰も信じなかったのだが、瑞々しいジュレや珍しい生クリームのケーキをもう一度食したいと、パーティーに参加した貴族の奥方や令嬢たちが訪れるようになっていた。
ひとり、ふたりと最初はぽつぽつ来ていたのだが、店に行った者が自慢するとそれを聞いた者が羨ましくなって訪れ、また自慢するという口コミ連鎖の結果である。
伯爵令嬢が菓子職人なんてと眉を顰める者ももちろんいた。
しかし、女性は男性の政略の駒として扱われることが当たり前の貴族社会の中で、自立を目指すサラに憧れた奥方や令嬢もたくさんいたのだ。
「申し訳ございません、もう今日は品切れとなりまして」
サラが真面目な顔で頭を下げて詫びると、
「いえ、サラ様に頭を下げられると困りますわ。でもどうしても頂きたいの。また明日伺ってもよろしくて?」
「もちろんでございますわ!よろしければご来店の予約をしていかれませんか」
ちょっとした思いつきだった。
大人気となりつつあるメーメの生クリームケーキは崩れやすく、歩いて数分ならまだしも、馬車で一、ニ時間となると、揺れや気温でダメージを受けてしまう。
最初にメーメがやってくれたように、氷はをセットした上で注意して持ち運ばなければならない。持ち帰りを希望する者にそう説明すると、ほとんどは持ち帰りを諦めて店で食べることを選択するが、ホールもテーブルが三卓しかないため、なかなか席が空かないのだ。
今度は予約すれば店で食べられる!という噂とともに、予約しないと食べられない特別なスイーツという新たな噂が流れ始めて、メーメの店で予約が取れるとそれが自慢の種になった。
「はあ、一体どうなっているんだ?これはとても追いつかんぞ!」
メーメは使用人に厳しく、いままでサラ以外は誰も居着かなかったため、スイーツ作りを手伝える人手がない。
サラの侍女モニカがホールを手伝うくらいではまったく足りないのだ。
足がだいぶ良くなってきたメーメは、椅子に座って作業しているが、自分で動けるようになったためローサが帰ってしまったのも地味に痛かった。
「ローサがいれば、少しは手伝いもさせられたのに」
悔しそうにメーメが呟くが、サラはふるふると首をください振って笑う。
「この忙しさもいつまで続くかわかりませんから。そのうちに落ち着いて、あのときは忙しかったと懐かしく思う日が来ると思いますわ」
しかしその読みは外れ、メーメの店は忙しくなる一方だった。
量が作れないことがメーメとサラの悩みだったが、人気だから量産してたくさん売ろうという店が多い中、限られた量しか買えずなかなか手が届かないことが本人たちの知らぬ間にどんどん人気を高めていったのだ。
自分の気持ちに気づいてから、勝手に気まずく感じてなかなか店に足を向けられなかったザイアだが、母に頼まれて三週間ぶりにメーメの店にやって来ると、長い列で並ぶ女性たちに驚き、目を見張った。
「あの、この行列は?」
最後尾の女性に訊ねると、
「サラ様がお作りになるスイーツを買うための行列ですわ!」
「え!」
メーメの店に通い始めてから、こんなに間隔が空いたのは始めてだが。
予想外の事態に、並ぶのを諦めようかと思った瞬間、たまたまモニカが外に顔を出した。
「あら!お久しぶりですねっ!」
パーティー以来ぱったり姿を見せなくなったザイアに、サラもモニカも気をもんでいたのだ。
並んでいる人の手前、割り込ませるわけにもいかないので、モニカはザイアの袖口を握り、裏口へと連れて行った。
「お、おい君、どこへ行くんだ?」
ザイアは戸惑いながら引かれていくと、メーメの家の裏口に押し込まれる。
「ちょっとお待ちになってくださいな」
奥に消えたモニカの代わりに顔を出したのはサラだった。
「まあっ!ご無沙汰しておりました」
「あのっこ、こんなところから」
「ええ、モニカに聞きましたわ。こちらこそ申し訳ございませんでした、このようなところにお連れして。でも以前からのお客様にはこうでもしないとお買い求めいただくことができなくなっておりまして」
困ったように小首を傾げるサラが可愛過ぎると、ザイアの目が泳いだ。
裏から入れる特別扱いを受けたが、以前からのお客様だからという言葉に、そうかそれだけのことかとサラの一挙手一投足にいちいち喜んだり悲しんだり振り回されている。
「あの・・・しばらくいらっしゃいませんでしたね。御母堂様のお加減はいかがですか」
「え?あ、母は元気にしております。・・・私が忙しくしておりましたので」
─ただの客に過ぎなかったらしばらく来なかったなど気にしないかもしれない─
サラが自分を特別扱いしてくれていると思える理由を、ザイアは無意識に探していた。
「ああ!本当にサラ様がいらっしゃるわ」
顔見知りの伯爵令嬢が手を振ってサラを呼ぶと、並んだ女性たちが羨ましそうな顔をする。
メーリア伯爵家の復興パーティーで、サラが作り上げたスイーツが評判を呼び、まさかの大繁盛!
当初サラ・メーリア本人がスイーツを作っているなど誰も信じなかったのだが、瑞々しいジュレや珍しい生クリームのケーキをもう一度食したいと、パーティーに参加した貴族の奥方や令嬢たちが訪れるようになっていた。
ひとり、ふたりと最初はぽつぽつ来ていたのだが、店に行った者が自慢するとそれを聞いた者が羨ましくなって訪れ、また自慢するという口コミ連鎖の結果である。
伯爵令嬢が菓子職人なんてと眉を顰める者ももちろんいた。
しかし、女性は男性の政略の駒として扱われることが当たり前の貴族社会の中で、自立を目指すサラに憧れた奥方や令嬢もたくさんいたのだ。
「申し訳ございません、もう今日は品切れとなりまして」
サラが真面目な顔で頭を下げて詫びると、
「いえ、サラ様に頭を下げられると困りますわ。でもどうしても頂きたいの。また明日伺ってもよろしくて?」
「もちろんでございますわ!よろしければご来店の予約をしていかれませんか」
ちょっとした思いつきだった。
大人気となりつつあるメーメの生クリームケーキは崩れやすく、歩いて数分ならまだしも、馬車で一、ニ時間となると、揺れや気温でダメージを受けてしまう。
最初にメーメがやってくれたように、氷はをセットした上で注意して持ち運ばなければならない。持ち帰りを希望する者にそう説明すると、ほとんどは持ち帰りを諦めて店で食べることを選択するが、ホールもテーブルが三卓しかないため、なかなか席が空かないのだ。
今度は予約すれば店で食べられる!という噂とともに、予約しないと食べられない特別なスイーツという新たな噂が流れ始めて、メーメの店で予約が取れるとそれが自慢の種になった。
「はあ、一体どうなっているんだ?これはとても追いつかんぞ!」
メーメは使用人に厳しく、いままでサラ以外は誰も居着かなかったため、スイーツ作りを手伝える人手がない。
サラの侍女モニカがホールを手伝うくらいではまったく足りないのだ。
足がだいぶ良くなってきたメーメは、椅子に座って作業しているが、自分で動けるようになったためローサが帰ってしまったのも地味に痛かった。
「ローサがいれば、少しは手伝いもさせられたのに」
悔しそうにメーメが呟くが、サラはふるふると首をください振って笑う。
「この忙しさもいつまで続くかわかりませんから。そのうちに落ち着いて、あのときは忙しかったと懐かしく思う日が来ると思いますわ」
しかしその読みは外れ、メーメの店は忙しくなる一方だった。
量が作れないことがメーメとサラの悩みだったが、人気だから量産してたくさん売ろうという店が多い中、限られた量しか買えずなかなか手が届かないことが本人たちの知らぬ間にどんどん人気を高めていったのだ。
自分の気持ちに気づいてから、勝手に気まずく感じてなかなか店に足を向けられなかったザイアだが、母に頼まれて三週間ぶりにメーメの店にやって来ると、長い列で並ぶ女性たちに驚き、目を見張った。
「あの、この行列は?」
最後尾の女性に訊ねると、
「サラ様がお作りになるスイーツを買うための行列ですわ!」
「え!」
メーメの店に通い始めてから、こんなに間隔が空いたのは始めてだが。
予想外の事態に、並ぶのを諦めようかと思った瞬間、たまたまモニカが外に顔を出した。
「あら!お久しぶりですねっ!」
パーティー以来ぱったり姿を見せなくなったザイアに、サラもモニカも気をもんでいたのだ。
並んでいる人の手前、割り込ませるわけにもいかないので、モニカはザイアの袖口を握り、裏口へと連れて行った。
「お、おい君、どこへ行くんだ?」
ザイアは戸惑いながら引かれていくと、メーメの家の裏口に押し込まれる。
「ちょっとお待ちになってくださいな」
奥に消えたモニカの代わりに顔を出したのはサラだった。
「まあっ!ご無沙汰しておりました」
「あのっこ、こんなところから」
「ええ、モニカに聞きましたわ。こちらこそ申し訳ございませんでした、このようなところにお連れして。でも以前からのお客様にはこうでもしないとお買い求めいただくことができなくなっておりまして」
困ったように小首を傾げるサラが可愛過ぎると、ザイアの目が泳いだ。
裏から入れる特別扱いを受けたが、以前からのお客様だからという言葉に、そうかそれだけのことかとサラの一挙手一投足にいちいち喜んだり悲しんだり振り回されている。
「あの・・・しばらくいらっしゃいませんでしたね。御母堂様のお加減はいかがですか」
「え?あ、母は元気にしております。・・・私が忙しくしておりましたので」
─ただの客に過ぎなかったらしばらく来なかったなど気にしないかもしれない─
サラが自分を特別扱いしてくれていると思える理由を、ザイアは無意識に探していた。
18
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い
希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。
一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。
ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。
その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。
彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。
しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。
今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。
ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」
書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。
今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、
5年経っても帰ってくることはなかった。
そして、10年後…
「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる