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32話
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「お忙しいのですか?それなのにわざわざいらしてくださって、うれしいですわ」
にっこりするサラにザイアの目が吸い付いてしまう。
─美しくて可愛らしくてやさしくて頑張り屋で、こんな女性がひとりでいるなんて世の中どうなっているんだ!─
いつからなのか、ザイアの頭の中はサラでいっぱいになっていた。
メーリア伯爵家のパーティーでは、サラの父デードのおかげでエスコートする機会を得た。なぜタイリユ家の自分にサラを任せてくれたのかはわからない。ただの気まぐれかもしれないが、サラがタイリユ子爵家が傷をつけたメーリア伯爵令嬢だと知って絶望し、すでに除籍されているソイラを恨めしく思った瞬間に、奇跡的にサラの手を取ることができて舞い上がった。
話題を切らさぬよう、サラの言葉を聞き漏らさぬように過ごし、話せば話すほどにやっぱり素敵な令嬢だと想いを新たにした。
だが屋敷に戻って落ち着くと、やはりメーリア伯爵令嬢に自分なんかでは無理だと落ち込み始めてメーメの店に行くことができなくなり、今日エラに「スイーツ買ってこい」と命令されるまでウジウジしていたのだ。
来てみると、サラのスイーツはたくさんの女性たちが殺到して並ぶほど大人気になっており、その中を自分だけが裏口から入れてもらえた。
「来てよかった」
気づくとザイアの口から言葉が漏れ落ちる。
「ありがとうございます!そうおっしゃっていただけると、とってもうれしいですわ」
─とってもうれしいって言ってくれた!─
いちいち喜ぶザイアである。
母に頼まれた焼き菓子はじきに焼き上がると聞いて、待たせてもらう間に、店の繁盛ぶりをメーメとモニカが話してくれた。
「確かにパーティーのスイーツはとても評判がよかったから、ここに来たくなる気持ちもわかりますが、それにしてもすごい行列ですね」
「もっと作れたらいいんですがね」
「職人を増やすことは考えていないのですか?」
至極当然な質問をザイアにされたが、メーメは目を逸らす。
「師匠が厳しすぎて、なかなか人が見つからないのですわ」
サラが拗ねたように愚痴る。
「厳しすぎる?」
「私は自分が甘やかされた貴族だと思っておりましたし、修業がどういうものか知らず、皆にとってこれが普通なのだと思っておりましたから耐えられましたが、どうやら師匠は特別に厳しいらしくて」
─そうか。そんなに厳しい修業もやり遂げるとは、やはり素晴らしい方だ!─
恋に目が眩んだザイアにはサラの欠伸も美しく見え、何を聞いても素晴らしい囁きに聞こえた。
─母上ではないが、人を想うというのはなんと胸が熱くなることだろう─
昔の自分は、元婚約者にどうだっただろうと思い出そうとするが、婚約者の顔すらぼんやりとしか思い出せなかった。
「でもほら」
モニカの声に、現実に引き戻される。
「買えないから欲しくなる、予約が取れないから取りたくなって、人気はうなぎのぼりの一方ですもの。出し惜しみしてこのくらいの量を作り続けるのでよろしいのではありませんか?」
「そう!それも戦略ですよ」
商会の仕事もするザイアがハッとした。
「しかし、ホールのテーブルは少し増やしてもいいかもしれませんね。三卓しかないと、いつまでたっても予約が取れないままで、諦めてしまうかもしれない」
「なるほど。テーブルを増やすか・・・、モニカが動けるなら私もそれでよいぞ」
いつの間にかモニカはメーメの店の戦力になっているようだ。
「お任せくださいませ。ちゃちゃっとやってみせましょう」
ニカッと笑って、トレーを指でくるりと回した。
「なんですの、モニカってば。お行儀悪いですわよ」
みんなで吹き出した。
─なんかいいな、この雰囲気─
自分も三人の笑いの中にいることがうれしいザイアは、皆を喜ばせることを思いつく。
「テーブルセットですが、よかったら我が家の商会で御用意させてもらえませんか?」
「それは助かるな、何しろこの忙しさでは店を回る余裕もない」
「あの、主殿は店の意匠にこだわりがありますか?」
「昔はあったが今はない。だいぶ色褪せていることは気づいているんだが、そこに金をかけるなら材料や道具に良い物を使いたいかったからな」
なるほどと、メーメ以外はすんなり納得した。
「では師匠!私に店内の模様替えをさせていただけませんかしら?もちろん費用も私が出しますので」
サラの提案に、チラリと目をやったメーメが驚きの発言をした。
「構わんぞ。いずれはサラにやる店だから、おまえが好きなように飾るといい」
「ええっ?嘘っ!私にやるなんて、やめてください!師匠まさか引退するおつもりですか?」
「いやいや、よく聞けサラ。今いずれと言っただろう?ローサはこの店には興味ないし、菓子作りもしたくないそうだ。この前こちらに来たときに、早く引退して一緒に暮らせと何度も言われてな。すぐではないが、考えてはいるんだ。だからその時が来たら、店の権利はサラにやろうと思ってな」
呆然とするサラとは違い、モニカとザイアはこの陰気臭い意匠の店を美しく作り変えることができると知り、わくわくし始めていた。
にっこりするサラにザイアの目が吸い付いてしまう。
─美しくて可愛らしくてやさしくて頑張り屋で、こんな女性がひとりでいるなんて世の中どうなっているんだ!─
いつからなのか、ザイアの頭の中はサラでいっぱいになっていた。
メーリア伯爵家のパーティーでは、サラの父デードのおかげでエスコートする機会を得た。なぜタイリユ家の自分にサラを任せてくれたのかはわからない。ただの気まぐれかもしれないが、サラがタイリユ子爵家が傷をつけたメーリア伯爵令嬢だと知って絶望し、すでに除籍されているソイラを恨めしく思った瞬間に、奇跡的にサラの手を取ることができて舞い上がった。
話題を切らさぬよう、サラの言葉を聞き漏らさぬように過ごし、話せば話すほどにやっぱり素敵な令嬢だと想いを新たにした。
だが屋敷に戻って落ち着くと、やはりメーリア伯爵令嬢に自分なんかでは無理だと落ち込み始めてメーメの店に行くことができなくなり、今日エラに「スイーツ買ってこい」と命令されるまでウジウジしていたのだ。
来てみると、サラのスイーツはたくさんの女性たちが殺到して並ぶほど大人気になっており、その中を自分だけが裏口から入れてもらえた。
「来てよかった」
気づくとザイアの口から言葉が漏れ落ちる。
「ありがとうございます!そうおっしゃっていただけると、とってもうれしいですわ」
─とってもうれしいって言ってくれた!─
いちいち喜ぶザイアである。
母に頼まれた焼き菓子はじきに焼き上がると聞いて、待たせてもらう間に、店の繁盛ぶりをメーメとモニカが話してくれた。
「確かにパーティーのスイーツはとても評判がよかったから、ここに来たくなる気持ちもわかりますが、それにしてもすごい行列ですね」
「もっと作れたらいいんですがね」
「職人を増やすことは考えていないのですか?」
至極当然な質問をザイアにされたが、メーメは目を逸らす。
「師匠が厳しすぎて、なかなか人が見つからないのですわ」
サラが拗ねたように愚痴る。
「厳しすぎる?」
「私は自分が甘やかされた貴族だと思っておりましたし、修業がどういうものか知らず、皆にとってこれが普通なのだと思っておりましたから耐えられましたが、どうやら師匠は特別に厳しいらしくて」
─そうか。そんなに厳しい修業もやり遂げるとは、やはり素晴らしい方だ!─
恋に目が眩んだザイアにはサラの欠伸も美しく見え、何を聞いても素晴らしい囁きに聞こえた。
─母上ではないが、人を想うというのはなんと胸が熱くなることだろう─
昔の自分は、元婚約者にどうだっただろうと思い出そうとするが、婚約者の顔すらぼんやりとしか思い出せなかった。
「でもほら」
モニカの声に、現実に引き戻される。
「買えないから欲しくなる、予約が取れないから取りたくなって、人気はうなぎのぼりの一方ですもの。出し惜しみしてこのくらいの量を作り続けるのでよろしいのではありませんか?」
「そう!それも戦略ですよ」
商会の仕事もするザイアがハッとした。
「しかし、ホールのテーブルは少し増やしてもいいかもしれませんね。三卓しかないと、いつまでたっても予約が取れないままで、諦めてしまうかもしれない」
「なるほど。テーブルを増やすか・・・、モニカが動けるなら私もそれでよいぞ」
いつの間にかモニカはメーメの店の戦力になっているようだ。
「お任せくださいませ。ちゃちゃっとやってみせましょう」
ニカッと笑って、トレーを指でくるりと回した。
「なんですの、モニカってば。お行儀悪いですわよ」
みんなで吹き出した。
─なんかいいな、この雰囲気─
自分も三人の笑いの中にいることがうれしいザイアは、皆を喜ばせることを思いつく。
「テーブルセットですが、よかったら我が家の商会で御用意させてもらえませんか?」
「それは助かるな、何しろこの忙しさでは店を回る余裕もない」
「あの、主殿は店の意匠にこだわりがありますか?」
「昔はあったが今はない。だいぶ色褪せていることは気づいているんだが、そこに金をかけるなら材料や道具に良い物を使いたいかったからな」
なるほどと、メーメ以外はすんなり納得した。
「では師匠!私に店内の模様替えをさせていただけませんかしら?もちろん費用も私が出しますので」
サラの提案に、チラリと目をやったメーメが驚きの発言をした。
「構わんぞ。いずれはサラにやる店だから、おまえが好きなように飾るといい」
「ええっ?嘘っ!私にやるなんて、やめてください!師匠まさか引退するおつもりですか?」
「いやいや、よく聞けサラ。今いずれと言っただろう?ローサはこの店には興味ないし、菓子作りもしたくないそうだ。この前こちらに来たときに、早く引退して一緒に暮らせと何度も言われてな。すぐではないが、考えてはいるんだ。だからその時が来たら、店の権利はサラにやろうと思ってな」
呆然とするサラとは違い、モニカとザイアはこの陰気臭い意匠の店を美しく作り変えることができると知り、わくわくし始めていた。
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