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33話
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タイリユ商会は、タイリユ子爵家の先々代当主が資金と人を揃えて、小さな子爵領地の特産品を販売するために起こしたもので、現在の商会長は名ばかりではあるがザニ・タイリユ子爵、実際の経営権はザイアが掌握しており、メーメの店の改装話はすぐに手配された。
商会のニームと今の店を確認するために向かうと、メーメの店の前は今日も驚くほどの人だかりで、様々な店との付き合いがあるニームもすごい繁盛ぶりだと興奮を見せた。
「なんかバランス悪い店ですね」
「バランス悪いとは?」
「店から受ける印象はこんなにも陰気なのに、これほど繁盛しているというギャップがです」
「ニームならどうする?」
ザイアに訊ねられて、店の外側を隅々まで観察する。
「そうですね、まずは外装のペンキ塗り直しが急務です。それだけでもだいぶ変わるでしょう」
それはまちがいないとザイアも頷く。
「窓を大きなものに取り替え、雨などに備えて入り口に可動式のテントを取り付けましょう」
イメージがどんどんと出来上がっていく。
「スイーツの店ですから、女性向けに入口横に花壇を作るのはどうかな」
そんな風にイメージを固めてさらさらとメモを書いていくニーム。
「こんな意匠はいかがでしょう?」
渡された紙には、女性が好みそうな可愛らしく意匠の店が書かれており、ザイアはその中でサラが笑う姿を想像して綻んだ。
「まずは主殿とサラ様に見ていただこう」
行列を避けて裏口にまわり、扉をノックするとメーメが顔を出したので、用を話すとすぐに通され、サラが呼ばれた。
「サラ、来られるか?」
メーメはニームの意匠を恥ずかしいと言ったけれど、サラはとても可愛いと喜んだし、モニカはスイーツの店はこのくらいじゃないととメーメに説教をしたほど。
「では工事の日程と正確な予算の書面ができましたら、調印することといたしましょう」
ケーキ作りは頑張っているサラだが、ザイアが商会長代理としてみせた提案交渉の力量に、いつもやさしく穏やかにケーキの話に興じる青年の別の顔を見た。
てきぱきと判断を下し、商談を先に進めていくザイアに自分にはないものを見たサラは、優男に見えても頼りがいのある紳士なのだといままでとは違う目で見るようになっていた。
契約を済ませると、店の定休日を利用して一気に仕上げてくれ、休み明けに来た客をその可愛らしい外観で驚かせた。
「タイリユ様、こんなに素敵にしてくださって本当にありがとうございました」
サラは自分が貯めてきた金、その中にはタイリユ家からの慰謝料も含まれているのだが、気前良くそれで改装費用を支払うと。
「改装記念の小さなパーティーを行うのはいかがでしょうね?お世話になったタイリユ商会の皆様をご招待して、店に入れるくらいの人数だけで」
「あ?ああ。いいぞ寝る時間が遅くならねばな。金を出した者に権利がある」
メーメがくすくすと笑う。
「では遠慮なく。師匠がおやすみになる時間までには片付けてみせますからご安心くださいませ」
サラは眠る前に部屋でザイア宛の招待状を書いていた。
ザイアとエラ、ムーニと工事に携わった商会の使用人四人の他、連れていきたいと思う方がいるならどうぞと書いて。
ふと、ザイアが女性を伴ってきたらと頭に浮かぶ。
そうだ。あの容姿と財力があれば引く手あまたに違いない。そう気づくと急に胸が痛みだして、思わず手でおさえるとモニカが慌てて飛んできた。
「サラ様、どうなさいましたの?お加減が」
「いえ、違うのよ。大丈夫・・・」
そう言って、力なくベッドに潜り込んだ。
しかし、嫌な想像が頭にこびりつき、疲れているはずなのに眠れない。
─パーティーにはひとりでいらしたわ。だからお父さまが私のエスコートをお願いしたのですもの。あれからまだ数ヶ月、婚約された貴族の噂にタイリユ様のお名前はなかったはず─
なにかザイアについて見逃したことがないか、一生懸命に思い出そうとするが。
─婚約していなくても、婚約前提の方がいたらわからない・・・。エスコートして頂いたから、おひとりでいらっしゃると思い込んでいたけどもし違っていたら・・・─
ザイアが他の令嬢を連れ、目の前に現れたらと思うと、酷く胸が痛んで涙が浮かんだ。
─私、タイリユ様をお慕いしているのだわ─
スイーツを作り始めたばかりの自分にやさしく接してくれ、いつも励ましてくれていたザイアに支えられていたと気づく。
タイリユ子爵家の嫡男、あのソイラの兄であったと知っても、それが彼の評価を変えることはなかった。
しかし。
メーリア伯爵家としたらどうだろう。
そんなことを気にするようなら、先日のパーティーで娘のエスコートなど頼まないはず。
そう思いたいが、もしサラの想いが通じることがあったら、それはダメと言われるだろうか?
ザイアに誰か想う相手がいるのかを心配しながら、もしザイアが自分を想ってくれたならと違う心配もしている自分に気づくと、急に可笑しくなってきた。
「考えてもしかたないわ」
そう言葉にして、頭に浮かぶことを断ち切ると瞳を閉じた。
商会のニームと今の店を確認するために向かうと、メーメの店の前は今日も驚くほどの人だかりで、様々な店との付き合いがあるニームもすごい繁盛ぶりだと興奮を見せた。
「なんかバランス悪い店ですね」
「バランス悪いとは?」
「店から受ける印象はこんなにも陰気なのに、これほど繁盛しているというギャップがです」
「ニームならどうする?」
ザイアに訊ねられて、店の外側を隅々まで観察する。
「そうですね、まずは外装のペンキ塗り直しが急務です。それだけでもだいぶ変わるでしょう」
それはまちがいないとザイアも頷く。
「窓を大きなものに取り替え、雨などに備えて入り口に可動式のテントを取り付けましょう」
イメージがどんどんと出来上がっていく。
「スイーツの店ですから、女性向けに入口横に花壇を作るのはどうかな」
そんな風にイメージを固めてさらさらとメモを書いていくニーム。
「こんな意匠はいかがでしょう?」
渡された紙には、女性が好みそうな可愛らしく意匠の店が書かれており、ザイアはその中でサラが笑う姿を想像して綻んだ。
「まずは主殿とサラ様に見ていただこう」
行列を避けて裏口にまわり、扉をノックするとメーメが顔を出したので、用を話すとすぐに通され、サラが呼ばれた。
「サラ、来られるか?」
メーメはニームの意匠を恥ずかしいと言ったけれど、サラはとても可愛いと喜んだし、モニカはスイーツの店はこのくらいじゃないととメーメに説教をしたほど。
「では工事の日程と正確な予算の書面ができましたら、調印することといたしましょう」
ケーキ作りは頑張っているサラだが、ザイアが商会長代理としてみせた提案交渉の力量に、いつもやさしく穏やかにケーキの話に興じる青年の別の顔を見た。
てきぱきと判断を下し、商談を先に進めていくザイアに自分にはないものを見たサラは、優男に見えても頼りがいのある紳士なのだといままでとは違う目で見るようになっていた。
契約を済ませると、店の定休日を利用して一気に仕上げてくれ、休み明けに来た客をその可愛らしい外観で驚かせた。
「タイリユ様、こんなに素敵にしてくださって本当にありがとうございました」
サラは自分が貯めてきた金、その中にはタイリユ家からの慰謝料も含まれているのだが、気前良くそれで改装費用を支払うと。
「改装記念の小さなパーティーを行うのはいかがでしょうね?お世話になったタイリユ商会の皆様をご招待して、店に入れるくらいの人数だけで」
「あ?ああ。いいぞ寝る時間が遅くならねばな。金を出した者に権利がある」
メーメがくすくすと笑う。
「では遠慮なく。師匠がおやすみになる時間までには片付けてみせますからご安心くださいませ」
サラは眠る前に部屋でザイア宛の招待状を書いていた。
ザイアとエラ、ムーニと工事に携わった商会の使用人四人の他、連れていきたいと思う方がいるならどうぞと書いて。
ふと、ザイアが女性を伴ってきたらと頭に浮かぶ。
そうだ。あの容姿と財力があれば引く手あまたに違いない。そう気づくと急に胸が痛みだして、思わず手でおさえるとモニカが慌てて飛んできた。
「サラ様、どうなさいましたの?お加減が」
「いえ、違うのよ。大丈夫・・・」
そう言って、力なくベッドに潜り込んだ。
しかし、嫌な想像が頭にこびりつき、疲れているはずなのに眠れない。
─パーティーにはひとりでいらしたわ。だからお父さまが私のエスコートをお願いしたのですもの。あれからまだ数ヶ月、婚約された貴族の噂にタイリユ様のお名前はなかったはず─
なにかザイアについて見逃したことがないか、一生懸命に思い出そうとするが。
─婚約していなくても、婚約前提の方がいたらわからない・・・。エスコートして頂いたから、おひとりでいらっしゃると思い込んでいたけどもし違っていたら・・・─
ザイアが他の令嬢を連れ、目の前に現れたらと思うと、酷く胸が痛んで涙が浮かんだ。
─私、タイリユ様をお慕いしているのだわ─
スイーツを作り始めたばかりの自分にやさしく接してくれ、いつも励ましてくれていたザイアに支えられていたと気づく。
タイリユ子爵家の嫡男、あのソイラの兄であったと知っても、それが彼の評価を変えることはなかった。
しかし。
メーリア伯爵家としたらどうだろう。
そんなことを気にするようなら、先日のパーティーで娘のエスコートなど頼まないはず。
そう思いたいが、もしサラの想いが通じることがあったら、それはダメと言われるだろうか?
ザイアに誰か想う相手がいるのかを心配しながら、もしザイアが自分を想ってくれたならと違う心配もしている自分に気づくと、急に可笑しくなってきた。
「考えてもしかたないわ」
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