【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

文字の大きさ
35 / 44

35話

しおりを挟む
 タイリユ子爵家での茶会に誘いを受けたとき、パーティーの礼の社交辞令くらいに思っていたサラは、楽しい夜を終えた翌日伯爵一家のティータイムで家族に茶会に行くことを伝えた。

「タイリユ子爵家の茶会?ではドレスを作りなさい」

 父デードが言うとサラはびっくりしたように手を振って。

「そんなもったいない。今あるものを着ていきますわ」
「いやダメだよサラ!我が家はもう復興をやり遂げたのだから、前のような酷い節約はしなくてもいいんだ。社交は貴族の仕事でもあるから、誘いを受けたからにはそれなりの支度をするのが礼儀だぞ。以前の我が家は余裕がなさすぎて、礼を欠くほどの節約をしていたと言わざるを得ない。あれは忘れて、あるべき貴族の礼を尽くし、茶会に呼ばれなさい」

 デードは引かない。
すぐネル夫人に手配をさせて、社交用のドレスを数枚作らせるように言いつけた。

「大袈裟だと思いますわ」

 ぶつぶつ言う娘には敢えて目をやらずに、デードはタイリユ子爵家の意図を考えていた。

(もしかして向こうもサラを気に入っているのか?まあ、器量も性格もいいから気に入られて当たり前だがな。平民のような仕事を持つ娘でもいいと考えている?それとも仕事を辞めさせる前提か)

 タイリユ子爵家の当主は、先日のパーティーでも家族の後ろにぽつんとついて歩いて、家族たちに相手にされていなかった。
あれでは大切な話は持ち込んでもダメだろう。見たところ、ザイア本人か子爵夫人のどちらかと話すのが良さそうだと結論づける。

(サラはザイア殿をどう思っているのだろうな。一度ネルに確かめさせることにしよう)


 メーリア伯爵夫妻は執務室で相談とは言えない一方的な話し合いをしていた。

「私はサラの気持ちを探ったり、タイリユ子爵家の意向を探ったりは致しませんわ。やりたいなら貴方がなさいませ。サラが助けを求めてくるなら別ですけれど、もう二度とサラの意に沿わぬことをさせたくないですし、傷ついてほしくないですから。自然に任せたらよろしいではありませんか。ふたりともいい大人なのですから」

 最後に夫人がフンと言ったので、デードは驚いて妻を二度見したほど。

「しかしタイリユ子爵家の我が家との経緯は、こちらは気にせずともあちらはなあ。あちらから我が家へは婚姻の申し入れはし辛いと思わんか?」
「あちらの動きはあちらのもの。いくら気に入られていてもそれに迎合するのではなく、我が家はあくまでもサラに寄り添うだけですわ」

 また、フンッ!と言ってネルは執務室を出て行った。
妻の剣幕に驚きつつも、デードはめげない。

「サラがいいと言えばいいんだな、よし」

 そういえば!とデードはメーメの店に行ったことがないと気がつき、まずは普段のサラの様子を探ることにした。

 仕事で出かけた帰りに王都に寄り、メーメの店の前を馬車で通り過ぎると、話半分に聞いていたが行列に驚かされる。

「すごいな!こんなに並んででも買いたいものなのか?」

 いつも家でサラの試作品を食べているデードは、確かに美味いと思うが、居並ぶ女性たちの執念に驚かされていた。

 馬車は人混みを行くために速度を落としており、話し声も聞こえてくるのだが、それがすべてサラへの賞賛でこれもまた驚かされる。

「ここはエンデラ・メーメという菓子職人の店なのに、なぜサラのことばかり話しているのだ?」

 デードは知らないことばかりで、馬車の中でひとりぶつぶつと呟き続けていた。

 店より少し先に馬車を停めさせると、歩いて店の近くに偵察に行く。
 すると並んでいる女性たちの話は二通り。働くサラが如何に素敵であるか、政略結婚などしなくてもこうしてひとり生きていくことができるなどサラの生き方について話している者と、一から十までスイーツを褒め続ける者。
 想像以上に娘の人気が高いことに満足してデードは、本来の目的を忘れて帰ろうとしていた。

「デード様ではございませんか?」

 声をかけられるまでは。

「おや?ザイア殿か!久しいな」
「はい、先日は素晴らしいパーティーにお呼び下さりありがとうございました」

 ここで会えるとは!とうれしいような、ここでは会いたくなかった!という残念なような複雑なデードであるが。

「サラ様のスイーツをお求めでしたら、こちらへどうぞ」

 まるでザイアも店員のように裏へとデードを案内するので、違うとも言えずにおとなしく一緒に連れて行かれると、表とは違う質素だが堅牢な扉の前に立たされた。
 手慣れた仕草でザイアが数回ノックをすると、開いた扉からモニカが顔を出し、

「旦那様!」

裏返ったような高い声で叫んだ。

 倉庫のように棚が並ぶ通路を通り、休憩室につくと小さなソファに座らされる。

「サラ様がいらっしゃいますので、お待ちくださいませ」

 遠くからこっそり探る予定が台無しになったが、期せずして素のふたりを見る機会に恵まれたデードは、しかし休憩室に来たサラに素っ気なく扱われる。

「お父さま、どうなさいましたの?私のスイーツなど家にいくらでもありますのにわざわざ」

来店の目的を疑われたようだ。

「いや、私が近くでお見かけしたもので、無理矢理連れてきてしまったのですよ」

 ザイアが助けてくれ、デードの彼への好感度は一気に上がった。
 サラはザイアに素直に頷き、しかたなさそうに父に土産を包んで渡す。

「まだお仕事中でございましょう?これからどこかにお寄りになるのなら手土産になさいませ」

 とっとと帰れという目をして。

「では連れてきた私もともに参りましょう。私の注文の間お待ち頂いても?」

 サラに聞いたのかデードに聞いたのかわからず、ふたりともこくんと頷いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】20あなたが思っている通りにはいきませんわ。

華蓮
恋愛
ユリアスとオリンピアは、もうすぐ結婚式を挙げる。 幸せな生活が続くはずだったのに、隣国から要請により、人質になることになった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

星屑を紡ぐ令嬢と、色を失った魔法使い

希羽
恋愛
子爵令嬢のルチアは、継母と義姉に虐げられ、屋根裏部屋でひっそりと暮らしていた。彼女には、夜空に輝く星屑を集めて、触れた者の心を癒す不思議な力を持つ「銀色の糸」を紡ぎ出すという、秘密の能力があった。しかし、その力で生み出された美しい刺繍の手柄は、いつも華やかな義姉のものとされていた。 一方、王国には「灰色の魔法使い」と畏れられる英雄、アークライト公爵がいた。彼はかつて国を救った代償として、世界の色彩と感情のすべてを失い、孤独な日々を送っている。 ある夜会で、二人の運命が交差する。義姉が手にしたルチアの刺繍にアークライトが触れた瞬間、彼の灰色だった世界に、一瞬だけ鮮やかな色彩が流れ込むという奇跡が起きた。 その光の本当の作り手を探し出したアークライトは、ルチアを自身の屋敷へと迎え入れる。「私のために刺繍をしろ」──その強引な言葉の裏にある深い孤独を知ったルチアは、戸惑いながらも、初めて自分の力を認められたことに喜びを感じ、彼のために星屑を紡ぎ始める。 彼女の刺繍は、凍てついていた公爵の心を少しずつ溶かし、二人の間には静かな絆が芽生えていく。 しかし、そんな穏やかな日々は長くは続かない。ルチアの持つ力の価値に気づいた過去の人々が、彼女を再び絶望へ引き戻そうと、卑劣な陰謀を企てていた。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!** 「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」  侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。 「あなたの侍女になります」 「本気か?」    匿ってもらうだけの女になりたくない。  レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。  一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。  レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。 ※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません) ※設定はゆるふわ。 ※3万文字で終わります ※全話投稿済です

処理中です...