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35話
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タイリユ子爵家での茶会に誘いを受けたとき、パーティーの礼の社交辞令くらいに思っていたサラは、楽しい夜を終えた翌日伯爵一家のティータイムで家族に茶会に行くことを伝えた。
「タイリユ子爵家の茶会?ではドレスを作りなさい」
父デードが言うとサラはびっくりしたように手を振って。
「そんなもったいない。今あるものを着ていきますわ」
「いやダメだよサラ!我が家はもう復興をやり遂げたのだから、前のような酷い節約はしなくてもいいんだ。社交は貴族の仕事でもあるから、誘いを受けたからにはそれなりの支度をするのが礼儀だぞ。以前の我が家は余裕がなさすぎて、礼を欠くほどの節約をしていたと言わざるを得ない。あれは忘れて、あるべき貴族の礼を尽くし、茶会に呼ばれなさい」
デードは引かない。
すぐネル夫人に手配をさせて、社交用のドレスを数枚作らせるように言いつけた。
「大袈裟だと思いますわ」
ぶつぶつ言う娘には敢えて目をやらずに、デードはタイリユ子爵家の意図を考えていた。
(もしかして向こうもサラを気に入っているのか?まあ、器量も性格もいいから気に入られて当たり前だがな。平民のような仕事を持つ娘でもいいと考えている?それとも仕事を辞めさせる前提か)
タイリユ子爵家の当主は、先日のパーティーでも家族の後ろにぽつんとついて歩いて、家族たちに相手にされていなかった。
あれでは大切な話は持ち込んでもダメだろう。見たところ、ザイア本人か子爵夫人のどちらかと話すのが良さそうだと結論づける。
(サラはザイア殿をどう思っているのだろうな。一度ネルに確かめさせることにしよう)
メーリア伯爵夫妻は執務室で相談とは言えない一方的な話し合いをしていた。
「私はサラの気持ちを探ったり、タイリユ子爵家の意向を探ったりは致しませんわ。やりたいなら貴方がなさいませ。サラが助けを求めてくるなら別ですけれど、もう二度とサラの意に沿わぬことをさせたくないですし、傷ついてほしくないですから。自然に任せたらよろしいではありませんか。ふたりともいい大人なのですから」
最後に夫人がフンと言ったので、デードは驚いて妻を二度見したほど。
「しかしタイリユ子爵家の我が家との経緯は、こちらは気にせずともあちらはなあ。あちらから我が家へは婚姻の申し入れはし辛いと思わんか?」
「あちらの動きはあちらのもの。いくら気に入られていてもそれに迎合するのではなく、我が家はあくまでもサラに寄り添うだけですわ」
また、フンッ!と言ってネルは執務室を出て行った。
妻の剣幕に驚きつつも、デードはめげない。
「サラがいいと言えばいいんだな、よし」
そういえば!とデードはメーメの店に行ったことがないと気がつき、まずは普段のサラの様子を探ることにした。
仕事で出かけた帰りに王都に寄り、メーメの店の前を馬車で通り過ぎると、話半分に聞いていたが行列に驚かされる。
「すごいな!こんなに並んででも買いたいものなのか?」
いつも家でサラの試作品を食べているデードは、確かに美味いと思うが、居並ぶ女性たちの執念に驚かされていた。
馬車は人混みを行くために速度を落としており、話し声も聞こえてくるのだが、それがすべてサラへの賞賛でこれもまた驚かされる。
「ここはエンデラ・メーメという菓子職人の店なのに、なぜサラのことばかり話しているのだ?」
デードは知らないことばかりで、馬車の中でひとりぶつぶつと呟き続けていた。
店より少し先に馬車を停めさせると、歩いて店の近くに偵察に行く。
すると並んでいる女性たちの話は二通り。働くサラが如何に素敵であるか、政略結婚などしなくてもこうしてひとり生きていくことができるなどサラの生き方について話している者と、一から十までスイーツを褒め続ける者。
想像以上に娘の人気が高いことに満足してデードは、本来の目的を忘れて帰ろうとしていた。
「デード様ではございませんか?」
声をかけられるまでは。
「おや?ザイア殿か!久しいな」
「はい、先日は素晴らしいパーティーにお呼び下さりありがとうございました」
ここで会えるとは!とうれしいような、ここでは会いたくなかった!という残念なような複雑なデードであるが。
「サラ様のスイーツをお求めでしたら、こちらへどうぞ」
まるでザイアも店員のように裏へとデードを案内するので、違うとも言えずにおとなしく一緒に連れて行かれると、表とは違う質素だが堅牢な扉の前に立たされた。
手慣れた仕草でザイアが数回ノックをすると、開いた扉からモニカが顔を出し、
「旦那様!」
裏返ったような高い声で叫んだ。
倉庫のように棚が並ぶ通路を通り、休憩室につくと小さなソファに座らされる。
「サラ様がいらっしゃいますので、お待ちくださいませ」
遠くからこっそり探る予定が台無しになったが、期せずして素のふたりを見る機会に恵まれたデードは、しかし休憩室に来たサラに素っ気なく扱われる。
「お父さま、どうなさいましたの?私のスイーツなど家にいくらでもありますのにわざわざ」
来店の目的を疑われたようだ。
「いや、私が近くでお見かけしたもので、無理矢理連れてきてしまったのですよ」
ザイアが助けてくれ、デードの彼への好感度は一気に上がった。
サラはザイアに素直に頷き、しかたなさそうに父に土産を包んで渡す。
「まだお仕事中でございましょう?これからどこかにお寄りになるのなら手土産になさいませ」
とっとと帰れという目をして。
「では連れてきた私もともに参りましょう。私の注文の間お待ち頂いても?」
サラに聞いたのかデードに聞いたのかわからず、ふたりともこくんと頷いた。
「タイリユ子爵家の茶会?ではドレスを作りなさい」
父デードが言うとサラはびっくりしたように手を振って。
「そんなもったいない。今あるものを着ていきますわ」
「いやダメだよサラ!我が家はもう復興をやり遂げたのだから、前のような酷い節約はしなくてもいいんだ。社交は貴族の仕事でもあるから、誘いを受けたからにはそれなりの支度をするのが礼儀だぞ。以前の我が家は余裕がなさすぎて、礼を欠くほどの節約をしていたと言わざるを得ない。あれは忘れて、あるべき貴族の礼を尽くし、茶会に呼ばれなさい」
デードは引かない。
すぐネル夫人に手配をさせて、社交用のドレスを数枚作らせるように言いつけた。
「大袈裟だと思いますわ」
ぶつぶつ言う娘には敢えて目をやらずに、デードはタイリユ子爵家の意図を考えていた。
(もしかして向こうもサラを気に入っているのか?まあ、器量も性格もいいから気に入られて当たり前だがな。平民のような仕事を持つ娘でもいいと考えている?それとも仕事を辞めさせる前提か)
タイリユ子爵家の当主は、先日のパーティーでも家族の後ろにぽつんとついて歩いて、家族たちに相手にされていなかった。
あれでは大切な話は持ち込んでもダメだろう。見たところ、ザイア本人か子爵夫人のどちらかと話すのが良さそうだと結論づける。
(サラはザイア殿をどう思っているのだろうな。一度ネルに確かめさせることにしよう)
メーリア伯爵夫妻は執務室で相談とは言えない一方的な話し合いをしていた。
「私はサラの気持ちを探ったり、タイリユ子爵家の意向を探ったりは致しませんわ。やりたいなら貴方がなさいませ。サラが助けを求めてくるなら別ですけれど、もう二度とサラの意に沿わぬことをさせたくないですし、傷ついてほしくないですから。自然に任せたらよろしいではありませんか。ふたりともいい大人なのですから」
最後に夫人がフンと言ったので、デードは驚いて妻を二度見したほど。
「しかしタイリユ子爵家の我が家との経緯は、こちらは気にせずともあちらはなあ。あちらから我が家へは婚姻の申し入れはし辛いと思わんか?」
「あちらの動きはあちらのもの。いくら気に入られていてもそれに迎合するのではなく、我が家はあくまでもサラに寄り添うだけですわ」
また、フンッ!と言ってネルは執務室を出て行った。
妻の剣幕に驚きつつも、デードはめげない。
「サラがいいと言えばいいんだな、よし」
そういえば!とデードはメーメの店に行ったことがないと気がつき、まずは普段のサラの様子を探ることにした。
仕事で出かけた帰りに王都に寄り、メーメの店の前を馬車で通り過ぎると、話半分に聞いていたが行列に驚かされる。
「すごいな!こんなに並んででも買いたいものなのか?」
いつも家でサラの試作品を食べているデードは、確かに美味いと思うが、居並ぶ女性たちの執念に驚かされていた。
馬車は人混みを行くために速度を落としており、話し声も聞こえてくるのだが、それがすべてサラへの賞賛でこれもまた驚かされる。
「ここはエンデラ・メーメという菓子職人の店なのに、なぜサラのことばかり話しているのだ?」
デードは知らないことばかりで、馬車の中でひとりぶつぶつと呟き続けていた。
店より少し先に馬車を停めさせると、歩いて店の近くに偵察に行く。
すると並んでいる女性たちの話は二通り。働くサラが如何に素敵であるか、政略結婚などしなくてもこうしてひとり生きていくことができるなどサラの生き方について話している者と、一から十までスイーツを褒め続ける者。
想像以上に娘の人気が高いことに満足してデードは、本来の目的を忘れて帰ろうとしていた。
「デード様ではございませんか?」
声をかけられるまでは。
「おや?ザイア殿か!久しいな」
「はい、先日は素晴らしいパーティーにお呼び下さりありがとうございました」
ここで会えるとは!とうれしいような、ここでは会いたくなかった!という残念なような複雑なデードであるが。
「サラ様のスイーツをお求めでしたら、こちらへどうぞ」
まるでザイアも店員のように裏へとデードを案内するので、違うとも言えずにおとなしく一緒に連れて行かれると、表とは違う質素だが堅牢な扉の前に立たされた。
手慣れた仕草でザイアが数回ノックをすると、開いた扉からモニカが顔を出し、
「旦那様!」
裏返ったような高い声で叫んだ。
倉庫のように棚が並ぶ通路を通り、休憩室につくと小さなソファに座らされる。
「サラ様がいらっしゃいますので、お待ちくださいませ」
遠くからこっそり探る予定が台無しになったが、期せずして素のふたりを見る機会に恵まれたデードは、しかし休憩室に来たサラに素っ気なく扱われる。
「お父さま、どうなさいましたの?私のスイーツなど家にいくらでもありますのにわざわざ」
来店の目的を疑われたようだ。
「いや、私が近くでお見かけしたもので、無理矢理連れてきてしまったのですよ」
ザイアが助けてくれ、デードの彼への好感度は一気に上がった。
サラはザイアに素直に頷き、しかたなさそうに父に土産を包んで渡す。
「まだお仕事中でございましょう?これからどこかにお寄りになるのなら手土産になさいませ」
とっとと帰れという目をして。
「では連れてきた私もともに参りましょう。私の注文の間お待ち頂いても?」
サラに聞いたのかデードに聞いたのかわからず、ふたりともこくんと頷いた。
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