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37話
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さてどうしたものか。
ザイア・タイリユは子爵家の馬車の中でため息を三回ついて、スイーツが詰まった籠を覗いた。
デード・メーリア伯爵に話した自分の気持ちは本当の本物。だが、サラの気持ちはまったくわからない。
心地よい距離と関係でいることに慣れてしまい、いまさらそれを変える必要があるのかとも思っていた。
このままずっと、パティシエールの道を歩むサラを見守り続けるのでも十分だと。
サラだって、仕事に生きると決めているなら結婚の申込みなどされたら迷惑に思うに違いない。
手を振って去っていく、晴れやかなデードの笑顔が目に焼き付いているが、それからなんとか目を逸らそうと目を擦ったり、パチパチと瞼を開け閉じしてみたが、あの期待に満ち満ちた目がどこまでも追って来る。
「はあああ~、困ったことになった!」
もう一度、特別大きなため息をこぼして、がっくりと項垂れた。
タイリユ子爵家に戻ると、籠を執事に渡してやり、母エラに好きなだけ。自分とゲールにチーズケーキ、残りは侍女とメイドで分けるように伝えて部屋へ戻る。
ひさしぶりに経験した、芯を削られるような疲れに苛まれて、夕食はいらないとチーズケーキを持ってきた侍女に告げた。
ベッドに潜ると、またあのデードの顔が浮かんでどこまでも追いかけてくるのだ。
「兄上!」
ケーキの礼に来たゲールが、ぷるぷると頭を振ったり頷いてみたり、ぶつぶつ言って首を傾げたりする兄を見て、肩を揺すった。
「どうした?大丈夫か?」
「あ。ゲールか。なんだ?」
「いや、それはこっちの台詞だぞ、何ぶつぶつ言ってるんだ?」
きょとんとするザイアには自覚がなかったようだ。
「悩みごとなら話してみろよ。解決してやると約束はできないが、ふたりで考えたら答えも出やすくなると思うぞ」
椅子を引いてきてザイアのそばに座った弟は先を促す。
「・・・実は偶然メーリア伯爵に会って」
兄の話を聞き終えたゲールは、むしろこっちのほうが驚きだと言わんばかりに訊いた。
「なぜそんなに悩む必要が?」
「え?悩むだろう、相手の気持ちもわからんし」
「相手の気持ちより、まず兄上自身の気持ちだよ。サラ様を愛しいと思うなら想いを告げろ!思わないなら」
「愛しく思わないことなんてあるわけない!」
ザイアの言葉にゲールが微笑む。
「そうか!それはよかった。兄上は見目もよいし、優しく穏やかで仕事もできる。しかも裕福な次期子爵で、ソイラのことさえなかったら超優良物件だった。しかし、あれがなかったら今頃はあの忌々しい女と結婚していて、サラ様とは出会えなかったと考えると・・・もしかしたら、いつかソイラに感謝したくなる日が来るかもしれんな」
ぷぷっと笑ったゲールは続けた。
「なあ、兄上。怖れるな、大丈夫だから」
「大丈夫?なぜそう言える?」
メーメの店で寄り添って話し込むふたりを見た者なら皆そう思うだろうよと、ゲールは思ったが口にはせず、片目でパチンとウインクして見せた。
「男なら当たって砕けろだ、兄上」
仕事は大胆に決断していくのに、サラには臆病な意外な兄の顔を見て、自分より優れて常に自分の前を歩いてきた兄を、生まれて初めて可愛いやつだと思えて。
ふふふっとゲールが笑いを零す。
「あ、ああすまないな。兄上はサラ様が本当になんていうか、アレだなって思ったらだ。そんな恋をしている兄上がなんか可愛くなって」
「ゲール・・・」
弟に可愛いと言われるなんて、こんなに照れくさいことはない。
そんな恋?
恋・・・
ボッ!
火を着けた音が聞こえたかと思うほど、瞬間的に真っ赤に染まるザイアに、ゲールの高らかな笑い声。
「兄上、可愛すぎだ!サラ様も間違いなくそんな兄上を想っていらっしゃるに違いないよ。安心して、申し込むんだ」
グッと親指を突き上げ、ぽんぽんとザイアの肩を叩くと部屋を出ていった。
「はあ」
メーリア伯爵とゲール。
ふたりから早く申し込めと勧められて、サラの顔を思い浮かべると胸がちくちくと痛む。
「もう少し考えよう・・・」
まだ気持ちは決めきれない、いや、気持ちは決まっていた。ただ踏み出す勇気がないのだ。
ソイラのことがあって不本意にも婚約破棄されたことで、心が砕けた。
もうあんな想いをしたくないと思ってしまう。家が決めたらそれでいいではないか。
なぜ本人同士に任せるんだ・・・
ん?家が決めたら?
彼女も家が決めたらそうするのか?
こちらから申し入れて伯爵が認めたら、家同士の婚姻が決められてそれに従うのだろうか?
伯爵はご夫妻とも自分なら賛成と言ってくれていた。
「それならメーリア伯爵家に申し入れさえすれば、あとは伯爵が良いようにしてくれるかも・・・」
普段のザイアなら、自分で決めて自分で動く。決してそんな情けない男ではないのたが。サラのことだけは、どうにもいつもの自分らしさは消え失せてしまう。
「やっぱりそんなのはダメだ、あのサラ様はそんなこずるいやり方は好まれないだろう。自分で言わなければ・・・」
ザイア・タイリユは子爵家の馬車の中でため息を三回ついて、スイーツが詰まった籠を覗いた。
デード・メーリア伯爵に話した自分の気持ちは本当の本物。だが、サラの気持ちはまったくわからない。
心地よい距離と関係でいることに慣れてしまい、いまさらそれを変える必要があるのかとも思っていた。
このままずっと、パティシエールの道を歩むサラを見守り続けるのでも十分だと。
サラだって、仕事に生きると決めているなら結婚の申込みなどされたら迷惑に思うに違いない。
手を振って去っていく、晴れやかなデードの笑顔が目に焼き付いているが、それからなんとか目を逸らそうと目を擦ったり、パチパチと瞼を開け閉じしてみたが、あの期待に満ち満ちた目がどこまでも追って来る。
「はあああ~、困ったことになった!」
もう一度、特別大きなため息をこぼして、がっくりと項垂れた。
タイリユ子爵家に戻ると、籠を執事に渡してやり、母エラに好きなだけ。自分とゲールにチーズケーキ、残りは侍女とメイドで分けるように伝えて部屋へ戻る。
ひさしぶりに経験した、芯を削られるような疲れに苛まれて、夕食はいらないとチーズケーキを持ってきた侍女に告げた。
ベッドに潜ると、またあのデードの顔が浮かんでどこまでも追いかけてくるのだ。
「兄上!」
ケーキの礼に来たゲールが、ぷるぷると頭を振ったり頷いてみたり、ぶつぶつ言って首を傾げたりする兄を見て、肩を揺すった。
「どうした?大丈夫か?」
「あ。ゲールか。なんだ?」
「いや、それはこっちの台詞だぞ、何ぶつぶつ言ってるんだ?」
きょとんとするザイアには自覚がなかったようだ。
「悩みごとなら話してみろよ。解決してやると約束はできないが、ふたりで考えたら答えも出やすくなると思うぞ」
椅子を引いてきてザイアのそばに座った弟は先を促す。
「・・・実は偶然メーリア伯爵に会って」
兄の話を聞き終えたゲールは、むしろこっちのほうが驚きだと言わんばかりに訊いた。
「なぜそんなに悩む必要が?」
「え?悩むだろう、相手の気持ちもわからんし」
「相手の気持ちより、まず兄上自身の気持ちだよ。サラ様を愛しいと思うなら想いを告げろ!思わないなら」
「愛しく思わないことなんてあるわけない!」
ザイアの言葉にゲールが微笑む。
「そうか!それはよかった。兄上は見目もよいし、優しく穏やかで仕事もできる。しかも裕福な次期子爵で、ソイラのことさえなかったら超優良物件だった。しかし、あれがなかったら今頃はあの忌々しい女と結婚していて、サラ様とは出会えなかったと考えると・・・もしかしたら、いつかソイラに感謝したくなる日が来るかもしれんな」
ぷぷっと笑ったゲールは続けた。
「なあ、兄上。怖れるな、大丈夫だから」
「大丈夫?なぜそう言える?」
メーメの店で寄り添って話し込むふたりを見た者なら皆そう思うだろうよと、ゲールは思ったが口にはせず、片目でパチンとウインクして見せた。
「男なら当たって砕けろだ、兄上」
仕事は大胆に決断していくのに、サラには臆病な意外な兄の顔を見て、自分より優れて常に自分の前を歩いてきた兄を、生まれて初めて可愛いやつだと思えて。
ふふふっとゲールが笑いを零す。
「あ、ああすまないな。兄上はサラ様が本当になんていうか、アレだなって思ったらだ。そんな恋をしている兄上がなんか可愛くなって」
「ゲール・・・」
弟に可愛いと言われるなんて、こんなに照れくさいことはない。
そんな恋?
恋・・・
ボッ!
火を着けた音が聞こえたかと思うほど、瞬間的に真っ赤に染まるザイアに、ゲールの高らかな笑い声。
「兄上、可愛すぎだ!サラ様も間違いなくそんな兄上を想っていらっしゃるに違いないよ。安心して、申し込むんだ」
グッと親指を突き上げ、ぽんぽんとザイアの肩を叩くと部屋を出ていった。
「はあ」
メーリア伯爵とゲール。
ふたりから早く申し込めと勧められて、サラの顔を思い浮かべると胸がちくちくと痛む。
「もう少し考えよう・・・」
まだ気持ちは決めきれない、いや、気持ちは決まっていた。ただ踏み出す勇気がないのだ。
ソイラのことがあって不本意にも婚約破棄されたことで、心が砕けた。
もうあんな想いをしたくないと思ってしまう。家が決めたらそれでいいではないか。
なぜ本人同士に任せるんだ・・・
ん?家が決めたら?
彼女も家が決めたらそうするのか?
こちらから申し入れて伯爵が認めたら、家同士の婚姻が決められてそれに従うのだろうか?
伯爵はご夫妻とも自分なら賛成と言ってくれていた。
「それならメーリア伯爵家に申し入れさえすれば、あとは伯爵が良いようにしてくれるかも・・・」
普段のザイアなら、自分で決めて自分で動く。決してそんな情けない男ではないのたが。サラのことだけは、どうにもいつもの自分らしさは消え失せてしまう。
「やっぱりそんなのはダメだ、あのサラ様はそんなこずるいやり方は好まれないだろう。自分で言わなければ・・・」
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