【完結】貧乏令嬢は自分の力でのし上がる!後悔?先に立たずと申しましてよ。

やまぐちこはる

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44話

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 結婚後。

 メーメはタイリユ子爵家から引き抜いた若い料理人を新たに弟子とし、ほぼ毎日やって来るサラと共同出資して店を大きくした。
 店の名前はサラの希望で『メーメの店』のまま。
 タイリユ商会から四人ほど店員に希望した者がおり、モニカとともにホール係となった。

 サラは夜会以外の社交は義母エラに任せ、メーメとスイーツ作りに没頭。
 以前は細かい帳簿付けなどもあったが、経営実務はタイリユ商会からサポートを出してくれたので、スイーツだけに集中できるようになっていた。
 何しろ物を売るのが専門の者が、もっと店を発展させようといろいろ策を巡らすのだ。
それまでの人気店が一つ人気商品が出るとそれだけを量産して飽きられ、廃れていったのとは違い、サラとメーメ、その弟子たちが新しいスイーツを作り出す度に戦略的に広告宣伝しながら、毎日売り切れ御免を演出し、並んででも手に入れたい菓子ばかりの一流店と呼ばれるようになっていった。

 メーメとサラのスイーツの大ファンになったのは王都の貴族や平民だけではない。
 噂を聞きつけた王女殿下がザイアを呼びつけてスイーツを献上させて以来、頻繁に声がかかるようになり、持ち運びが難しいオーダーはメーメとサラが王宮厨房で作ることもあった。

 ある日王女殿下がメーメの店に看板を送りつけてきたのだが、その包みを開くと

『王家御用達 ラ・メーメ』

と書かれていた。
しかも端に王女殿下の肖像画が描かれている念の入れよう。

「なんだこれは!店の名前が違うぞ!」

 メーメはムッとしたが、まさか王女殿下に文句を言うわけにもいかず、かと言ってこの看板を捨てるわけにもいかず、しかたなく店の名を変えてその看板を掲げることにしたのだが。

「王家御用達!王女様のお気に入り!」

 その威力は半端なかった。
店の前の行列はさらに長くなったが、作る量は常に忖度なしの一定量。
 人気は衰えるどころか鰻登りの一方で、数年後にメーメが引退するときには、店の資産価値は莫大に膨らみ、ザイアとサラが権利を買い取った金で、メーメは大変豊かな老後をローサの元で送ることができた。



 サラは菓子作りを続けながらこどもを一人もうけた。
 ザイアの色味を持ち、顔立ちはサラによく似たベルディヒと名付けられた美しい男の子は、いつもサラの仕事について行きたがり、一緒にスイーツを作ることを楽しみながら育っている。
 いずれはサラやザイアのように、ひとりでいくつもの仕事を掛け持ちしながら、家や領地を発展させる領主となるだろうと噂されており、まだ五歳だというのに婚約の申込みが殺到して、ザイアを困惑させていた。

「はあ、どうするね?これ」

 積み上げられた釣書を見て肩をすくめるザイア。

「婚約はあまり早くないほうがいいと思うわ。私のように、早すぎると見極められない問題があるかもしれないですもの」

 サラの言葉にザイアが頷く。

「それに義理や付き合いも禁物よ」
「そうだな。確かにそうだ。私はサラに出会えて運がよかったが、普通ああいうことがあるとなかなか良い縁にはめぐりあえないからな」
「せめてベルディヒが自分で選べるくらいに成長するまでは、一旦お断りして。そうね、16になったら解禁とでも言っておけば、そのうち下火になるかもしれなくてよ」

 目論見は外れて下火になるどころか、それまでになんとかベルディヒと縁付こうと、あれやこれやの贈り物や手紙が殺到するようになるのだが。



 サラは一度傷物令嬢と呼ばれるまで落ちぶれたが、捨て身の努力で技術を手にし、その真摯な姿に惹かれたザイアという良き理解者であり最高の伴侶と、可愛らしいベルディヒも得た。



「ベルディヒには自身で人生や伴侶を選んで、幸せになってほしいと思っているの。16歳くらいになればだいぶ物も見られるようになるし、どうかしら」
「いいと思うよ。では私は候補者の調査だけは怠らないようにしよう」
「そうね、私もあの子の人間関係に気をつけるようにするわ」

 ふたりは自分たちの経験を踏まえて、一人息子ベルディヒの人間関係には十分注意を払い、本人自身に選ばせたいとは思っていた。
 が、後にこれだと思う令嬢を見つけたふたりは、ベルディヒが小さな偶然だと思うほど自然な出会いを仕組んで彼に彼女を選ばせ、にんまりと笑ったのだった。

 ザニ・タイリユ子爵が早くにザイアに爵位を譲ったように、ザイアもベルディヒが結婚するとすぐ領主と商会長の引き継ぎを行い、さっさと引退したあとはなんとスイーツショップの店員に転身した。

「いくら何でも早すぎるのではなくて?」

 ザイアから爵位をベルディヒに譲ると聞いて、思いとどまるよう言うサラに、

「いいや、ベルディヒなら大丈夫だ。困ったことがあれば私がいつでも手を貸すのだしね。
それよりだ。
今だから言うが、私はメーメ殿に秘かに憧れていたのだよ」
「ええ?師匠に?うそ!」

 驚くサラに、ニッと笑ったザイアは小さく頷いた。

「あの職人気質がカッコいいと思っていたんだ。しかし、今からではさすがになれないから、サラや店のサポートをして自分も気分を味わいたいのさ」


 王都の裏通りで大繁盛するラ・メーメの店頭に、サラとザイアは今日もふたり仲よく立ち続けている。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


いつもご愛読ありがとうございます。
これにて完結です。
明日からは新作を開始します。
全15話、よろしくお願い致します。
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感想 5

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みんなの感想(5件)

貉彡
2021.09.03 貉彡

今まで見てきた婚約破棄もののなかで、一番おもしろいと自信をもって言えます
よくある展開かと思いきや、ウィットに富んだ話の運びには驚かされました
楽しそうに努力する主人公の姿はもちろん、誠実な人々の内情がよく描かれていて、本来の意味合いの「小説」ではあるものの人情を細かく描いた優秀な作品だと手放しで褒めたい
個人的には人間関係の描写の中でたくさんのキャラの個性がきちんと設定してあり、なおかつそれを表現しつくしていることがとても素晴らしいと思いました
そして、人間としての厚みを持った登場人物たちが真摯に現状と向き合うさまは、少々まじめすぎるきらいはあるもののすっきりした読了感があり作品の邪魔にはなっておらず好感が持てました
さらに皆様大好きなどうしようもない人物が因果応報を受ける、いわゆる「ざまあ」部分もきちんと現実味のある話の運びであり、そしてしっかりとした社会の中であるべきところに落ち着いたという感覚が、いわゆる作品の「リアリティ」を押し上げています
最後に、ハッピーエンドを素直におめでとう! と祝福できることがとても嬉しい作品です

2021.09.03 やまぐちこはる

感想をありがとうございます。
ありがたいお言葉に大変恐縮しております。
作者の社会人経験が多少でも、話しに説得力を持たせることに役立っているならうれしく思います。

解除
めめ
2021.09.02 めめ

「許さないってどういうことですか?〜」を連載されていた頃から作品を読ませて頂いています。
この作品もとても楽しく読ませて頂きました。
午前8時の更新が毎日の楽しみでした。

サラが幸せになってよかったです。
メーメとの師弟関係がすごく好きでした。
イーデス家はフェルナンド以外は幸せになって欲しいです。気の毒過ぎて...

明日からはサラのお話が読めないと思うと寂しいので、最初から読み直してみようと思います。
素敵な作品をありがとうございました。
今後の作品も楽しみにしております!

2021.09.03 やまぐちこはる

感想をありがとうございます。
作者も師匠の元で修業に勤しむ職歴有りなので、リアルな師弟関係が描けていたらうれしいです。新連載は違う路線となりますが、その次が頑張り屋ヒロインになる予定です。またぜひお立ち寄りください。

解除
azuki
2021.09.02 azuki

安易?に王族とかに見初められる話じゃなくて、ヒロインが自活できる道を頑張るところがよかったです

2021.09.03 やまぐちこはる

感想ありがとうございます。
仕事を持ち自立する女性、新連載始まったばかりですが、その次がそんなお話の予定です。またぜひお立ち寄りくださいませ。

解除

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