【完結】おまえを愛することはない、そう言う夫ですが私もあなたを、全くホントにこれっぽっちも愛せません。

やまぐちこはる

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第7話

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 違和感を感じながらも、きっと兄夫婦は初めての夫婦喧嘩に違いないと、見守ることに決めたトルソーが留学先に戻っていった後も、当然状況が改善することはなかった。

 二月ふたつきもすると、執務を覚えたエリーシャはそれなりに仕事が捗るようになったが、夜な夜な外出しているアレンソアは割り振られた執務を溜めこむようになり、偶に執務室に現れてはエリーシャにそれを押しつけて、また姿を消すようになった。
 同じ敷地内の本邸と離れに分かれて暮らす伯爵と次期伯爵夫妻ではあるが、使用人の行き来もあり、次第に二人の不仲とアレンソアの怠惰で狡い態度が噂になり始める。


「ルイード、アレンソアとエリーシャの良くない噂を耳にしたが、一体どういうことだ?」
「はい・・・。あの」
「あのではない。知っていることをすべて話せ」

執事のルイードは言いにくそうに口ごもるが、ベレルの圧はそれを許さなかった。

「あの、アレンソア様はエリーシャ様を未だ奥方として扱われておりません」
「それは・・・そういうことか?」

 ルイードと呼ばれた家令は、視線を下げ気味に頷く。

「おまえ、いつからそれを知っていた?何故黙っていたのだ」
「最初は私も存じ上げませんでした。離れに行くこともあまりございませんし」

 言い淀んだあと、意を決して口を開く。

「私もオートスから執務室でお二人揃うことも、食事もまったく共にすることがないと聞いたばかりなのでございます」
「聞いたばかりとは何時のことだ?」
「は、はい。あの・・・よ、4日前で」

 普段は穏やかなベレルの目尻が、ギリギリと上がっていく。

「ルイードっ!おまえは誰の家令かっ?」
「も、も、申し訳ございません、ベレル様の使用人でございます」
「何故4日も黙っていた?理由は?」
「は、はい。あの、あのう」
「ルイード。おまえは降格だ」

 はっきりと言えなかったのは、アレンソアに口止めされていたからだ。
 鍵を締めて歩いているとき、屋敷を抜け出すアレンソアを見かけ、金を渡された。
 本当は別邸の使用人オートスに相談されるよりもずっと前から知っていたのだ。

「そ、そんな、ベレル様!ただ一度だけのことです、いままでずっと真面目にお仕えしてまいりました!」
「ん、そうだな。しかし過去がいくら真面目でも、今のおまえは私を裏切った者に過ぎん」

 ベレルは厳しかった。
 次期伯爵として課題を与え、夫婦で乗り越えてもらいたいと考えていたのに。
 エリーシャは言えなかっただろう。
「夫に一度だって愛されていない」と何故報告しないのか?とは、ベレルにも言えない。
 だからこそ、まわりの人間が報告すべきなのだ。
隠すのではなく。

「しかし何故そこまで互いに嫌いあっているのだ?一体いつから?知っていることがあるなら話せ」
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