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第15話
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エリーシャは居心地悪く執務室にいた。
何故かというと、朝から珍しくアレンソアが執務室で仕事をしているのだ。
「どういう風の吹き回しかしら?赤い雨が降りそうだわ」
というエリーシャの声は勿論聞こえていない。
サラサラとペンが書類の上を走る音。
半分くらい片付けた頃、飽きたように伸びをしたアレンソアは部屋を出ていった。
「やればできるんじゃない」
そう言いながら、エリーシャはアレンソアが処理した書類を手に取り、がく然とする。
普通なら却下すべき陳情にサインをしてあるのだ。
「見てないの・・ね・・・」
これをこのままで通すのは良くないと、アレンソアがサインした書類を漁り、問題のあるものをまとめて本邸に向かう。
その途中、アレンソアが屋敷の敷地から歩いて出ていくのを見かけた。
「え?どこに行くのかしら」
貴族が屋敷を歩いて出るといえば、ほんの近くに行くときくらいだ。
ただツィージャー伯爵家は小高い丘の上にポツっと建っており、一番近くの民家は宿だが、そこまで歩くにもまあまあな距離がある。
門番がいない使用人用の裏口から出ていったことも気になった。
木戸を開け、アレンソアの行き先を見守るとその一番近い宿に入る。
そして、宿の横手から馬に乗ってアレンソアが出てきたのだ!
「え?なんで?何故宿から?馬なら自分の馬に乗ればいいのに」
そう言葉が自然と漏れる。
考えられるのは、人に知られたくない外出だということ、そして、馬に乗らねば行かれないくらいの距離のところをめざしているということ。
ただ容姿や性格があわずに嫌われていると思っていたエリーシャは今、慎重に隠されてきたアレンソアの秘密の糸口を掴んだのだ。
「どうやって調べればいいかしら」
信用できる人々だとは思うが、さすがに疑いがあると言ったら伯爵家の家族は庇うかもしれない。
となると、頼りになるのは自分の家族か。
エリーシャは久しぶりにイグラルド子爵家を訪問したいと、ベレルとレイカに伺いを立てた。
伯爵夫人レイカはまったく執務に関わらない。それはベレルと側近がこなし、レイカは社交や奉仕活動に力を入れているからだ。
しかし、ベレルはそう分担したことを後悔していた。結婚直後に先代夫妻が亡くなって、バタバタと爵位を継いだため、レイカは伯爵夫人としての執務や家内の切り盛りを学ぶ時間が取れず。教える時間、覚えてくれるまで待つ時間が惜しいと、ベレルがすべてをやってしまっていた。
するとレイカは、それはベレルの仕事なのだと思い込み、今度はいくら促してもやろうとしなかったのだ。
最初が肝心!
ベレルは身に沁みた経験から、若夫婦にはどちらも満遍なく執務がこなせるよう教えこむことにした。
レイカは奉仕活動にエリーシャを連れていきたがったが、執務をある程度覚えるまでは待つようにベレルが止めてもいた。
「そう、いいと思うわ。エリーシャちゃんもご実家に暫く帰っていないのだし。でも実家に帰る時間が取れるほど執務も覚えたということよね?じゃあイグラルド家から戻ってきたら、今度こそ一緒に教会に行きましょうね!」
無垢な人、エリーシャはのちにレイカをそう評した。
何故かというと、朝から珍しくアレンソアが執務室で仕事をしているのだ。
「どういう風の吹き回しかしら?赤い雨が降りそうだわ」
というエリーシャの声は勿論聞こえていない。
サラサラとペンが書類の上を走る音。
半分くらい片付けた頃、飽きたように伸びをしたアレンソアは部屋を出ていった。
「やればできるんじゃない」
そう言いながら、エリーシャはアレンソアが処理した書類を手に取り、がく然とする。
普通なら却下すべき陳情にサインをしてあるのだ。
「見てないの・・ね・・・」
これをこのままで通すのは良くないと、アレンソアがサインした書類を漁り、問題のあるものをまとめて本邸に向かう。
その途中、アレンソアが屋敷の敷地から歩いて出ていくのを見かけた。
「え?どこに行くのかしら」
貴族が屋敷を歩いて出るといえば、ほんの近くに行くときくらいだ。
ただツィージャー伯爵家は小高い丘の上にポツっと建っており、一番近くの民家は宿だが、そこまで歩くにもまあまあな距離がある。
門番がいない使用人用の裏口から出ていったことも気になった。
木戸を開け、アレンソアの行き先を見守るとその一番近い宿に入る。
そして、宿の横手から馬に乗ってアレンソアが出てきたのだ!
「え?なんで?何故宿から?馬なら自分の馬に乗ればいいのに」
そう言葉が自然と漏れる。
考えられるのは、人に知られたくない外出だということ、そして、馬に乗らねば行かれないくらいの距離のところをめざしているということ。
ただ容姿や性格があわずに嫌われていると思っていたエリーシャは今、慎重に隠されてきたアレンソアの秘密の糸口を掴んだのだ。
「どうやって調べればいいかしら」
信用できる人々だとは思うが、さすがに疑いがあると言ったら伯爵家の家族は庇うかもしれない。
となると、頼りになるのは自分の家族か。
エリーシャは久しぶりにイグラルド子爵家を訪問したいと、ベレルとレイカに伺いを立てた。
伯爵夫人レイカはまったく執務に関わらない。それはベレルと側近がこなし、レイカは社交や奉仕活動に力を入れているからだ。
しかし、ベレルはそう分担したことを後悔していた。結婚直後に先代夫妻が亡くなって、バタバタと爵位を継いだため、レイカは伯爵夫人としての執務や家内の切り盛りを学ぶ時間が取れず。教える時間、覚えてくれるまで待つ時間が惜しいと、ベレルがすべてをやってしまっていた。
するとレイカは、それはベレルの仕事なのだと思い込み、今度はいくら促してもやろうとしなかったのだ。
最初が肝心!
ベレルは身に沁みた経験から、若夫婦にはどちらも満遍なく執務がこなせるよう教えこむことにした。
レイカは奉仕活動にエリーシャを連れていきたがったが、執務をある程度覚えるまでは待つようにベレルが止めてもいた。
「そう、いいと思うわ。エリーシャちゃんもご実家に暫く帰っていないのだし。でも実家に帰る時間が取れるほど執務も覚えたということよね?じゃあイグラルド家から戻ってきたら、今度こそ一緒に教会に行きましょうね!」
無垢な人、エリーシャはのちにレイカをそう評した。
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