【完結】御令嬢、あなたが私の本命です!

やまぐちこはる

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第41話 拗ねる王子

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 孤児院には相変わらず通い続けている。

「エル、さすがにそろそろメリンダ嬢に話したほうが」
「そうだな。メリンダ嬢もソージェの研修を受けたいと言うかも知れんし」

 採用された教師たちのソージェの研修は、あと少しで終わると聞いている。いつ読み書き教室を開いてもいいくらいに準備が整っているのだ。神父に口止めはしていたが、言うべき時は近づいていた。

「では今日・・・教えることにする」


 どきどきし始めた鼓動に、エルロールは深呼吸をしてなんとか落ち着かせようとしている。
 孤児院に入るとメリンダはいつものように既に来ていて、こどもたちに絵本を読んでいた。

「あら!」
「エルさまだ」

 こどもたちがエルロールに抱きついてくるのもいつもの通り。
ひとしきりこどもたちと遊び、おやつを食べさせると、エルロールはメリンダを呼び出した。

「見せたいものがあるんです」

 孤児院を出て、メリンダの前を歩く。
 隣りの建物の前を素通りし、建てられたばかりの建物の扉にエルロールが手を掛けた。

「え?エル様!」
「ここは、私とテューで計画して建てたんだ」

 扉を開けてメリンダを中に入れると、大きな黒板と机と椅子がずらりと並んでいて、そこには何かを学ぶ大人たちがいる。

「彼らは、この読み書き教室の教師で」
「よっ、読み書き教室?」

 一瞬大きな声が出かかったメリンダは、すぐに囁き声に変えてエルロールに訊ねた。

「おや、エル様」
「エル様」

 黒板を書き写していた大人たちが一斉に振り向いて、挨拶をしてくる。

「私のことはいいから、先を続けて」

 それだけ言うとメリンダを連れ、次の教室に向かう。

「わあ、小さな机と椅子ですわ」
「そうなんだ。ここはこどもたちの読み書き教室、さっきの教室は大人たちの読み書き教室にするつもりなんです。どうかな」
「すっ、素晴らしいですわ!でもどうして?お金もかかりますでしょ?国に申請されるとおっしゃっていましたが?」
「それはまだ全然。でも待っているうちに、こどもたちは育ってしまうから、とりあえずテューダーと私財を出して。あとはチャリティーパーティーなんかもやって資金集めを続けるつもりです」
「まあ!」

 メリンダは言葉が出なかった。
 平民の孤児のこどもたちの教育をしたからといって、貴族に恩恵などない。それなのに私財でこれほどのことをやってしまう、なんて素晴らしい人なのだと。
 感激してエルロールを見つめていると、視線に気づいたエルロールは頬を真っ赤に染め上げた。

「「あの」」

 ふたりが同時に口を開き、何か話そうとして黙ってしまう。

「「あ」」

 コンコン

 相手が何を言おうとしたが、聞くことも叶わずにいるうちソージェが現れて、エルロールの口がへの字に動いたが。

「あの、よろしいですか?」
「どうぞソージェ先生」

 にこにこと近づいてきたソージェは、メリンダに挨拶をした。

「ソージェ・ゴルマス侯爵です」
「ランス・イブール男爵の長女メリンダと申します」
「なんと!ランスの」
「父をご存知ですの?」
「ええ。ランスだけではありません、オルサガ侯爵家の三兄弟とは幼少期、よくともに遊びました」

 ソージェはそつのない会話を交わすが、エルロールは胡散臭いものを見るような目で見ている。

「ランスたちとはしばらく会えていないのですが、元気にしておられるか?」
「はい、父も叔父たちも皆元気にしております」

 エルロールよりずっと早く、というかあっという間にソージェはメリンダとの距離を詰めた。

「孤児院の奉仕活動でこどもたちに読み書きを教えていた令嬢は、メリンダ嬢?」
「は、はい。手慰みでお恥ずかしいです」
「いや、人が足りないのでね、良かったら少し研修を受けて手伝ってください。こどもたちも喜ぶでしょう」

 エルロールはまったく話に噛むことなく、ソージェはメリンダとの話を進めていく。
手柄を取られたようなエルロールは大人気なく頬を膨らませていた。
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