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「パルティア様!ダルディーン・ムイゾリオ様が応接にてお待ちでございます」
「そう!すぐに行くわ」
ニーナを連れて部屋を出ると、ベニーと護衛のトライドがいる。
「行きましょ!ベニー、彼はどんな方?」
「これと言って特徴もない、普通の貴族の青年でございますな」
「何その言い方!もっと言い様があるでしょう?」
パルティアがベニーにつっこんだが、それ以上聞く間もなくベニーが応接の扉を開けた。
息を整える時間もなく、パルティアは開いた扉の向こうにいたダルディーン・ムイゾリオといきなり顔を合わせることになったのだが。
「あ、どうも。ダルディーン・ムイゾリオでございます」
ベニーが言うとおり、ブラウンの緩いくせのある髪にブラウンの瞳で、ごくごく平凡な容姿をしている。声も高すぎず低すぎず印象に残るものがない。
そんなことをぼんやりと思い浮かべながら、顔には出さずににっこりと
「ようこそいらしてくださいました。パルティア・エンダラインと申します」
執事が淹れた茶を勧め、少しは世間話でもするのかと思っていたダルディーンだったが、パルティアは時間を惜しむようにサッと大きな紙を広げた。
「これは?」
「建てたい建物の私の意匠のイメージですわ」
「へえ」
そう言うと。
ドアランのように馬鹿にしたりはせず、指先でパルティアの拙い線を辿っていく。
「この建物の用途は?」
「都会に疲れ、静養が必要な貴族のための施設と考えております」
「貴族向け?それにしては装飾が少ないのではありませんか?」
パルティアとダルディーンは、お互いに話し合うことができる相手と認識した。
「訳あって私自身がしばらく静養しなければなりませんでした。そのときの経験で、社交界から遠くにその身を置きたいとき、華美に飾られた処より何にもないコテージの方がまだ休まるものを感じましたわ。でも平民向けのコテージでは貴族の身には足りないこともあるとわかりましたから、貴族故の苦しさを穏やかに癒やし、でも過不足なく静養できる施設を作ろうと思いましたの」
「なるほど。観光のような華やかさや楽しさは不要と」
「そうですわね、医者に静養を勧められるような者にとっては、むしろそのような場は苦しいものですから」
パルティアは、ベニーに冷めてきた茶を淹れ替えるよう言い付けて、先を続ける。
「でも人は我儘なもの。心が少し上向きになると、何もないことが寂しくも感じてしまうのです。
まわりを見る余裕ができたときに、良く見たら上質な装飾が施されていたという風に造りたいのですけれど、こんなお話でおわかり頂けますかしら?」
パルティアが見上げたダルディーンの目は爛々としていた。
「す・・ばらしい!素晴らしいお考えです!」
装飾が少なければ、報酬も少なくなりがちだが、わかりやすくゴテゴテした物ではないだけで、心休まる品の良い装飾を求めている。
話を聞く限り、ダルディーンが常々建ててみたいと思っている意匠に近いようだ。
パルティアが描いた紙を引き寄せると、ダルディーンは思いつくままをすごい勢いで描き込み始め、パルティアとニーナたちはそれをきょとんと見守っていた。
「そう!すぐに行くわ」
ニーナを連れて部屋を出ると、ベニーと護衛のトライドがいる。
「行きましょ!ベニー、彼はどんな方?」
「これと言って特徴もない、普通の貴族の青年でございますな」
「何その言い方!もっと言い様があるでしょう?」
パルティアがベニーにつっこんだが、それ以上聞く間もなくベニーが応接の扉を開けた。
息を整える時間もなく、パルティアは開いた扉の向こうにいたダルディーン・ムイゾリオといきなり顔を合わせることになったのだが。
「あ、どうも。ダルディーン・ムイゾリオでございます」
ベニーが言うとおり、ブラウンの緩いくせのある髪にブラウンの瞳で、ごくごく平凡な容姿をしている。声も高すぎず低すぎず印象に残るものがない。
そんなことをぼんやりと思い浮かべながら、顔には出さずににっこりと
「ようこそいらしてくださいました。パルティア・エンダラインと申します」
執事が淹れた茶を勧め、少しは世間話でもするのかと思っていたダルディーンだったが、パルティアは時間を惜しむようにサッと大きな紙を広げた。
「これは?」
「建てたい建物の私の意匠のイメージですわ」
「へえ」
そう言うと。
ドアランのように馬鹿にしたりはせず、指先でパルティアの拙い線を辿っていく。
「この建物の用途は?」
「都会に疲れ、静養が必要な貴族のための施設と考えております」
「貴族向け?それにしては装飾が少ないのではありませんか?」
パルティアとダルディーンは、お互いに話し合うことができる相手と認識した。
「訳あって私自身がしばらく静養しなければなりませんでした。そのときの経験で、社交界から遠くにその身を置きたいとき、華美に飾られた処より何にもないコテージの方がまだ休まるものを感じましたわ。でも平民向けのコテージでは貴族の身には足りないこともあるとわかりましたから、貴族故の苦しさを穏やかに癒やし、でも過不足なく静養できる施設を作ろうと思いましたの」
「なるほど。観光のような華やかさや楽しさは不要と」
「そうですわね、医者に静養を勧められるような者にとっては、むしろそのような場は苦しいものですから」
パルティアは、ベニーに冷めてきた茶を淹れ替えるよう言い付けて、先を続ける。
「でも人は我儘なもの。心が少し上向きになると、何もないことが寂しくも感じてしまうのです。
まわりを見る余裕ができたときに、良く見たら上質な装飾が施されていたという風に造りたいのですけれど、こんなお話でおわかり頂けますかしら?」
パルティアが見上げたダルディーンの目は爛々としていた。
「す・・ばらしい!素晴らしいお考えです!」
装飾が少なければ、報酬も少なくなりがちだが、わかりやすくゴテゴテした物ではないだけで、心休まる品の良い装飾を求めている。
話を聞く限り、ダルディーンが常々建ててみたいと思っている意匠に近いようだ。
パルティアが描いた紙を引き寄せると、ダルディーンは思いつくままをすごい勢いで描き込み始め、パルティアとニーナたちはそれをきょとんと見守っていた。
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