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「うん、これを見てください!」
顔を上げたダルディーンは興奮を隠さない。
彼が発する熱に少し引きながらも、ダルディーンの描き込みを覗くと、扉や壁、柱への装飾の意匠案が描き込まれていて、それが優しいボタニカルの模様で、パルティアはとても素敵だと感じた。
「素敵!いいと思うわ」
その声に、ダルディーンは初めての笑みを浮かべた。そして。
「ご令嬢、貴女は運が良い!」
「運が良い?」
「ええ、私はご令嬢がおっしゃるような意匠の素晴らしさを理解しているが、世の設計士は相変わらずの派手な装飾が素晴らしいとしか考えられないのですよ!きっとこの仕事に私以上の適任者はいないでしょう!」
ダルディーンにしては珍しく饒舌に、自分を売り込んだ。
─やってみたい!こういう仕事がやってみたいんだ!─
しばらく考え込んでいたパルティアが、にっこりと笑って手を差し出した。
「そう、私もそう思いますわ、私は運が良いのです。ムイゾリオ様にお願いしたいわ、お受けくださいますわね?」
「もちろんです!よろしくお願い致します」
快諾したダルディーンに、パルティアがエルシドに向かう際は共に行くよう依頼し、ダルディーンはそれまでに設計図案をまとめることと、知り合いの現場監督に当たってくれることを約束した。
パルティアは伝えたかったことはすべて伝えられた、そしてダルディーンが正確に彼女の希望を理解していると考え、任せることに決めた。
メラロニアスに彼の名を聞いてから念のために調査はしてみたが、建築士の世界ではほぼ無名で今まで本人の実績になるような仕事はただ二つのみで、それ以外はすべて、師匠の名前になっていることも調べてある。
師匠に功績を掠め取られるだけの才能があるが、その性格から不遇を囲うことになったようだ。
そんな彼のことを気の毒そうに話してくれた現場監督がいたと調査にあった。
もしかしたらその監督を連れてくるかも知れないと、機嫌良さそうに馬に飛び乗ったダルディーンを窓から見送った。
「さあ、アレクシオス様にお知らせして、ムイゾリオ様の準備が整い次第またエルシドに向かうわよニーナ!」
「今度はどちらに宿泊されますか?」
ニーナが訊くと、なぜかパルティアは真っ赤になって慌てた素振りで
「いやだ、ニーナってば!こ、コテージよコテージ!この前泊まったところに。ムイゾリオ様に連絡していつから宿を取るか相談しておいてとベニーに言って」
「ムイゾリオ様と同じコテージに泊まられますか?」
「い、いやだ、違うってば!コテージは二軒分の予約を取ってちょうだい!」
「はぁい、畏まりました。てっきりセリアズ公爵様の別邸にお泊まりになるのかと思ったのですけど」
「ちちち、ちが、違うってば!そんなことあるわけないでしょう、ニーナってば!」
悪いこととは思ったが、真っ赤なパルティアをからかって可愛らしい反応を堪能したニーナは、頭を下げて静かに退出していった。
顔を上げたダルディーンは興奮を隠さない。
彼が発する熱に少し引きながらも、ダルディーンの描き込みを覗くと、扉や壁、柱への装飾の意匠案が描き込まれていて、それが優しいボタニカルの模様で、パルティアはとても素敵だと感じた。
「素敵!いいと思うわ」
その声に、ダルディーンは初めての笑みを浮かべた。そして。
「ご令嬢、貴女は運が良い!」
「運が良い?」
「ええ、私はご令嬢がおっしゃるような意匠の素晴らしさを理解しているが、世の設計士は相変わらずの派手な装飾が素晴らしいとしか考えられないのですよ!きっとこの仕事に私以上の適任者はいないでしょう!」
ダルディーンにしては珍しく饒舌に、自分を売り込んだ。
─やってみたい!こういう仕事がやってみたいんだ!─
しばらく考え込んでいたパルティアが、にっこりと笑って手を差し出した。
「そう、私もそう思いますわ、私は運が良いのです。ムイゾリオ様にお願いしたいわ、お受けくださいますわね?」
「もちろんです!よろしくお願い致します」
快諾したダルディーンに、パルティアがエルシドに向かう際は共に行くよう依頼し、ダルディーンはそれまでに設計図案をまとめることと、知り合いの現場監督に当たってくれることを約束した。
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「さあ、アレクシオス様にお知らせして、ムイゾリオ様の準備が整い次第またエルシドに向かうわよニーナ!」
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「いやだ、ニーナってば!こ、コテージよコテージ!この前泊まったところに。ムイゾリオ様に連絡していつから宿を取るか相談しておいてとベニーに言って」
「ムイゾリオ様と同じコテージに泊まられますか?」
「い、いやだ、違うってば!コテージは二軒分の予約を取ってちょうだい!」
「はぁい、畏まりました。てっきりセリアズ公爵様の別邸にお泊まりになるのかと思ったのですけど」
「ちちち、ちが、違うってば!そんなことあるわけないでしょう、ニーナってば!」
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