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「独身のメラルーには目の毒だったかしら?」
相変わらずパルティアは空気を読むことはしない。
「痛っ」
胸を押えて大袈裟に苦しむ振りをするメラロニアスに。
「どこも痛くなんてないでしょう?」
「いや心が痛いよ、酷いなパーチィは」
いい大人が口を尖らせて抗議する様を見て、我慢出来なくなったアレクシオスが盛大に笑い出した。
セリアズとは全然違う。エンダラインの者は家族も使用人も親戚に至るまで、少し単純かもしれないが明るく前向きな者が多い。
「家風の違いというやつかな」
「エンダラインはセリアズ家に比べて緩いのではないか?」
お見通しという顔で、メラロニアスがにやりとした。
「良い意味で。セリアズより柔軟だ」
「性に合うかね?」
「ああ、すごくいいと思うな」
「それはいい!だいぶ遅くなったが、ようこそアレクシオス様・・・なあ、愛称ないのか?」
「そういえばお義父さまからも聞いたことがないわ」
アレクシオスがつっと視線を反らした。
「あるのね?おっしゃって!」
「・・・ショー」
「ショー?」
「母上が、呼びづらいからとシオスを縮めてショーと呼んでいた」
ランバルディが妻を亡くしたとき、思い出してしまうからと封印した呼名だ。
アレクシオスにとっても、甘く懐かしく切ない記憶だった。
「ではショー!」
「ちょっとメラルーってば、私より先に呼ばないで!それは妻の特権ですわ」
「いや、ともだちの特権だよ、なあショー」
「いつともだちになったのかしら」
「さっきさ」
キーッと声を立てそうなほど歯を剥いて、パルティアがメラルーにクッションを投げると、メラロニアスも笑いながら投げ返す。
「おいおい、君たちは一体いくつになったんだ?やめたまえ」
「何をひとりだけ大人ぶってるんだ!ショーもやりたまえ!」
わざとクッションをぶつけてくる。
こどもの頃だってこんな遊びをしたことはなかったアレクシオスは、童心とはこういうものなのかと、初めて知る楽しさに声を上げて笑った。
「はは、はははは」
その笑い声にパルティアのほうが驚いてしまう。いつも令嬢のように楚々と笑うことが多いのに。
そして。
「貴方もそんな風に笑うことがあるのね」
にっこりとうれしそうに、パルティアは思いっきりクッションを投げつけてやった。
ひとしきり三人でクッションの投げ合いを楽しんだあと。
「なんてことだ!クッションにこんな遊び方があったなんて、こどもの頃は知らなかった」
はあはあと息を切らしながらも、アレクシオスがとても楽しそうで。
「メラルー、君のお陰だ」
「ああ、ショー!楽しんでもらえてうれしいよ」
「何言っているんだか、ふたりとも」
「パーチィだって楽しそうだったぞ!」
すっかり打ち解けていた。
「なあ、物は相談なんたが」
「なあに?」
「さっきの、リサーチのブレーンに私も加えてみてくれないか?」
「え?」
「私は海外の留学が長い。他国からの客とも話ができるし、港町のような所なら役に立てるのではないかと思うんだ」
素直なアレクシオスは、すぐになるほどと考え込んだが、パルティアは違う。
「メラルー、暇なのね?」
「やっぱりバレたか」
「え?暇だから?」
「まあ暇は本当だ。だがさっきの話を聞いて羨ましくなったんだ。私もそうやって夢中になれる仕事を見つけたい。面白そうだし、やらせてくれないか」
パルティアはアレクシオスとひそひそと内緒の話を交わし、目配せを一度。
「では、半年は俸給は見習いと同程度と致しますけれどよろしくて?」
「なんと!金を頂けるのか?」
「見習いが終われば、本来の俸給を払うわ。ダメならそこでさようなら」
にっこにこで手を振って見せる。
「パーチィ、しばらく会わぬ間にいろいろ磨きがかかったな」
また三人で笑い声をあげた。
相変わらずパルティアは空気を読むことはしない。
「痛っ」
胸を押えて大袈裟に苦しむ振りをするメラロニアスに。
「どこも痛くなんてないでしょう?」
「いや心が痛いよ、酷いなパーチィは」
いい大人が口を尖らせて抗議する様を見て、我慢出来なくなったアレクシオスが盛大に笑い出した。
セリアズとは全然違う。エンダラインの者は家族も使用人も親戚に至るまで、少し単純かもしれないが明るく前向きな者が多い。
「家風の違いというやつかな」
「エンダラインはセリアズ家に比べて緩いのではないか?」
お見通しという顔で、メラロニアスがにやりとした。
「良い意味で。セリアズより柔軟だ」
「性に合うかね?」
「ああ、すごくいいと思うな」
「それはいい!だいぶ遅くなったが、ようこそアレクシオス様・・・なあ、愛称ないのか?」
「そういえばお義父さまからも聞いたことがないわ」
アレクシオスがつっと視線を反らした。
「あるのね?おっしゃって!」
「・・・ショー」
「ショー?」
「母上が、呼びづらいからとシオスを縮めてショーと呼んでいた」
ランバルディが妻を亡くしたとき、思い出してしまうからと封印した呼名だ。
アレクシオスにとっても、甘く懐かしく切ない記憶だった。
「ではショー!」
「ちょっとメラルーってば、私より先に呼ばないで!それは妻の特権ですわ」
「いや、ともだちの特権だよ、なあショー」
「いつともだちになったのかしら」
「さっきさ」
キーッと声を立てそうなほど歯を剥いて、パルティアがメラルーにクッションを投げると、メラロニアスも笑いながら投げ返す。
「おいおい、君たちは一体いくつになったんだ?やめたまえ」
「何をひとりだけ大人ぶってるんだ!ショーもやりたまえ!」
わざとクッションをぶつけてくる。
こどもの頃だってこんな遊びをしたことはなかったアレクシオスは、童心とはこういうものなのかと、初めて知る楽しさに声を上げて笑った。
「はは、はははは」
その笑い声にパルティアのほうが驚いてしまう。いつも令嬢のように楚々と笑うことが多いのに。
そして。
「貴方もそんな風に笑うことがあるのね」
にっこりとうれしそうに、パルティアは思いっきりクッションを投げつけてやった。
ひとしきり三人でクッションの投げ合いを楽しんだあと。
「なんてことだ!クッションにこんな遊び方があったなんて、こどもの頃は知らなかった」
はあはあと息を切らしながらも、アレクシオスがとても楽しそうで。
「メラルー、君のお陰だ」
「ああ、ショー!楽しんでもらえてうれしいよ」
「何言っているんだか、ふたりとも」
「パーチィだって楽しそうだったぞ!」
すっかり打ち解けていた。
「なあ、物は相談なんたが」
「なあに?」
「さっきの、リサーチのブレーンに私も加えてみてくれないか?」
「え?」
「私は海外の留学が長い。他国からの客とも話ができるし、港町のような所なら役に立てるのではないかと思うんだ」
素直なアレクシオスは、すぐになるほどと考え込んだが、パルティアは違う。
「メラルー、暇なのね?」
「やっぱりバレたか」
「え?暇だから?」
「まあ暇は本当だ。だがさっきの話を聞いて羨ましくなったんだ。私もそうやって夢中になれる仕事を見つけたい。面白そうだし、やらせてくれないか」
パルティアはアレクシオスとひそひそと内緒の話を交わし、目配せを一度。
「では、半年は俸給は見習いと同程度と致しますけれどよろしくて?」
「なんと!金を頂けるのか?」
「見習いが終われば、本来の俸給を払うわ。ダメならそこでさようなら」
にっこにこで手を振って見せる。
「パーチィ、しばらく会わぬ間にいろいろ磨きがかかったな」
また三人で笑い声をあげた。
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