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第17話

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 そう言うとドレドは深々と頭を下げ、姿勢を正すとアニタに向き合った。

「アニタ、おまえがビュワードにしてきた行いにより我が家とビュワードの名誉が著しく傷つけられた。よっておまえとは離縁する。慰謝料を請求と言いたいところだが、お前に財産がないのはわかっているから財産分与すべき金を慰謝料としてビュワードに貰い受ける。なお我が家から出るとき、我が家の金で購入した物の持ち出しは許さぬ。嫁いで来た時と同じ物を持ち帰るが良い。残される物は売却し、アニタがビュワードから奪ってきたものの補填の一部に充てる」

 ドレドの離縁宣言はアクシミリオを満足させるものだった。アニタは呆然としたあと、叫びだしたのだが。

「何言ってるの?コレがいること自体がスミール伯爵家の名誉に傷を付けているんじゃない!私が何かしたわけではないわ」




 ビュワードをコレ呼ばわりしたアニタは、血の繋がらない次男が嫌いだった。
トリードは夫ドレドに良く似た容姿で、嫁いですぐに懐いたこともあり、可愛いと思えたのだが、肖像画を見る限りビュワードは亡くなった美しい先妻に似ていて、しかもイヤイヤ期真っ最中。
 人見知りが激しく、懐くどころかアニタを見ると泣いて乳母の背に隠れたりする。憎たらしくて、乳母を辞めさせてひとりぼっちにしてやったが、それでもアニタには寄りつかなかった。
 ドレドが不在がちだったこともあり、諌める使用人たちは辞めさせ、アニタはビュワードの顔を見たら叩いたり抓ったりと、どんどんエスカレートしていく。
 ある日、ドレドがビュワードの誕生日に戻ってくるとの報せに、傷だらけのビュワードを見られては不味いと慌てた。そこで「酷い悪さをして使用人たちを辞めさせたので仕置きをしている、祝いなどとんでもない」と返事を出した。
 誕生日の祝いがないことも仕置きの一つだと、甘やかしてはいけないと。

 嘘の始まりだった。

 商談で遠方にいたドレドは、深く考えずアニタの言うとおりにした。いつもそばにいる母親が言うほどなのだ。よほど酷いのだろうとしか思わずに。

 味をしめたアニタは、その後もドレドが帰るたびにビュワードに濡衣を被せて、仕置き中だと部屋に閉じ込め会わせないようにした。
 与えられていた日当たりの良い部屋を取り上げ、窓のない物置だった部屋に押し込めると、新たに雇った使用人たちと口裏を合わせて酷い行いをするビュワードを作り上げ、それはアニタに猫可愛がりされたトリードにも及んだ。
 トリードは弟を可愛がることも愛することも無くなる。

 トリードに遅れること二年、ビュワードの入学が近づくと、アニタはトリードに学院でビュワードの悪い噂を広めさせた。
 それを聞いた同級生たちは面白いほどにトリードに同情する。
トリードはそれに味をしめた。

 ビュワードは入学してからも、何処に行っても後ろ指をさされて一人ぼっち。最初は幼き頃を暫くともに過ごした乳兄弟、バーナード・ルーブがいたが、自分を庇って以来、いろいろ嫌がらせをされるようになり、そのうち濡衣ではないかという罪で退学させられてしまう。
 それ以来ビュワードは人を巻き込むことを怖れ、完全に孤立するようになった。


 学院でも悪い弟を心配する優しい兄を装うトリードは人気者で、トリードはビュワードが悪く言われるほど自分がよく言われると気づくと、こちらもどんどんエスカレートしていった。
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