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第50話

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 モイル兄弟を引き連れたビュワードがベルグに連れられて廊下を行くと、数ヶ月前まで世話をしていた侍従やメイドたちが微笑みかける。

「戻ってきたからまたよろしく頼みます」

 口数は少ないが丁寧に、一人一人に声をかけるビュワードに、皆がうれしそうに返事をして。

「皆、ビュワード様のご帰館を楽しみにお待ちしておりました」
「ありがとう。私も帰って来たかったからうれしい」

 部屋の前にいる使用人が気づき、にこにこしながらビュワードが歩いてくるのを待ち受けている。

「おかえりなさいませ」
「ボレンさん!」
「さんはいりませんから、ボレンと呼んでくださいとねえ」
「う、うん。ボレン」
「よくできました!おや?貴方たちがモイル令息ですかな?」

 二十代後半の、執事服を着た栗毛の男がルーサーとコーズに声をかけた。

「ボレン様、ご紹介します」

 ベルグが会釈して切り出すが

「いや、いい。自分でしよう。私は」

コホンと咳払いをして、佇まいを整えると先を続ける。

「私はビュワード様の専属執事ボレン・イルミドです」



「・・・え?」


 キョトンとしたままぼんやりしたビュワードが理解したようにボレンを見ると、当のボレンがにっこり笑う。

「ご主人様、どうぞよろしくお願い致します」
「本当に?私の」
「そうなんです、専属執事となりましたよビュワード様!」

 うれしそうに、でもはずかしそうに赤い顔でこくこくと頷く美しい主を、暖かな目で見守るボレンはビュワードが静養していた時から侯爵家に数人いる若手執事のひとり。傷ついたビュワードを誰よりも細やかにケアし、強い信頼関係を築いたボレンはビュワードの帰館を知り、自ら手を挙げて、専属執事に抜擢されたのだ。

「よかった!」

 仲の良さが見て取れる二人の会話に、モイル兄弟も自分もビュワードとこういう関係を築きたいと思っていた。
もちろんベルグも。


 ビュワードには、ボレンとベルグ、ルーサーとコーズが付く。
ボレンはビュワードに関わる全般、ベルグは身の回りの私的なこと、モイル兄弟は公的な執務の補佐と役目を分担するが、屋敷内のことをボレンとベルグに教わってから実際の執務を覚えるらしい。

「ビュワード様の部屋はこちらになります。一応私が調えさせて頂いたので、ご確認の上もし、不都合などあればご指示ください」

 開けられた扉を通り抜けたビュワードは、三間続きの部屋を見回し、満足そうに頷いてボレンの手を握る。

「すごくいいですね、気に入りました。ありがとうボレン」

 壁紙は明るいアイボリー、カーテンは濃いブルー地に細いストライプがランダムに入る落ち着きを重視した部屋である。
 控室の間の次にちょっとした執務ができる部屋、一番奥にプライベートな寝室。
濃紺のソファの下には、カーテンより少し明るめのブルーの絨毯が敷かれ、奥の寝室にあるベッドは薄いグレーのカバーがかけられているのが見えた。

「隣りの部屋は婚姻後ゴールディア様の部屋となります。それとこちらでも執務を行えますが、ビュワード様の執務室は一階に別途設えておりますので、後ほどご案内致します」

「え?ここが執務室ではないのですか」

 ルーサーとコーズは侯爵という貴族は皆こうなのか、それとも国内でも有数の富豪だからなのかと目をぱちくりしている。

「一休みなさった頃お迎えに上がります」
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