6 / 100
6話 ミヒアノカナシミ
しおりを挟む
イールズ男爵家では男爵夫人ミヒアがため息をついていた。
それも当然だ。
手塩にかけ育ててきた嫡男ディルーストを亡くしただけでなく、本来自分が行くべきところを自分の代理で寄合に行かせた夫シェードが激しく自分を責め、それが元で倒れてしまったのだ。
ディルーストには年の離れた弟がおり、今後は彼をイールズ商会の跡取りに育てねばならなくなった。
そして何より男爵を陞爵するほどの商会の経営を、倒れた夫の代わりに差配せねばならず、ディルーストを思って泣きたくてもその余裕はミヒアにはなかった。
とにかくクタクタだった。
それでも一月経とうという頃、もう一つ。
先送りにしてきたナミリアのことに、嫌嫌ながら目を向ける。
ミヒアは、シェードがディルーストに政略的結婚をさせると言い出した時、複雑な気分になった。
自分たちは元は平民、何に縛られることもなく自由に恋愛し、結婚と同時にふたりで商売を始めた。
商才に恵まれたふたりは、小さな商会をみるみる大きく育て上げ、貴族の端くれにまで成り上がったが、ミヒアは平民の頃の自由な心を失ってはいなかった。
だが気が進まないままディルーストと共にナミリアに会うと、それはそれは素敵な令嬢で、彼女とディルーストはあっと言う間に恋に落ち、幸せな結婚間違いなしだとミヒアの心も満たされたのだ。
ミヒアもディルーストと同じようにナミリアを大切に思い、彼女が嫁いでくれることを心から待ちわびていたというのに。
「ナミリアさん・・・」
ディルーストを亡くしたショックから、倒れたまま葬儀にも参列できず、気持ちの整理もつかずにいるだろうナミリアを思い、また深いため息をついた。
「ナミリアさんが来てくださるの?」
婚約の話に決着をつけねばならないと、一度会いたいとレンラ子爵に申入れていた返事が漸く返って来た。
動けないと聞いていたのだが、多少は回復したのだろうか?
それならいいのだがと、胸を撫で下ろす。
ミヒアはナミリアとの婚約を解消することが辛くてならない。
しかしディルースト亡き今、ナミリアの未来をイールズ商会に縛り付けるわけにはいかないと、自分の個人資産のほとんどをナミリアへの補償代わりに贈与することを決め、病床のシェードにも納得させた。
貴族の令嬢たちは二十歳を迎えると続々と結婚する。
年頃の良き相手となりそうな令息たちは、皆すでに結婚を控えた相手がいるものだ。これから新たに年齢も家格も釣り合う婚約者を探すことの難しさは、ミヒアもよくわかっていたので、万一ナミリアがこの先結婚しなかったとしても、自由に生きられるよう財産を渡してやりたいと考えた。
未だ何一つ片付けることなど出来ないディルーストの部屋を訪れては、壁に吊るされた、ナミリアのために一緒に選んだウェディングドレスを撫でる。
ナミリアがこれを着ることも、息子とふたり揃って立つことも二度とないと思うと、ミヒアの瞳からはらはらと涙が流れ出て、止まることはなかった。
それも当然だ。
手塩にかけ育ててきた嫡男ディルーストを亡くしただけでなく、本来自分が行くべきところを自分の代理で寄合に行かせた夫シェードが激しく自分を責め、それが元で倒れてしまったのだ。
ディルーストには年の離れた弟がおり、今後は彼をイールズ商会の跡取りに育てねばならなくなった。
そして何より男爵を陞爵するほどの商会の経営を、倒れた夫の代わりに差配せねばならず、ディルーストを思って泣きたくてもその余裕はミヒアにはなかった。
とにかくクタクタだった。
それでも一月経とうという頃、もう一つ。
先送りにしてきたナミリアのことに、嫌嫌ながら目を向ける。
ミヒアは、シェードがディルーストに政略的結婚をさせると言い出した時、複雑な気分になった。
自分たちは元は平民、何に縛られることもなく自由に恋愛し、結婚と同時にふたりで商売を始めた。
商才に恵まれたふたりは、小さな商会をみるみる大きく育て上げ、貴族の端くれにまで成り上がったが、ミヒアは平民の頃の自由な心を失ってはいなかった。
だが気が進まないままディルーストと共にナミリアに会うと、それはそれは素敵な令嬢で、彼女とディルーストはあっと言う間に恋に落ち、幸せな結婚間違いなしだとミヒアの心も満たされたのだ。
ミヒアもディルーストと同じようにナミリアを大切に思い、彼女が嫁いでくれることを心から待ちわびていたというのに。
「ナミリアさん・・・」
ディルーストを亡くしたショックから、倒れたまま葬儀にも参列できず、気持ちの整理もつかずにいるだろうナミリアを思い、また深いため息をついた。
「ナミリアさんが来てくださるの?」
婚約の話に決着をつけねばならないと、一度会いたいとレンラ子爵に申入れていた返事が漸く返って来た。
動けないと聞いていたのだが、多少は回復したのだろうか?
それならいいのだがと、胸を撫で下ろす。
ミヒアはナミリアとの婚約を解消することが辛くてならない。
しかしディルースト亡き今、ナミリアの未来をイールズ商会に縛り付けるわけにはいかないと、自分の個人資産のほとんどをナミリアへの補償代わりに贈与することを決め、病床のシェードにも納得させた。
貴族の令嬢たちは二十歳を迎えると続々と結婚する。
年頃の良き相手となりそうな令息たちは、皆すでに結婚を控えた相手がいるものだ。これから新たに年齢も家格も釣り合う婚約者を探すことの難しさは、ミヒアもよくわかっていたので、万一ナミリアがこの先結婚しなかったとしても、自由に生きられるよう財産を渡してやりたいと考えた。
未だ何一つ片付けることなど出来ないディルーストの部屋を訪れては、壁に吊るされた、ナミリアのために一緒に選んだウェディングドレスを撫でる。
ナミリアがこれを着ることも、息子とふたり揃って立つことも二度とないと思うと、ミヒアの瞳からはらはらと涙が流れ出て、止まることはなかった。
107
あなたにおすすめの小説
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる