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79話
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トリュースの推理には確証がない。
それを探し出すために密かに潜入するには、ジメンクス伯爵家の警備は厳しすぎた。
だが画商のドミーなら話は別だ。堂々と正面から屋敷に入り、美術品が置かれているあらゆる部屋へ侵入可能である。
「ドミーは今もジメンクスに呼ばれることはあるの?」
「呼ばれますよ。何だかんだ言って断ってましたが、こういうことなら行ってもいいですよ」
「そう言ってくれると思ってたわ。嫌な思いをさせてしまうけど」
「ふふ、奴らの破滅を牽引してやると思ったら楽しみで笑いが止まりませんよ」
何を想像しているのかわからないが、ニヤニヤが止まらない。
ドミー・ヘルムズがミヒアの支援で画商に成り上がり、数年経った頃だ。
絵を売りたいと言われてジメンクス家で査定したことがあった。
その絵画は間違いなく真作。あとで送ると言われ、金と引き換えというので安心していた。
しかし。
金を払って品を受け取り、梱包を開封したところ、あきらかに贋作としか言いようのない絵が入っていたのだ。
ドミーは勿論即座にジメンクスに乗り込んだが、アレンはけろりとした顔でドミーが買うと値をつけたのは間違いなく送ったあの絵だと言ってのけた。
─やられた!─
まさかこんなに堂々と貴族が詐欺行為を行うとは思わなかった己の甘さを、そして金を払う前に中身を確認しなかった己をしこたま罵ったあと、伯爵家を訪ねて当主グルプにも縋ってみたが、アレンの言葉を盾に、けんもほろろにあしらわれた。
ドミー如き平民の画商など、騙したとてほんの少しも心が痛むこともないのだ。
口惜しくてならなかった。
経済的なダメージは勿論だが、身分を傘に、はるかに弱い者を騙して金を奪い取るジメンクス親子への怒り。
しかも一度上手くいったことで、その後もアレンは何度もドミーを呼びつけた。
もう二度とその手には乗らないと、声がかかるたびにドミーは暫く帰れない旅に出た。
ふりではなく、本当に行った。
いなければアレンも諦めるしかないから。
相手は伯爵家だ。
下手なことをすれば、自分が返り討ちにあうと、消極的だが最善策と信じてそうしてきたが。
その積年の恨みを、晴らす機会がやって来るなんて!
「だらしない顔はお止めなさい。戻らなくなるわよ」
ミヒアに諌められてハッとし、笑って誤魔化す。
「ハハッ。大丈夫ですよ」
呟きながら、パンパンと両手で頬を叩いて。
「じゃあ早速仕込みますかな」
楽しそうに。
ドミーは飼い主の指示を待つ猟犬のように、落ち着きなく立ち上がった。
それを探し出すために密かに潜入するには、ジメンクス伯爵家の警備は厳しすぎた。
だが画商のドミーなら話は別だ。堂々と正面から屋敷に入り、美術品が置かれているあらゆる部屋へ侵入可能である。
「ドミーは今もジメンクスに呼ばれることはあるの?」
「呼ばれますよ。何だかんだ言って断ってましたが、こういうことなら行ってもいいですよ」
「そう言ってくれると思ってたわ。嫌な思いをさせてしまうけど」
「ふふ、奴らの破滅を牽引してやると思ったら楽しみで笑いが止まりませんよ」
何を想像しているのかわからないが、ニヤニヤが止まらない。
ドミー・ヘルムズがミヒアの支援で画商に成り上がり、数年経った頃だ。
絵を売りたいと言われてジメンクス家で査定したことがあった。
その絵画は間違いなく真作。あとで送ると言われ、金と引き換えというので安心していた。
しかし。
金を払って品を受け取り、梱包を開封したところ、あきらかに贋作としか言いようのない絵が入っていたのだ。
ドミーは勿論即座にジメンクスに乗り込んだが、アレンはけろりとした顔でドミーが買うと値をつけたのは間違いなく送ったあの絵だと言ってのけた。
─やられた!─
まさかこんなに堂々と貴族が詐欺行為を行うとは思わなかった己の甘さを、そして金を払う前に中身を確認しなかった己をしこたま罵ったあと、伯爵家を訪ねて当主グルプにも縋ってみたが、アレンの言葉を盾に、けんもほろろにあしらわれた。
ドミー如き平民の画商など、騙したとてほんの少しも心が痛むこともないのだ。
口惜しくてならなかった。
経済的なダメージは勿論だが、身分を傘に、はるかに弱い者を騙して金を奪い取るジメンクス親子への怒り。
しかも一度上手くいったことで、その後もアレンは何度もドミーを呼びつけた。
もう二度とその手には乗らないと、声がかかるたびにドミーは暫く帰れない旅に出た。
ふりではなく、本当に行った。
いなければアレンも諦めるしかないから。
相手は伯爵家だ。
下手なことをすれば、自分が返り討ちにあうと、消極的だが最善策と信じてそうしてきたが。
その積年の恨みを、晴らす機会がやって来るなんて!
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ミヒアに諌められてハッとし、笑って誤魔化す。
「ハハッ。大丈夫ですよ」
呟きながら、パンパンと両手で頬を叩いて。
「じゃあ早速仕込みますかな」
楽しそうに。
ドミーは飼い主の指示を待つ猟犬のように、落ち着きなく立ち上がった。
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