上 下
6 / 149
婚約者は見知らぬ人

第6話

しおりを挟む
 ビルス・シーズン公爵と国王は、ローリス親子を辺境に帰したあとも頻繁に顔合わせをしていた。

「辺境のやつらは相変わらず口が固くてな」

 ため息混じりに国王が愚痴る。
 国境を守る辺境伯家だけあって、屋敷の守りも鉄壁。使用人は忠義に厚く、入り込む隙も見せないため、ノーランの真実に近づくことは今のところ出来ていないまま。

「一体何を隠しているんでしょうな?」

 マトウ・ローリスとその息子は、親子関係を疑うほうが難しいほどに似ていた。
 しかし、何かが腑に落ちないのだ。

「うむ。唯一わかっているのは、どうやら隣国に返した妻がこどもを連れ帰ったらしく、それを取り戻してきたらしいということだ」
「それはいつ頃の話しですか?」
「けっこう前じゃないのか?噂されているらしいが、それが真実かもわからんのだ!本当にこんな時ばかり結束しおって忌々しい」

 その結束力が辺境伯ローリス家の強さなのだが、それ故に調べたいことが一向に明らかにならず、王の苛々が止まらない。
思いついたようにビルスが口を開いた。

「だとしたらノーランは頻繁に母のもとに行っているのかもしれませんね」
「だから呼び出しに応じることが出来なかった?」
「ええ。カーラに連絡しなかった理由はわかりませんが、来なかった理由はそれでしょう。隣国にいたらすぐには戻って来られないでしょうから。しかし辺境伯の嫡男が小競り合いを繰り返している隣国と懇ろというのは如何なものでしょう」
「それが知られるといろいろ言う者もいるだろうな、だから隠している?」

 残念ながら読みは大きく外れているが。
なんとなくそれが正解のような気がしてきた二人は、次の話に進むことにした。

「この状態で結婚させるのは、誠に心苦しいのだが」
「・・・では解消してくださいますか?」

 ビルスの目は感情を感じさせない。
腹の底では怒り狂っているが、不敬だとあえて感情を殺しているからだ。

「それは・・・すまない」



「カーラはどれほどローリスに疑問や不信があろうと毅然と立ち向かっております。それを命じたのは先代陛下と陛下、あなただ。陛下がブレればカーラは拠り所を失います。御心を強くお持ちください」

 ビルスの言葉に国王は思わず頭を垂れ、暫く黙っていたが、俯いたまま話し出した。



「万一だ、万一マトウや辺境伯家に重大な謀事が判明したら」

 次の言葉が放たれるのを、ビルスは慎重に待っている。

「・・・その時は、マトウを、そして現ローリス家を排し、北のボルブ家の次男ケリンガンをローリス辺境伯に任ずる」
「その場合カーラは」
「ケリンガンに娶せる」
「しかし、そちらにも王命の婚約者がいるのではありませんか?」
「それは別途検討すればよい、自由な立場の次男と辺境伯とでは嫁ぐ者が担う重さも違うからな。西のローリス辺境にはカーラが嫁ぐ。相手が代わってもだ」


 それだけは変えるつもりがないらしいと理解した、しかし、次の手を明かされたことで多少の安心を得ることができたビルスは恭しく頭を下げた。

 北部国境を守るボルブ辺境伯家は、北の人間らしく寡黙で生真面目な一族である。
 マトウや得体のしれないノーランよりはるかに信頼できると、むしろ謀事が見つかってほしいくらいにビルスは思っていた。
しおりを挟む

処理中です...