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婚約者は見知らぬ人
第5話
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初めて会う婚約者に感動したノーランとは違い、カーラは淡々としていた。
─何、こんなじろじろと見るなんてマナーが悪いわ─
控えの間にいたカーラは、ノーランとマトウが話した言い訳を聞いていたが、国王の言うとおり、代筆なりなんなりやりようがあるのにしなかったローリス辺境伯家は信頼に値しない人々と考えた。
カーラは気を引き締めると心する!
─残念だけど、これが私の使命ですもの。やり遂げるしかない・・・─
ローリス辺境伯家の者に気を許さず、警戒し続けなければならない。決して幸せな結婚とはならないだろうと予感したが。
「二人で庭園でも歩いて来るといい」
国王が勧めてくれ、カーラはノーランにエスコートを任せて歩き出した。
─ああまた!じろじろと嫌な感じだわ─
初めて会う婚約者からの視線だというのに、うれしいとはまったく思うことができない。
何故ならノーランのそれは、カーラにとって絡みつくような気持ち悪いもので、思わず視えない蜘蛛の糸をはらうように手を振ったあと、不自然な自分の動きを誤魔化すように、唐突に話しだした。
「漸く会えましたわね、ローリス様」
「はい、如何に怪我が酷かったとはいえ、これほどに時間がかかってしまったことをお詫び申し上げます」
丁寧に今更な謝罪をする婚約者を、熱く見つめるような振りをして、ノーランに怪我の痕跡を探す。
「お怪我をされたのはいつ頃ですの?」
「はい、あの、14歳の頃です」
「婚約した頃ですわね」
「そうなんです」
「そんな大変なお怪我をなさっていらしたなら、お報せ下されば。見舞いに駆け付けたかったですわ」
カーラに探られているとは思わず、ノーランは本物のノーランが羨ましく、また恨めしく思っていた。
こんなにも美しい婚約者に想われていることを。
─でも私の婚約者だ。この私の物になるんだ!絶対に手放さない─
歩きながら、当時の怪我の様子や今残る後遺症も心配そうに訊ねられると、ノーランは言葉を選んで答えていく。散々練習させられたことなので、簡単にボロを出すことはない。
カーラが数段の階段を登ろうとしたので、慌ててノーランは手を差し出した。
その手に自分の手を乗せたカーラが、そっと指を添わせるようにすると、ノーランの指先が合わせるように滑らかに動いている。
ペンがうまく持てないと言っていたはずなのに、無意識な反応までは注意を払っていないようだった。
「カーラ」
ビルスが呼んでいる。
ノーランに目配せし、父のもとに戻ると
「そろそろ帰館する。ノーラン殿にはまた近々会う機会があるだろうから」
そう言って腕を差し出したビルスがカーラをノーランから引き取ると礼儀正しく、ローリス辺境伯の嫡子に別れを告げた。
ノーランの名残惜しそうな視線を背に感じながら、カーラが小声で囁く。
「お父様、彼の指はちゃんと動いておりましたわ」
「うむ、怪我の件は陛下がお調べくださるようだ」
「そうですか。まあ私が見たところ嘘ですわね。でも一体何故そんな嘘をつく必要があるのかしら?」
シーズン公爵親子は、ローリス辺境伯に何か後ろ暗いことを感じていたが、それがまさか身代わりノーランだとは考えもしなかった。
─何、こんなじろじろと見るなんてマナーが悪いわ─
控えの間にいたカーラは、ノーランとマトウが話した言い訳を聞いていたが、国王の言うとおり、代筆なりなんなりやりようがあるのにしなかったローリス辺境伯家は信頼に値しない人々と考えた。
カーラは気を引き締めると心する!
─残念だけど、これが私の使命ですもの。やり遂げるしかない・・・─
ローリス辺境伯家の者に気を許さず、警戒し続けなければならない。決して幸せな結婚とはならないだろうと予感したが。
「二人で庭園でも歩いて来るといい」
国王が勧めてくれ、カーラはノーランにエスコートを任せて歩き出した。
─ああまた!じろじろと嫌な感じだわ─
初めて会う婚約者からの視線だというのに、うれしいとはまったく思うことができない。
何故ならノーランのそれは、カーラにとって絡みつくような気持ち悪いもので、思わず視えない蜘蛛の糸をはらうように手を振ったあと、不自然な自分の動きを誤魔化すように、唐突に話しだした。
「漸く会えましたわね、ローリス様」
「はい、如何に怪我が酷かったとはいえ、これほどに時間がかかってしまったことをお詫び申し上げます」
丁寧に今更な謝罪をする婚約者を、熱く見つめるような振りをして、ノーランに怪我の痕跡を探す。
「お怪我をされたのはいつ頃ですの?」
「はい、あの、14歳の頃です」
「婚約した頃ですわね」
「そうなんです」
「そんな大変なお怪我をなさっていらしたなら、お報せ下されば。見舞いに駆け付けたかったですわ」
カーラに探られているとは思わず、ノーランは本物のノーランが羨ましく、また恨めしく思っていた。
こんなにも美しい婚約者に想われていることを。
─でも私の婚約者だ。この私の物になるんだ!絶対に手放さない─
歩きながら、当時の怪我の様子や今残る後遺症も心配そうに訊ねられると、ノーランは言葉を選んで答えていく。散々練習させられたことなので、簡単にボロを出すことはない。
カーラが数段の階段を登ろうとしたので、慌ててノーランは手を差し出した。
その手に自分の手を乗せたカーラが、そっと指を添わせるようにすると、ノーランの指先が合わせるように滑らかに動いている。
ペンがうまく持てないと言っていたはずなのに、無意識な反応までは注意を払っていないようだった。
「カーラ」
ビルスが呼んでいる。
ノーランに目配せし、父のもとに戻ると
「そろそろ帰館する。ノーラン殿にはまた近々会う機会があるだろうから」
そう言って腕を差し出したビルスがカーラをノーランから引き取ると礼儀正しく、ローリス辺境伯の嫡子に別れを告げた。
ノーランの名残惜しそうな視線を背に感じながら、カーラが小声で囁く。
「お父様、彼の指はちゃんと動いておりましたわ」
「うむ、怪我の件は陛下がお調べくださるようだ」
「そうですか。まあ私が見たところ嘘ですわね。でも一体何故そんな嘘をつく必要があるのかしら?」
シーズン公爵親子は、ローリス辺境伯に何か後ろ暗いことを感じていたが、それがまさか身代わりノーランだとは考えもしなかった。
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