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ヴァーミル侯爵家の秘密

第6話

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「シーズン公爵家はまず、先代王弟が臣籍降下されて興された公爵家で、現当主はビルス様。今代コーテズ国王の従兄弟に当たる方で、その長女がカーラ様だ。リアもコーテズの貴族についてはよく知っているよな」
「・・・ええ。動向を知らなくてはノアを守れないから」

 息子たちがその会話を見守っている。

「そのカーラ様だが、王がローリス辺境伯家の嫡子に定めた婚約者なのだ」

 ガタッと椅子を跳ね飛ばすように立ち上がったのはノアランだ。

「なっ!カーラ様が私の婚約者?で、でもさっき父上は」
「ああ、偽物がいるから、このままでは偽物と結婚させられてしまうかもしれんが、なあ・・・どうしたものか」
「そんな!教えてあげないと、とんでもないことになってしまう」

 うろうろと歩き出したノアランを、キャメイリアは不安そうに、ヤーリッツは温かく見守っている。
キーシュは「そうだよな、にせものと結婚させられるなんて助けてあげないとかわいそうだよ」と、事情がわからないなりに弟を力づけていた。


「私がコーテズに行ってきます」
「ま、待ってよノア!行ってどうするの?貴方が本当のノーラン・ローリスだとでも言うつもり?」
「え?い、いや、偽物だと言うことだけ教えてあげたいと」
「何故偽物だとわかったか、どうやって説明するのよ」
「え・・・・・・」

 それもそうだ。
 本当のことをコーテズ側に知られたら、二度とシルベスに戻れなくなるかもしれない。

「じゃあ匿名の手紙でも出してやったら?相手は偽物だって。疑念があれば向こうでも調べると思うぞ」

 キーシュの提案に、家族みんな賛成した。

「では早速。シーズン公爵家に送ろう」

 ヤーリッツが手紙を書く支度を整えさせている間に、ノアランがおずおずと話しだした。



「母上、私はこのままヴァーミルのノアランとして、シーズン公爵家のカーラ様の協力を仰ぎ、ヴァーミルの花茶や装飾品でコーテズと交易をしたいと考えています。私がノーラン・ローリスだとは決して明かしませんから、ヴァーミルの発展のためにお許し頂けないでしょうか?」

 努めて冷静に、そこに恋心などほんの幾ばくも無いと言う体で話すノアランを、切ない表情でヤーリッツが見つめている。


 ─なんと複雑に拗れているのだろうな、かわいそうに。コーテズで名を明かせば焦がれた令嬢の真実の婚約者になれる。しかし、そうしたら今の家族や育った国を失うことになる─


 ノアランをこのような状況に追い込んだマトウ・ローリス辺境伯に、心の底からの憤りを覚えていた。
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