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夢は交錯する
第1話
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コーテズ王国では貴族界を揺るがす発表が為された。
ローリス辺境伯と偽息子の件が発覚し、謀叛として訴追されたこと。
カーラの婚約は最初から無かったものとされ、拠って王家からは迷惑料が、ローリス辺境伯からは慰謝料がカーラに支払われること。
ローリス辺境伯と偽物ノーランの罪状と、使用人たちにどこまで罪が及ぶのかは現在調査中であること。
新たな辺境伯はボルブ辺境伯家次男のケリンガンが継承すること。
そしてマトウの実子が今後名乗り出た場合。
まずマトウと偽ノーランの罪は、自らの預かり知らぬことで、離された実子を連座罪に問うことはない。
辺境伯家の嫡子が継ぐべき財産のうち、辺境伯家固有とは言えない、嫁してきた祖母や曾祖母の財産と保有される男爵位を移譲されることが発表された。
移譲される財産については、ケリンガンへの影響を小さくしつつ、どこまで渡せるかは国王が決めたようだ。
いくらマトウが王命を無視したとは言え、生まれた命が継承者として正しく権利を行使できなくなったのは、長きに渡る慣習を守ることに固執し、生まれたてのこどもを母から引き離すような判断したせいだからと。
事情を知った王妃や王女に、生まれて十日もしないうちに母から子を取り上げ、母を他国に返そうとしたなど、人間のやることではないと責められた先王は、そんなつもりはなかったと、手が離れてから帰すと思っていたと言い訳をしたが、さらに冷たく睨まれたものだが。その記憶があった現国王の配慮も含められていた。
さて、その日の夕方。
今日公示があるとビルスから聞かされていたカーラだが、まるで他人事のように出かけ、王都で店を探し疲れて帰ってきた。
歩き回ってくたくただと言うのに父ビルスが呼んでいるとビルスの侍従が迎えに来る。
「お呼びでしょうか?」
どうせ今日の公示のことだろうと、少々ムッとした顔で父を訪ねると。
「匿名でこれが届いた」
どうやらまったく違う話。
カーラは気持ちを切り替えて差し出された書状を覗き込んだ。
「なんですの?」
文面に目を通すと!
「まあ!これは」
「本物からの手紙だろうな。偽物になり替わられていると知り、カーラに報せてきたのだよ」
「でも名乗りをあげるつもりはないのですね」
「今の家族と静かに暮らしたいと書いてある。本音だろうな」
ビルスにもその気持ちはわかる。
散々振り回されてきたのだから。
見つかったら母と引き離され、コーテズに連れ去られると怯えて暮らしていただろうから。
「名乗ったら辺境伯にさせられちゃうと思っていらっしゃるのかもしれませんわね。もう大丈夫なのに。財産ももらえるのにいらないのかしら?」
「今日お触れが出たばかりだから、他国にいては当然わからないだろう」
「そうね、そうでしたわ」
「これは陛下には私から伝えよう」
愚かな実父と、浅慮な判断をした先王のために翻弄されたローリスの元妻と正当な嫡子を想い、ビルスは遠い目で窓の外を見上げた。
ローリス辺境伯と偽息子の件が発覚し、謀叛として訴追されたこと。
カーラの婚約は最初から無かったものとされ、拠って王家からは迷惑料が、ローリス辺境伯からは慰謝料がカーラに支払われること。
ローリス辺境伯と偽物ノーランの罪状と、使用人たちにどこまで罪が及ぶのかは現在調査中であること。
新たな辺境伯はボルブ辺境伯家次男のケリンガンが継承すること。
そしてマトウの実子が今後名乗り出た場合。
まずマトウと偽ノーランの罪は、自らの預かり知らぬことで、離された実子を連座罪に問うことはない。
辺境伯家の嫡子が継ぐべき財産のうち、辺境伯家固有とは言えない、嫁してきた祖母や曾祖母の財産と保有される男爵位を移譲されることが発表された。
移譲される財産については、ケリンガンへの影響を小さくしつつ、どこまで渡せるかは国王が決めたようだ。
いくらマトウが王命を無視したとは言え、生まれた命が継承者として正しく権利を行使できなくなったのは、長きに渡る慣習を守ることに固執し、生まれたてのこどもを母から引き離すような判断したせいだからと。
事情を知った王妃や王女に、生まれて十日もしないうちに母から子を取り上げ、母を他国に返そうとしたなど、人間のやることではないと責められた先王は、そんなつもりはなかったと、手が離れてから帰すと思っていたと言い訳をしたが、さらに冷たく睨まれたものだが。その記憶があった現国王の配慮も含められていた。
さて、その日の夕方。
今日公示があるとビルスから聞かされていたカーラだが、まるで他人事のように出かけ、王都で店を探し疲れて帰ってきた。
歩き回ってくたくただと言うのに父ビルスが呼んでいるとビルスの侍従が迎えに来る。
「お呼びでしょうか?」
どうせ今日の公示のことだろうと、少々ムッとした顔で父を訪ねると。
「匿名でこれが届いた」
どうやらまったく違う話。
カーラは気持ちを切り替えて差し出された書状を覗き込んだ。
「なんですの?」
文面に目を通すと!
「まあ!これは」
「本物からの手紙だろうな。偽物になり替わられていると知り、カーラに報せてきたのだよ」
「でも名乗りをあげるつもりはないのですね」
「今の家族と静かに暮らしたいと書いてある。本音だろうな」
ビルスにもその気持ちはわかる。
散々振り回されてきたのだから。
見つかったら母と引き離され、コーテズに連れ去られると怯えて暮らしていただろうから。
「名乗ったら辺境伯にさせられちゃうと思っていらっしゃるのかもしれませんわね。もう大丈夫なのに。財産ももらえるのにいらないのかしら?」
「今日お触れが出たばかりだから、他国にいては当然わからないだろう」
「そうね、そうでしたわ」
「これは陛下には私から伝えよう」
愚かな実父と、浅慮な判断をした先王のために翻弄されたローリスの元妻と正当な嫡子を想い、ビルスは遠い目で窓の外を見上げた。
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