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夢は交錯する

第2話

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「じゃあ私は心置きなく、商会の仕事に没頭させていただきますわ!」
「あ、これも届いていたぞ」

 国王の玉印が捺されている。
ということは謝罪文と迷惑料が決まったのだろうと、カーラは読んだ。

 ─早く部屋で開けてみなくちゃ─

 滑るような早足で廊下を抜け、部屋へ飛び込むと封を切る。
中の書状を引き出して広げようとしているカーラに、留守番をしていたエイミが話しかけた。

「カーラ様、どこか良い店は見つかりましたか?」
「そうねえ、気に入ったところはいくつかあるのだけど、城に近すぎる所は良くないと思うし、遠すぎるのはもっとダメだし」

 まったくそちらを見ることもなく、エイミに答えを返す。

「あら、城に近すぎたらダメですか?」
「本当に城のすぐそばなのだけど、馬車や馬の通りが多すぎて、あれではどれほど便利でも落ち着かないし、埃がすごかったの。馬具を扱うような店ならいいかもしれないけど、美しいアクセサリーを見せる環境とは言えないわ」

 カーラの答えを聞いて、思っていたよりちゃんとした考えで選んでいたのだと、ナラは感心した。

「遠すぎるのはダメ。気に入った店は2軒あったけど、明日もう一度行って、馬車寄せを裏に作れるか確認してから決めるつもり・・・っ!すごっ!」

 カーラが指先で何かを数えている。

「あら!ふっ、ふふふっ!まあまあね!」

 そして拳を握りしめた。


「「どうなさいましたの?」」
「これ、見て!陛下とローリスからの迷惑料!」
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃくまん、せんまん、お・・・・く?」
「ええっ!」
「合わせて4億マレン?」
「13歳から4年だから御二方から1年1億マレンってことね。私の青春捧げたのだし、今更同格の婚約者なんて見つからないのだから、安い気もするけど」
「そ、そうですか?かなり凄いと思いけど」

 エイミがぼんやりと指折りしながらまだ桁を数えている。

「まあ、気持ちの問題ね。でもこれなら広い方の店を買ってもいいわね」




 4億マレンという金額の半分以上を辺境伯、もといマトウの個人資産で負担するため、迷惑料はあくまでも次代当主となるケリンガンの体制に影響が出ない程度の額と決まっている。

「2億マレン以上払っても痛くも痒くもないなんて、やっぱりすごいわね辺境伯って」

 ナラはエイミと囁きあう。

「でも本当に凄いと思うのは、それを足りないとさらりと言うカーラ様かもしれないわ」
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