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夢は交錯する
第11話
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ちらちらと父子は互いを見ながら、何か言いたそうな顔をしている。
カーラが来たら品質を上げた花茶を飲ませようと楽しみにしていたノアランも、とてもそれどころではない。
「話が随分と逸れてしまいましたわね。そのようなわけで、私の婚約はそもそもお相手がいなかったのだからと無かったものとされ、慰謝料を頂いたのですわ!まるで私に商会を起こさせるために支払ってくださったみたいにどーんと」
ふふっと笑うカーラに、ノアランは寂しい気持ちを覚えている。
名乗るわけではないにしても、どこかで本当の婚約者という肩書きに支えられていたのかもしれない。
「ヴァーミル様、だからあの花茶!たくさんお譲りくださいませね!私、コーテズで売り切ってみせますわ」
「も、勿論、たくさんお買い求めいただけるようにと準備しております。今日も花茶をお出ししたかったのですが」
話が盛り上がりすぎて、すっかり遅くなってしまった。
今日はそろそろと腰を上げたカーラを、名残惜しそうに見たノアランが、新しいパッケージに包まれた花茶を持たせてやる。
「これをどうぞ。シーズン様に言われたように、花びらの色や大きさを揃えて作ったもので、以前より格段に美しい色と香りになっていますから」
「まあ、可愛らしい包装だわ!ありがとうございます!」
差し出されたカーラの手に茶を乗せた時、指先が触れて、はっとノアランが手を引いた。
カーラは花茶に気を取られていたが、カーッと顔を染めたノアランが、暑いのか焦って長い髪を耳にかけると耳まで赤い。
ふとナラは違和感を感じた。
─何かしら、今なにか─
思い出そうとするのだが、頭のどこかに引っかかって出てこない。
─何を見て、何が変だと思ったのかしら─
屋敷の中、目の前のヤーリッツやノアランを不躾なほど見たが、胸のつかえはどうしてもわからなかった。
「それではまた三日後に」
妻と長男の予定を調べさせて、とっととカーラと次の約束を取り付けたヤーリッツも、エントランスまで見送りに来た。
「何かお困りのことなどがあれば、その際に相談してください」
宿のコテージに戻ったカーラは、ナラの様子がおかしいことに気がついた。
「ナラ、お茶を入れてくれる?」
「はい」
お湯を沸かして、もらったばかりの花茶をゆっくりと蒸らすと、ガラスのティーポットの中で花びらが開いていく。まるで魚が泳ぐようにひらひらと動きながら。
「本当にきれいねえ」
「しかも美味しいのですから」
「ええ。ねえ、ガラスのティーポットがあるんだから、ティーカップもあるのかしら?見たことある?」
「「さあ?」」
侍女たちは首を傾げた。
名の知れた絵師が美しい模様を描き入れたティーカップは、それを持つこと自体がステイタスである。
ガラスにしてしまったら確かに花茶の色はよくわかるが、それを貴族が喜ぶだろうか?
「やってみようかしら」
侍女たちの心配をよそにカーラは迷わなかった。
カーラが来たら品質を上げた花茶を飲ませようと楽しみにしていたノアランも、とてもそれどころではない。
「話が随分と逸れてしまいましたわね。そのようなわけで、私の婚約はそもそもお相手がいなかったのだからと無かったものとされ、慰謝料を頂いたのですわ!まるで私に商会を起こさせるために支払ってくださったみたいにどーんと」
ふふっと笑うカーラに、ノアランは寂しい気持ちを覚えている。
名乗るわけではないにしても、どこかで本当の婚約者という肩書きに支えられていたのかもしれない。
「ヴァーミル様、だからあの花茶!たくさんお譲りくださいませね!私、コーテズで売り切ってみせますわ」
「も、勿論、たくさんお買い求めいただけるようにと準備しております。今日も花茶をお出ししたかったのですが」
話が盛り上がりすぎて、すっかり遅くなってしまった。
今日はそろそろと腰を上げたカーラを、名残惜しそうに見たノアランが、新しいパッケージに包まれた花茶を持たせてやる。
「これをどうぞ。シーズン様に言われたように、花びらの色や大きさを揃えて作ったもので、以前より格段に美しい色と香りになっていますから」
「まあ、可愛らしい包装だわ!ありがとうございます!」
差し出されたカーラの手に茶を乗せた時、指先が触れて、はっとノアランが手を引いた。
カーラは花茶に気を取られていたが、カーッと顔を染めたノアランが、暑いのか焦って長い髪を耳にかけると耳まで赤い。
ふとナラは違和感を感じた。
─何かしら、今なにか─
思い出そうとするのだが、頭のどこかに引っかかって出てこない。
─何を見て、何が変だと思ったのかしら─
屋敷の中、目の前のヤーリッツやノアランを不躾なほど見たが、胸のつかえはどうしてもわからなかった。
「それではまた三日後に」
妻と長男の予定を調べさせて、とっととカーラと次の約束を取り付けたヤーリッツも、エントランスまで見送りに来た。
「何かお困りのことなどがあれば、その際に相談してください」
宿のコテージに戻ったカーラは、ナラの様子がおかしいことに気がついた。
「ナラ、お茶を入れてくれる?」
「はい」
お湯を沸かして、もらったばかりの花茶をゆっくりと蒸らすと、ガラスのティーポットの中で花びらが開いていく。まるで魚が泳ぐようにひらひらと動きながら。
「本当にきれいねえ」
「しかも美味しいのですから」
「ええ。ねえ、ガラスのティーポットがあるんだから、ティーカップもあるのかしら?見たことある?」
「「さあ?」」
侍女たちは首を傾げた。
名の知れた絵師が美しい模様を描き入れたティーカップは、それを持つこと自体がステイタスである。
ガラスにしてしまったら確かに花茶の色はよくわかるが、それを貴族が喜ぶだろうか?
「やってみようかしら」
侍女たちの心配をよそにカーラは迷わなかった。
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