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第一章・始動編
これからのこと
しおりを挟む「カミラさんはこれからどうするの?」
女王との謁見を終えて客間に戻ったジュードは、出迎えてくれたカミラと軽く一言二言交わしてから早速本題に入った。彼はこれからミストラルに帰り、そしてまたこの王都まで戻らなくてはならない。あまりゆっくりしていられないのだ。
ジュードから向けられた問いにカミラは「う、うん」とぎこちなく言葉に詰まると、そっと視線を下げる。
昨日の彼女の話が全て真実なら、カミラはこれから他の神殿に行かなければならない。しかし、風の国と水の国はともかく、地の国グランヴェルは当然今も完全鎖国の状態のまま。
そこまで考えると、ジュードは一度部屋の出入り口に視線を投げる。「言わないで」とカミラに言われたこともあって、結局アメリアに魔族のことを伝えるには至らなかった。彼女の言うように、今の状況で魔族が現れたなどと伝えればどうなってしまうことか。決して、良い状況にならないことだけはわかる。
そこでカミラに向き直ると、彼女にひとつ提案を向けた。
「じゃあさ、よかったらこれから一緒にミストラルまで行かない?」
「えっ?」
「オレの家に、地の国から来た人がいるんだ。あの国は今は完全鎖国の状態だから入国できないんだけど……その人に頼めば、もしかしたら何とかしてくれるかもしれない」
カミラは、その言葉に瑠璃色の目を丸くさせて数度瞬く。迷惑だったかとジュードの胸にほんのりと不安がよぎった時、ふとカミラが改めて視線を下げた。その頬がほんのりと赤く見えるのは、恐らく気のせいではないだろう。
「でも、いいの? わたしずっと迷惑しかかけてないのに……」
「迷惑だって思ってたらこんなこと言わないよ。それに……これでも大変な事態だってことはわかってるつもりだからさ、力になれるならなんだってするさ」
「あ、ありがとう……本当に、ありがとう……」
そう何度も礼の言葉を告げながら、カミラは大粒の涙を零れさせた。
本当は魔族のことを女王に報告するべきなのだろうが、伝えれば瞬く間に国中に――否、世界中に魔族の襲来とヴェリア王国の滅亡が伝わってしまう。勇者の子孫が魔族に負けたという事実は、世界中を絶望に突き落としてしまう可能性がある。自分一人の判断で動くには、どうにも難しい。
「(けど、大変な話になったな。依頼の話は父さんもウィルも予想してるだろうけど、魔族のことは……やっぱりカミラさんに許可を取ってから、父さんたちにだけは相談しよう)」
そんな時に頭に浮かぶ頼れる存在といえば、ジュードにとっては父のグラムや兄代わりのウィルだ。グラムはジュードにとって絶対的な存在であるし、ウィルは頭の回転が速く大変博識だ。二人ならばどうすべきか教えてくれるだろうと判断して、ジュードはカミラに片手を差し出した。
「じゃあ行こう、カミラさん。馬車を出してくれるって話だからさ」
「うん!」
カミラは片手で涙を拭うと座していた椅子から立ち上がる。そして彼に駆け寄り、差し出されたその手をしっかりと握った。
グラムの身の回りの世話をするために来たという話だったから、ルルーナはまだ自宅にいるはずだ。彼女に頼めば、地の国に入国するためのいい方法を教えてくれたり、口利きしてくれるかもしれない。
そうすれば、カミラは残りの神殿に行って早々にヴェリア大陸に戻れるはずだ。
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