蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
47 / 230
第三章・影の協力者

思いがけない出会い

しおりを挟む
 水の王都シトゥルスに到着した時には、すっかり夜になっていた。
 本来ならクリークの街から三時間と少し程度で到着する道だが、雪で思うように進めず普段の倍近い時間を要することになってしまった。現在の時刻は、もう少しで二十時を回る頃だろう。

 早々に宿をとって身を休めたいところだが、この時間ならばまだ店もやっている。馬車を降りたジュードたちは、そのまま近くの店をいくつか見て回ることにした。


「うーん……」


 雑貨屋や武器防具屋では、様々な系統の装飾品を取り扱っていることも多いのだが、運悪くどれもこれも売り切れだった。

 それらの装飾品には鉱石が使われており、持ち主の能力を高めてくれる効果があるという。とは言え、その効力はほんの気休め程度、雀の涙と表現するに相応しい程度でしかないのだが。
 そのため、懐に多少の余裕がある者だけがファッション感覚で購入するくらいだ。

 それなのに、そのあまり価値のない装飾品がどこも品切れというのは些か腑に落ちなかった。どういうことなのかと店主に聞いてみたところ、


「ああ、ここ最近は雪の影響で採掘作業がストップしててねぇ……どこも売り切れだよ。普段は誰も見向きもしないのになかなか手に入らなくなるかもってなると、みんなこぞって買って行っちまったよ」


 ――とのこと。
 どうやら、この季節外れの雪の影響で鉱石の採掘作業に影響が出ているらしい。
 ということは、つまり。


「じゃ、じゃあ、今はアクアマリンとかサファイアは……売って、ない?」
「ああダメダメ、間違っても入荷しないよ。そのふたつの鉱石がよく採れるボニート鉱山にはここのところ魔物が増えちまってね、もう一ヵ月くらいは作業が止まってるんだ」


 あっさりと告げられた言葉に、ジュードもウィルも目の前が真っ暗になるようだった。
 必ず鉱石を手に入れてくるとメンフィスに伝えたのに、結局手に入りませんでしたなんて言えるわけがない。


 その一方で、店内の商品を見て回っていたルルーナは、カウンターの方から聞こえてくるジュードたちのやり取りに軽く眉尻を下げる。紆余曲折あってようやく水の国の王都までやってきたわけだが、雲行きは怪しい。


「(陛下にお願いしても駄目かしら、あの方なら事情を話せばある程度は……)」


 ルルーナは地の国の貴族だ、当然王族とも関わりがある。
 特に、ここ水の国の王リーブルは人情に厚く、非常に穏やか。まさに温厚篤実おんこうとくじつで知られる立派な王だ。決して話のわからない相手ではない。

 しかし、そこまで考えてルルーナは眉を寄せる。彼女の傍らで同じように店内の商品を見ていたカミラは、そんな彼女に軽く小首を捻った。


「ルルーナさん、難しい顔してどうしたの?」
「ああ……いいえ、何でもないわ。ちょっと嫌なことを思い出しただけ」


 疲れたように額の辺りに片手を添えて呟くルルーナを、カミラはきょとんとしながら不思議そうに見つめる。
 すると、そこへ耳慣れない声がひとつ届いた。


「……あら? そこにいらっしゃるのはルルーナさんではありませんこと?」


 それは、よく通る美しい声だった。
 だが、ルルーナは隠すでもなく表情を嫌悪に歪めながらそちらに目を向ける。カミラは不思議そうに瞬きを打ち、彼女の視線を辿った。

 その先には、水色の長い髪を持つ一人の可愛らしい女性が立っていた。まっすぐに伸びた長い髪を頭の左側、高い位置で結い上げている。肌は白く、睫毛も長い。ぷっくりとした桜色の唇は艶やかで、ナチュラルなメイクは多少なりとも幼い印象を持たせる。
 そんな彼女の後方には、黒い髪を両側頭部でお団子にまとめた無表情の少女が立っていた。ルルーナは嫌そうに表情を歪めたまま、紅の目を細める。


「……奇遇ね、こんなところでアンタに会うなんて。また男漁りでもしてたのかしら」
「何のことでしょう? わたくしがそのようにはしたない真似をするはずがありませんわ」


 肉眼で捉えることは叶わないが、カミラには両者の間に火花が散っているように見えた。


「おーい、カミラ、ルルーナ。そろそろ宿に……」
「あ、ジュード、ウィル……」


 そんな時、カウンターの方からウィルの声が聞こえてきた。カミラはその声に反応して、身体ごとそちらに向き直る。取り敢えず、このままここでグダグダ言っていても状況は何も進まない。まずは宿をとってそれから考えようと思ってのことだったのだが――

 ルルーナと睨み合っていた少女は彼女の肩越しにジュードとウィルの姿を確認するなり、途端にほんのりと頬を染めて目の前にいるルルーナの身体を押し退けた。カミラはその様子に目を丸くさせ、ルルーナは疲れ果てたように深い深いため息をひとつ。


「ジュード様に、ウィル様と仰いますのね? まあ……なんて素敵な殿方なのでしょう……」
「はあぁ?」


 頬と目元を朱に染めて二人に近づく彼女を見て、疑問たっぷりの声を洩らしたのはジュードやウィルと共に店主と話していたマナだ。あんぐりと口を開けて彼女と、その後ろに見えるルルーナとカミラを交互に見遣る。


「ああ、またオリヴィアの悪い病気が出た……」
「わ、悪い病気? オリヴィアさんって、あの人のこと……?」
「ええ、オリヴィアはあの通り根っからの男好きでね。若い男を見るとすぐああなるのよ。……ちなみに、あんなんでもこの国の王女なの」


 さらりと世間話の延長のように告げられた言葉に、一拍遅れてジュードたちの視線はルルーナに向けられた。
 だが、特に訂正が返らないところを見ると――その情報は嘘偽りなどではなく、本当のことなのだろう。ルルーナはこうした冗談の類を好んで口にするタイプでもない。


「……王女さまああぁ!?」


 誰よりもいち早く状況を理解して、裏返りそうな声で叫んだのはマナだ。
 一国の王女が城下をふらふらしているのにも驚いたが、その王女が「男好き」というのはどうなんだと一概には信じられなかった。

 絶句したように見返してくるジュードたちを前に、オリヴィアはにっこりと可愛らしく微笑んだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...