蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
65 / 230
第三章・影の協力者

シヴァとイスキア

しおりを挟む

「具合はどうだ」
「だ、大丈夫みたいです、……ええと、シヴァ、さん?」


 青みがかった白銀の長い髪、体質なのか男性にしては白い肌。瞳は落ち着いたアイスブルーをしている、その色はカミラの瑠璃色よりもやや明るい。長い前髪から覗く双眸には、しっかりとした意志が宿っているように感じられた。シヴァと呼ばれていたこの男は、イスキアのように女性的ではないが、独特の美しさを持っている。まるで人形のような。


「そう、アタシはイスキア、こっちの朴念仁ぼくねんじんがシヴァよ、ヨロシクね♡」
「誰が朴念仁だ」
「他にいないじゃない」


 目の前で軽い口論を始めた二人を見て、ジュードはひとつ安堵を洩らした。
 彼らから敵意は感じられないし盗賊らしき雰囲気もない。やはり悪人ではないようだ。オネェ――イスキアはジュードとしてはやや怖いが、深入りさえしなければ必要以上に懐きはしないだろう。そうであってほしい。


「シヴァさんとイスキアさんが、オレを助けて……くれたんですか?」
「そうよ、川辺に倒れていたのを拾ったの。濡れてたから勝手に服は脱がせて乾かしちゃってるけど……うふうふうふ♡」
「心配するな、脱がせたのは俺だ。コイツには何もさせていない、触るなとも言ってある」


 口元に手を添えて何やら怪しい笑いを洩らすイスキアに、ジュードはサッと蒼褪めて力なく頭を振るが、隣にいるシヴァが即座にフォローを入れてくれた。目で生き物を殺せそうなほどの鋭い視線でイスキアを睨み付けているが、当の本人はどこ吹く風といった様子。


「シヴァの独占欲が強くってアタシ困っちゃうわ、心配しなくても浮気なんかしないから安心してちょーだい」
「寝言は寝て言え」


 ハートでも飛ばしそうなほど甘えた声で告げるイスキアを、シヴァは間髪入れずにバッサリと言葉で斬り捨てる。ジュードはそんなふたりを暫し呆然と眺めていたが、程なくして小さく笑う。そんな彼に、シヴァとイスキアもそちらに視線を向けた。


「す、すみません。なんか……気が抜けて」
「うふふ、笑えるのはいいことよ。思った通り、笑っても可愛いわねぇ~!」
「近付くな!」


 飛びつこうとするイスキアに対し、シヴァは変わらず鋭い視線を向けたままその頭を押さえる。当然イスキアは不満そうな声を洩らすのだが、シヴァがその手を離すこともなく。
 どうやら、二人にとってはこれが常としたやり取りらしい。


「あ、あの。助けてくれて、ありがとうございました。オレはジュード、……ジュード・アルフィアです。それで、あの」
「どうしたの?」
「倒れてたのはオレだけ……ですか? 仲間がいるんですが……」


 今現在ここにいるのはジュードだけ。カミラやウィルたちの姿がどこにも見えない。ジュードの言葉にシヴァとイスキアは互いに顔を見合わせたが、すぐに視線を戻すとシヴァが頷いた。


「そうだ、お前だけだ。他の者の姿は見えなかったが」
「そんな……」


 では、みんなはどうなってしまったのか。魔族にやられてしまったのか。悪い想像ばかりがジュードの頭を駆け巡る。あの魔族の力は凄まじいものがあった。一撃二撃で、力量の差をまざまざと感じてしまうほど。

 あれからどうなったのか、なぜ自分は川辺で倒れていたのか。ジュードの記憶には欠片も残ってはいない。難しい顔で俯いてしまったジュードに、イスキアはそっと笑うと落ち着いた声色で言葉を向けた。


「……ジュードちゃん、もう少し休みなさいな。大丈夫よ、あなたのお友達はちゃんと探しておいてあげるから」
「でも……」
「お友達に疲れきった顔なんて見せられないでしょ? 今のあなたは休むのが仕事、……ね?」


 先ほどまでの、どこか頭のネジがぶっ飛んだような様子とは一変。穏やかな表情と声色で言葉を向けてくるイスキアに、ジュードは目を向ける。確かに、身体は依然としてあらゆる箇所が痛む。意識こそハッキリしてはいるが本調子とは言えず、多少なりとも眩暈に似た感覚が残っていた。こんな状態、イスキアの言うように仲間には見せたくはない。また心配をかけるだけだ。
 そこまで考えて、やがてジュードは小さく頷いた。


「本当はベッドでもあればよかったんだけど、この小屋はちょっとした休憩用みたいでね、付いてないのよ。ごめんね、ジュードちゃん」
「いえ、そんな……充分です、ありがとうございます。……みんなのこと、よろしくお願いします」


 確かに、この小屋はとても簡素なものだ。暖炉と小さなテーブルくらいしかない。
 ジュードは、仲間のことを思いながらシヴァとイスキアに頭を下げた。それを見てイスキアはにっこり笑うと、そっと彼の肩を撫で叩く。まるで幼子でも寝かしつけるように。

 身体も頭も依然として疲れが抜けないのか、ジュードは零れそうになった欠伸を喉奥で噛み殺すと毛布に包まったまま身を横たえる。睡魔はすぐに訪れた。


「……」


 程なくして小さな寝息が聞こえ始めると、イスキアは目を細めて笑う。
 次に暖炉の前に置いた衣服の傍、そこにある小型のカバンへと視線を移した。中には必要最低限の道具と薬、武器に装着する用の台座、そして採掘したばかりの鉱石がいくつか入っている。


「……それで、お前の心配事の方は?」
「この台座の文字を見る限りだと……問題なさそうね、鉱石が持つ魔力を具現化させる配列だわ。おかしなものではないみたい」
「ふむ」


 イスキアは台座のひとつを手に取ると、その表面をじっくりと注視する。けれど、その口からは早々に安堵が洩れた。シヴァはそんな相棒の傍らに寄ると、暗い色をした石を拾い上げる。研磨されていない、魔法も込められていない原石の状態ではただの石ころに見えるが、これこそが氷の魔力を秘める石、サファイアだ。
 それを見て、イスキアは軽く眉根を寄せると双眸を半眼に細めた。


「ちょっとシヴァ、何するつもり?」
「魔法武器とやらに問題がないなら、俺たちの役目はこの小僧を陰ながら助けることだろう。これもその内のひとつだ」
「あーあ……アタシ知~らない……」


 シヴァがぐ、と鉱石を軽く握り込むと、手の中にあるサファイアが美しい青の輝きを放った。刹那、握り込まれたサファイアを中心に猛吹雪のような冷風が巻き起こったが、それもほんの一瞬のこと。すぐに鳴りを潜め、代わりについ先ほどまで石ころのようだった鉱石がほんのりと青白い輝きを纏う。

 イスキアはその様を呆れたような面持ちで眺めていたが、特に何も言うことはなかった。無言のまま渡された青く光る石を受け取り、それをジュードのカバンの中に戻していく。


「……これからは魔族が表立って動いてくるわね」
「ああ、サタンも完全ではないが復活したようだな」


 シヴァは淡々とした口調でそう返答すると、眠るジュードへと視線を投げる。イスキアは相棒の言わんとすることを察し、ひとつ小さく頷く。そして真剣な表情で改めて口を開いた。


「この子がサタンに喰われてしまったら、世界は内部から崩壊するわ。それだけは何としても阻止しなければ……蒼竜ヴァリトラのためにも」


 イスキアのその言葉に、シヴァは言葉もなく頷いて目を伏せる。

 時刻は深夜に差し掛かろうとする頃。
 外は、猛吹雪になっていた。まるで先の未来の波乱を暗示するかのように。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...