蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
94 / 230
第四章・精霊

白の宮殿と紅の玉響

しおりを挟む

 ふわふわと脳が浮くような奇妙な感覚を受けながらジュードが目を開けると、そこは見覚えのない場所だった。けれど、なぜだか既知感がある。

 床も柱も天井も、それら全てが白で統一された宮殿か何かのような空間。辺りをぐるりと見回してみても、何ひとつ覚えはないはずなのに懐かしかった。正面に見える大扉を潜れば、確かそこにはたくさんの花が咲く庭園があって、後ろの扉は宮殿の外に通じている。両脇の扉の先にはそれぞれ長い渡り廊下があり、色々な場所に通じている――ような気がした。

 王都ガルディオンでもなければ、風の国の王都フェンベルでもない。ここはどこだっただろうか。
 ジュードがどれだけ思い出そうとしても、わからなかった。確かな懐かしさはあるものの、ここがどこで、いつこの場に来たことがあるのか思い出せない。


『……?』


 そんな時、正面の大扉から人が出てきた。ジュードは思考を止めて、半ば反射的にそちらに目を向ける。

 それは、紅色の髪をした人間だった。長い髪を纏めることなく後ろに流している。男性なのか女性なのかは――その容姿があまりにも整い過ぎていて判断できなかった。背はジュードよりもほんの少し低い。その姿を見た時、どくりと全身が鼓動を打ったような錯覚に陥った。


『あ、あの……』


 何をどう言えばいいのかもわからなかったが、とにかく不法侵入してしまったのなら謝らなければとジュードが口を開きかけた時、当の相手はそっと片手の人差し指を立てて自らの口唇前に添え置き、微笑んだ。静かに、とでも言うように。たったそれだけの所作さえ例えようもないくらいに美しくて、ジュードはまた鼓動が跳ねるのを感じた。

 そうして、さっさと踵を返して再び扉の奥へと向かう。肩越しにジュードを一度振り返り、目を細めて笑う様子から「ついてこい」と言われているようだった。

 大扉の先は緑が生い茂る見事な庭園で、吹き抜けの高い天井からは陽光が惜しみなく降り注ぐ。左から、春、夏、秋、冬の四季の花が順に並び、訪れる者を歓迎するように咲き誇っている。そんな中で、くだんの紅の人物は、あるものを放ってきた。

 下から投げられ緩やかな放物線を描いてジュードの元に飛んできたそれは、ひと振りの木刀のようだった。


『……え? いや、あの――!?』


 えっ、えっ、とジュードが状況を飲み込めずに木刀とそちらとを何度か交互に眺めていると、相手はにこりと穏やかに微笑んだまま同じ木刀を手にするなり、飛びかかってきた。


 * * *


 次にジュードが目を覚ました時、そこは王城の客間だった。窓から射し込む夕陽の影響で、天井にほんのりと橙の色が差す。焦点が定まらない目を何度か瞬くことで合わせていくと、程なくして視界いっぱいに夕陽にも負けないほどの鮮やかな橙色と、対照的な黒が飛び込んできた。


「わうっ!」
「ジュード!? 気が付いた!?」
「……マナ、ちびも」
「よかった……でも、なんか疲れてない?」
「いや、何でもないよ……」


 それは、マナとちびだった。ジュードが無事に目を覚ましたことに安堵を洩らす彼女を見遣りながら、ジュードは寝台の上にむくりと身を起こす。ずっと眠っていたはずなのにどこか疲れているような様子に、マナは不思議そうに小首を傾げた。

 まさか夢の中でも戦ってました、なんて言う気にもなれず適当にはぐらかしてしまうと、そのまま寝台を降りる。

 結局、夢の中でなぜか誰とも知らない相手と戦うことになってしまったが、まったくと言っていいほどに相手にならなかった。とにもかくにも、力、速さ、それに技術。全てに於いてジュードの何倍も上だった。悔しいと思う気さえ湧いてこないほど。


「(そもそも夢だし……)」


 夢というあやふやなものの中で起きたことだ、考えたところでどうしようもない。
 しかし、そうは思うが、ただの『夢』と片付けられない点もある。ジュードは以前、吸血鬼と戦った後に不気味な森の夢を見たが、それは後に正夢になった。そう何度も同じことがあるとは思えないが、引っ掛かりを覚えたのは確かだった。


「……マナ、あれからどうなったんだ? ウィルたちは?」
「負傷した人たちの確認と、手当ての手伝いに出てるわ。城の一階に避難所が作られたから、みんなそこにいると思う。……行けそう? ジュードが動けそうなら、話したいことがあるの」
「ああ、大丈夫だけど……話したいことって?」


 四肢の確認をしてみたが、特に重い怪我はなさそうだった。多少なりとも鈍痛は走るが、動くのに支障はない。シヴァがどうしているかも気になるが、マナの言葉を聞けば疑問が湧くのは当然のこと。ジュードは身体ごとマナに向き直ると、その先を待った。


「……カミラさんのこと。あの戦いの最中も終わってからもどこにも姿が見えなくて、ウィルがあちこち聞き込みをしたんだけど、その……魔族の襲撃がある前に、変わった男と一緒に都を出て行くのを見たって人がいたのよ」
「――!」
「騎士団の人の話だと、ここ最近若い女の人を騙す悪い男がいるそうだし、あたし心配で……ジュードが起きたら、ちびにカミラさんの匂いを辿ってもらって探しに行こうって話をしてたの」


 マナの言葉に応えるように、寝台の傍ではちびがお座りをしながら「わう」とひとつ吠えた。イヴリースと戦うのに必死で、確かにカミラのことまではそう気を回せていなかったが、まさかそんなことになっていたとは。


「(変わった男……まさか、あの時一緒にいたあいつ……?)」


 前線基地に向かう前、彼女はジュードの記憶にない男と一緒にいた。話が終わったらその男と一緒に都の中に消えて行ったくらいだ。ハッキリと覚えている。

 騎士団が言っていたらしい『悪い男』があの男だとは限らないが、最悪の展開を考えて確かに探しに行った方がいいだろう。ヴェリアから来た彼女のことだ、魔族の襲撃があったことも知りたがるに違いない。

 そこまで考えて、ジュードはマナやちびと共に客間を飛び出した。
 なんとなく、言葉にし難い嫌な予感がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...