蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

mao

文字の大きさ
105 / 230
第五章・火の神器レーヴァテイン

先代の所有者

しおりを挟む

 女王アメリアとの謁見を終えて屋敷に戻ったジュードは、ライオットと共にその内容を仲間たちに話すことにした。時刻は既に夕刻、橙色の太陽が今日も山の向こうへと沈んでいく。


「神器?」


 追放されなかったこと、これからも協力を頼まれたこと、そして魔族と戦うために必要になる神器のこと。その中で彼らが真っ先に反応を見せたのは、やはり耳慣れない“神器”というもののことだった。ウィルは考えるように視線を中空に投げながら、ぽんと軽く手を叩き合わせる。


「神器って……あれか、伝説の勇者様と一緒に戦った仲間が使ったっていう……」
「えっ、そんな話あったっけ?」
「お前がよく見るおとぎ話には書かれてないよ、あれはほとんど子供向けなんだから。神器のことが記されてるのは魔法学の本だとか歴史書だ。お前嫌いだろ、勉強」
「うっ……」


 どうやらジュードが知らなかっただけで、多少は神器に関する話も書物の中で出回っているようだ。ライオットは仲間が食事をするテーブルの上に座り、そっと安堵らしき吐息をひとつ。


「話が通じそうなのがいて助かるに、マスターがここまでダメダメだとは思わなかったによ……」
「悪かったな……」
「でも、私もあまり聞いたことないわねぇ。そもそも、魔大戦って本当にあったことなの? 神器が伝説の勇者の仲間が使ったものなら、それを知ってるアンタは……勇者一行と面識があった、……ってこと?」


 ルルーナのその言葉に、ジュードたちの視線は一斉にライオットに集まった。彼女の言うようにライオットの言葉が全て本当のことなら、確かにそうなる。すると、ライオットはミニキャロットをショリショリと食べながら至極当然のことのように頷いてみせた。


「当然だに、ライオットは勇者にも姫巫女にも、その仲間にも会ったことがあるによ。一緒に戦った仲間だに」
「……ものすごく胡散臭いんだけど」
「し、失礼だに! 本当だに!」
「そう言われても、ね……」


 ルルーナもマナも、互いに困ったように顔を見合わせる。確かに、伝説となっている者に実際に会ったことがあるなどと言葉で言われてそうそう信じられるものではないのだが。

 けれど、その一方でジュードやカミラは何やら目を輝かせてライオットを見つめている。ウィルは対照的な彼らの反応に内心でため息を洩らし、リンファは相変わらず無表情のままライオットの話に耳を傾けていた。


「それで、神器ってのはどこにあるんだ?」
「この世界の東西南北には、精霊たちが住まう神殿があるに。そこにあるによ」
「それが、その……もし神器を取りに行くなら、オレも行かなきゃ駄目らしいんだ」
「ジュードが? どうして?」


 それは、ライオットが謁見の間でアメリアやメンフィスに神器の所在を尋ねられた時のこと。

 神器は、この世界の東西南北にある神殿に眠っている。けれど、神殿は精霊族の血を持つ者にしか、その扉を開くことはない。精霊族は北国の森の奥深くに住んでいるが、表に出てこない彼らに協力を頼むのは時間がかかる上に困難を極める。しかし、ジュードがいればその問題は難なくクリアできるのだ。

 難しい話が得意ではないジュードは途中から話半分だったが、そこまで思い返して困ったように力なく頭を振った。


「女王様はグランヴェルに行く手筈も色々と整えてくれてるみたいなんだけど、ライオットの話だと火の神殿はここから遥か南でさ。グランヴェルとはほぼ真逆なんだよなぁ……」


 地の国グランヴェルは、この王都ガルディオンの北東に位置している。火の神殿が遥か南にあるなら、ジュードの言うようにほぼ真逆のようなものだ。それに、地の国グランヴェルは五国の中で一番領土が広く、街から街への距離も非常に長いため移動にひどく時間がかかるのが特徴だった。
 すると、カミラは慌てたように頭を横に振る。


「あ、あの、わたしの用事はあとでいいよ。早く大陸に戻ってヴェリアの民を説得しないととは思うけど、魔族と戦うために神器が必要ならそっちも大事なことだもの」
「でも……本当にいいの?」
「うん、いいの。あとでパールに魔法を込めるね、その神器っていうものを使える人が見つかるまでの繋ぎになるといいんだけど……」


 ジュードに諭され仲間に勇気を出して歩み寄ったお陰か、カミラの心も随分と落ち着いたようだった。これまでの焦りは既にそれほど見受けられず、自分から協力を申し出るくらいには余裕が出てきたらしい。


「じゃあ、まずは神器が先? きっと騎士団が部隊を編成して行くのよね、メンフィスさんやシルヴァさんも一緒なのかな。それなら安心してジュードのこと任せられるんだけど……」
「そうですね、魔族の狙いがジュード様なら、いつまた襲ってくるかわかりませんし……」


 魔族との戦いを左右するような貴重なものを取りに行くのだ、恐らくは騎士団の精鋭部隊が用意されるのだろう。ジュードが共に行く必要はあっても、その仲間まで一緒に行けるとは限らない。できることなら同行したいというのが本音だが、ウィルたちの中には不安ばかりが募った。


「それにしても、神器かぁ……モチは先代の所有者も知ってるんだよな。使い手を選ぶってくらいだから参考までに聞きたいんだけど、この火の国にある神器はどういう人が使ってたんだ?」
「そうね、どういう人が選ばれるのか気にはなるわよね」
「マスターのせいですっかりモチって呼ばれるようになったに……」


 ライオットはすっかり定着してしまったあだ名に否定や訂正をするだけの元気もなく、深い深いため息をひとつ。しかし、それ以上の文句を口にすることはせず、ミニキャロットを食べ終えて膨れた腹を軽く擦りながら改めて口を開いた。


「火の神器の前の所有者は、グラナータっていうおかしな男だったによ。けど、すごく頭がよくて面白いやつだったに」


 ライオットのその言葉に、ジュードやウィルはもちろんのこと、その場にいた全員が固まった。
 ――この世界に生きる者たちで、グラナータの名を知らない者はいない。
 同時に、稀代の天才博士と謳われる彼ほどの者でなければ、神器の所有者として認められることはないのだと――彼らにそう思わせるには、充分すぎる情報だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

処理中です...