蒼竜世界の勇者 -魔物と心を通わす青年の世界救済の旅-(リメイク版)

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第六章・風の神器ゲイボルグ

世界を形作るもの

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 旧ヴェリア王国跡地にどっしりと鎮座する闇の居城内部、謁見の間に呼び出されたアグレアスたちはおもてを伏せて微かに震えていた。彼の隣には火のイヴリース、風のヴィネアなど、これまでに失敗してきた仲間たちの姿もある。いずれも、咎めを恐れるかの如くずっと閉口したままだ。

 玉座に腰掛けるアルシエルは、そんな彼らを頬杖をつきながら見据える。暫しそうしていたものの、見るからに怯えを滲ませる様子にふっと小さく笑った。


「そう固くならずともよい、別に咎めるために呼んだわけではない。しかし……お前たちが揃いも揃って撃退されるとは、なかなか手強いようだな」
「も、申し訳ございません……」
「アルシエル様、今一度この俺が! 今度こそ、必ず!」
「アグレアスか、ふむ……わかった、お前の好きなようにするといい。今が絶好の機会なのだ、期待しているぞ」


 強面の顔に憤りを乗せて立ち上がるアグレアスを見れば、アルシエルは一度何事か考えるように黙り込んでからひとつ頷きを返した。すると、その言葉にイヴリースもヴィネアも不思議そうに瞬きを打つ。

 今が絶好の機会とは――聞いてもいいものか否か、判断に迷うようにそれぞれの顔色を窺う様を見てアルシエルは玉座に身を預け直した。


「この世界には、四神柱ししんちゅうと呼ばれる忌まわしき存在がいるのだ。奴らはその名の通り、神を支える四つの柱……各大精霊どもが一体化することで誕生する。――イヴリース、お前が火の都で会ったというシヴァもそのうちの一人だ」
「あの男が……!?」
「だが現在、地の神柱は眠りにつき、水の神柱は失われている。奴らの戦力が大幅に下がっている今が好機なのだ、これを逃す手はないだろう」
「なんと……そうでしたか! お任せください、今度こそ必ずや!」


 アグレアスは背負っていた大剣を手に取ると、意気込むように一度床に強くその鞘を叩きつける。その一撃は王城を揺らし、アグレアスが決して生半可な気持ちで言い出したわけではないことを物語っていた。


 * * *


 謁見の間を後にした彼らは、暫し口を開くことなく黙々と歩いていたが、通路の突き当たり、二階部分のテラスに一人の男の姿を見つければ自然と足は止まる。先頭を歩いていたヴィネアはその可愛らしい顔を不愉快そうに歪めると、大股でそちらまで歩み寄った。


「ちょっと、フォルネウス? ヴィネアちゃんたち、今アルシエル様に呼ばれてたんですけど。お前、今の今までいったいどこにいましたの?」
「……」
「聞こえてますの!? わたくしたちエレメンツの中でまだ行動すらしていないのはお前だけですわ!」


 彼ら四人は、アルシエル直属の部下だ。
 ――地のアグレアス、火のイヴリース、風のヴィネア、そしてこの水のフォルネウス。けれど、これまで積極的にジュードを襲撃したのは前者の三人だけで、フォルネウスは一切の行動を起こしていない。ヴィネアにはそれが大層不満だった。

 彼らに見向きもせず、ただただテラスから景色を眺めていたフォルネウスは無感情の相貌でヴィネアを振り返ると、汚らしいものでも眺めるように彼女を見下ろした。床につきそうなほどに長い白銀の髪が、その身からじわりと放出される魔力にゆらりと揺れる。


「口を開くな、貴様の声は耳障りだ」
「んな……ッ!? なんですってぇ!?」


 フォルネウスがひとたび言葉を紡げば、まるで怯えるかのように大気が微かに震えた。アグレアスとイヴリースはそれを感じ取り思わず息を呑んだが、頭に血が上っているヴィネアはそれを感知できなかったらしい。聞き捨てならないとばかりに金切り声を上げた。

 刹那――人一人を軽々と沈められそうな水球がヴィネアの身を包み込み、彼女をその中に閉じ込めてしまった。ヴィネアは酸素を求めて苦しげに四肢をバタつかせたが、水球はそんな彼女を嘲笑うかの如くその身をずぶずぶと沈めていく。


「フォルネウス! よせ!」


 イヴリースが咄嗟に声を上げると、当のフォルネウスは彼女を一瞥した末にひとつため息を洩らす。それと共に水球は爆ぜ、辺りに水飛沫をまき散らした。解放されたヴィネアは床に四つん這いになり、何度も空咳を繰り返す。フォルネウスはそんな彼女を睨み下ろした。


「勘違いするな、私がここにいるのはあくまでも目的が同じというだけのこと。貴様らに命令などされる謂われはない」


 そして、それだけを吐き捨てるように呟くとふわりと宙に浮かび上がり、そのまま空高く舞い上がってしまった。アグレアスとイヴリースは、自分たちでも気づかないうちに入っていた肩の力を抜き、安堵に近い息を洩らす。認めたくないことだが、本能が恐怖を感じていた。


「(アルシエル様は何も仰らないが、あの男……いったい何者なのだ。あれほどの力を持っているとは……)」


 フォルネウスが飛び去った方を見つめて、イヴリースは複雑そうに唇を噛み締めた。

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