131 / 230
第六章・風の神器ゲイボルグ
残りの神器の在り処
しおりを挟む「マスターには呪いがかけられてるかもしれないに」
メネットたちが用意してくれた朝食を食べる最中、ライオットのその言葉にジュードは思わずガシャンとフォークを落とした。仲間たちは「余程ショックなんだろう」と思ったが、ジュードの内心はそれとは少しばかり異なる。
何とか平静を取り戻したのに“呪い”という一言を聞けば、昨夜のあの宮殿での出来事を嫌でも思い出してしまう。自分の特異体質の原因がわかったのは非常に大きい収穫だったが、それ以上に受けた衝撃があまりにも大きすぎた。思い出せばカッと瞬時に顔面に熱が募ってしまいそうなくらいに。
「たぶん、魔法を受け付けないのはそれが原因だけど……すごく高度な呪いだに。解呪の方法はライオットにはわからないに……」
「そ、そう……でも、原因がわかっただけでもよかったと思うよ」
「カミラさんって、あの死霊文字をどうにかできるんでしょ? それと同じように解呪もできないのかしら」
「で、でも、その解呪に使うのも魔法だから……解呪の魔法そのものを受け付けないと思う……」
仲間たちのそんなやり取りを聞きながら、ルルーナは初めてジュードに会った時のことを思い返していた。
ジュードの「魔法を受け付けない」という体質は、補助的なものや回復魔法さえ毒になる。ひとたびかければ高熱を出すだけでなく、それらの魔法は彼の身に何の恩恵も与えず、弾かれてしまうのだ。最初に回復魔法をかけた時がそうだったと、ルルーナは確かに記憶していた。カミラの解呪の魔法とて同じく弾いてしまうだろう。
「グルゼフには大きな図書館があったはずです、時間の許す範囲で調べてみるのもいいかもしれません」
「そうだな、我々の任務はあくまでも書状を届けることだが、国王陛下との謁見にどれだけ日数がかかるかは不明だ。その間に調べてみようか」
リンファの言葉に、ルルーナはそこでようやく生まれ故郷が近付いているのだと実感が湧いてきた。彼女自身の目的はジュードたちに一度たりとも話したことはないが、王都に――グルゼフに戻ればようやく終わる。
そしてわかる。母がどうしてジュードを求めていたのか、その理由が。
自分に生き別れの弟がいるなんて話は聞いたことがないし、可能性があるとすれば、やはり彼が持つ力のことだろう。しかし、それをどうするのか賢い彼女にも見当がつかない。
だが、その謎がやっと解けるのだと思うと肩の荷が下りるようだった。
* * *
トリスタンやメネットたちに見送られ、温泉旅館を後にしたジュードたちは、再び馬車で遥か北を目指す旅路へと戻った。地の国の王都グルゼフはまだ遥か遠く、あまりのんびりもしていられないのだが、移動中にできることなどそう多くない。
馬車の手綱は、これまで通りシルヴァが握っている。ジュードは馬車の小窓から外の景色を見遣りながら、手元に広げた地図を時折見下ろした。ここから北に向かうとパルウムという名の村があるらしい。旅館から村までそれほど距離はなさそうだ、今日はその村で必要な道具類などの調達を済ませて先に向かう方がいいだろう。
そこまで考えて、ジュードは御者台に繋がる扉を開いた。
「シルヴァさん。そういえば、投獄されたヒーリッヒさんって、どうなったんですか?」
「あの男は両手を拘束したまま今も王都の地下牢にいるはずだ、また例の文字を刻まれたら困るとメンフィス様が判断されてな」
ヒーリッヒは、あの騒動の後、騎士団に捕まり王都の地下牢に投獄されることとなった。幸いにも親方をはじめ、他の鍛冶屋たちにも大事はなく、ヒーリッヒのしでかしたことには一切関わっていなかったため、手柄を焦った彼の独断ということで話がついている。しかし、シルヴァはそこで「だが」と続けた。
「あの文字をどこで知ったのか、一切口を割らないのだ」
ヒーリッヒが刻んだあの死霊文字は、多くの学者たちが何百年かけても見つけることができなかったものだ。それを学者でも何でもないヒーリッヒが知っていたというのはおかしい。シルヴァのその返答にライオットはちびの頭の上に伏せたまま小さく唸った。
「死霊文字は魔族が使う言語だに。ヒーリッヒはたぶん、どこかで魔族と接触したんだによ。その情報を与えた魔族をどうにかしないと……またどこかであんなことが起きるかもしれないに」
ライオットの話を聞きながら、ウィルは手元に戻ってきた本や今まで纏めたノートをパラパラとまくる。あれだけ探しても見つからなかったこれらの本は、ヒーリッヒの自宅から発見された。つまり、彼が持ち出していたということに他ならない。
何ともやりきれない想いを抱えながら、思考を切り替えていく。この場にいない者のことをあれこれ想像してもどうにもならない。ウィルは意識を切り替えてしまうと、改めてライオットに目を向けた。
「それで、この国にも神殿はあるんだろ? 使い手がいるかどうかはともかく、地の神器も取りに行っといた方がいいのかな」
「そっか、これからあちこちの国を巡るんだもの。一応手に入れておいて損はないわよね、もしかしたら途中で使い手が見つかるかもしれないし……」
「神器は……あといくつあるんだったっけ?」
仲間たちのそのやり取りを聞いて、ライオットはしょぼんと軽く顔を俯かせる。相変わらずのふざけた顔だが、なんとなく元気がないことだけはわかった。
「……神器は、ひとつはマナが持ってるから残りは五つだに。けど、今の状況だと全部は手に入らないに」
「えっ、そうなの?」
「地の大精霊タイタニアは事情があって眠りについてるし、水の大精霊にも……今は会えないに。だから、残りはシヴァとイスキアが持つ氷と風の神器と、雷の大精霊トールが持つ雷の神器だけだに」
「三つか……その雷の大精霊ってどこにいるんだ?」
イスキアやシヴァとはこれまでに遭遇もしたが、トールという名には聞き覚えがない。雷の大精霊と言われても、この世界には火、水、風、地、そして光の国しかなく、雷の国というものは存在しないのだ。ジュードの言葉にライオットは小さく頷いた。
「トールはイスキアの相棒だに、イスキアが国を離れてる時は風の神殿を守ってるはずだによ。ミストラルに書状を届けに行った時についでに寄ってみるに」
「わかった、……シヴァさんとイスキアさんにも途中で会えたらいいんだけどな」
シヴァとイスキアの二人には、何だかんだと陰で支えられてきた。次に会えたら今度こそ礼をと思いながら、ジュードは再び馬車の小窓に目を向ける。村はまだ見えてこなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる